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プロローグ
突然の婚約破棄 3
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「なんだと? 理解できないというのか? この僕がここまで自分の考えを懇切丁寧に教えてやっているのに。君という女性はどこまで頭が固くて融通が利かないんだ? それでも、僕のそばで国の未来を支える国母になるかもしれないのに」
「だから、わかりません!! なるかもしれない、そんなあやふやな未来で、愛を語らないでクレイグ!!!」
「ええい……もういい!! うるさいっ、いつもいつも小言ばかり言うお前など、真実の愛など持ってない違いない!! 婚約など知るか!! その顔など二度と見たくない、さっさとこの王国から出て行くがいい! ……今すぐにだ」
「ひどい‥‥‥っ!? 勝手に婚約破棄を叫んだ上に、国内から追放すると? いいですよ、わかりました。クレイグ、もう、限界よ!!‥‥‥残念ですが王太子殿下! あなたには愛想が尽き果てましたので、ただいまをもって絶縁させて頂きます! これにて失礼っ!!」
凛としたそのとどめを刺す声が、二人が通うシャルディア魔法学院の大広間に響き渡った。
騒然とする生徒や学院で働く教師・侍従や衛士たちの驚きの視線を集めたのは、まだ若い。燃えるような苔桃色の長髪の少女。十七歳の次期王太子妃補、ライデセン侯爵令嬢アンナローズだった。
その怒りの発言を一身に受け、黒髪の若者はショックのあまりにふらついて床に崩れ落ちそうになっていた。
この程度のことで情けない。アンナローズは怒り心頭のまま冷たい言葉をぶつけてしまう。
「あら、殿下。殿方がそのような情けない恰好なんて何か言い訳の一つでも出てくるかと思いましたけど、何も言い返せないのであればこれにて失礼いたします。ご機嫌よう、我が最愛の……。いいえ、元最愛の人! さようならっ!!」
それだけ告げるとアンナローズはせいせいしたわと鼻息一つ荒くして、王太子に背を向けて歩き出す。
見ていられないとばかりに壁にかけられた人物画の中の人物までもが、その手で目を覆い隠す中、誰もがアンナローズを無礼だと言い止めようとはしなかった。
それだけ彼女の怒りは凄まじく、激しい剣幕にあっけに取られた聴衆は……正直、関わりたくなかった。
「待ってくれ、アンナローズ! 僕を見捨てないでくれ!!」
そんな情けない声が王太子本人から上がることから考えても、これは王太子妃補が正しい。
むしろ、先ほどまでの周囲を唖然とさせた王太子の言動が、周りからの同情を失わせていた。
自分から出て行けと叫んでおいて、見捨てるな。
その発言が、周りの彼に対する同情を一掃したのはいうまでもなかった。
颯爽と学院の大広間を飛び出たアンナローズは、廊下を曲がるとそれまでの優雅さとはかけ離れた速度で走るように歩き出した。
「このままじゃ、我が家につく前に捕まって投獄されてしまうわ。そんなことになったら――打ち首なんてまだ嫌!!」
なんとか学院の裏側で待つ、侯爵家の馬車とその護衛たちのいる場所までたどり着かなくてはならない。
少女の心臓は、汽笛を鳴らす列車のように早鐘を打っていた。
「だから、わかりません!! なるかもしれない、そんなあやふやな未来で、愛を語らないでクレイグ!!!」
「ええい……もういい!! うるさいっ、いつもいつも小言ばかり言うお前など、真実の愛など持ってない違いない!! 婚約など知るか!! その顔など二度と見たくない、さっさとこの王国から出て行くがいい! ……今すぐにだ」
「ひどい‥‥‥っ!? 勝手に婚約破棄を叫んだ上に、国内から追放すると? いいですよ、わかりました。クレイグ、もう、限界よ!!‥‥‥残念ですが王太子殿下! あなたには愛想が尽き果てましたので、ただいまをもって絶縁させて頂きます! これにて失礼っ!!」
凛としたそのとどめを刺す声が、二人が通うシャルディア魔法学院の大広間に響き渡った。
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その怒りの発言を一身に受け、黒髪の若者はショックのあまりにふらついて床に崩れ落ちそうになっていた。
この程度のことで情けない。アンナローズは怒り心頭のまま冷たい言葉をぶつけてしまう。
「あら、殿下。殿方がそのような情けない恰好なんて何か言い訳の一つでも出てくるかと思いましたけど、何も言い返せないのであればこれにて失礼いたします。ご機嫌よう、我が最愛の……。いいえ、元最愛の人! さようならっ!!」
それだけ告げるとアンナローズはせいせいしたわと鼻息一つ荒くして、王太子に背を向けて歩き出す。
見ていられないとばかりに壁にかけられた人物画の中の人物までもが、その手で目を覆い隠す中、誰もがアンナローズを無礼だと言い止めようとはしなかった。
それだけ彼女の怒りは凄まじく、激しい剣幕にあっけに取られた聴衆は……正直、関わりたくなかった。
「待ってくれ、アンナローズ! 僕を見捨てないでくれ!!」
そんな情けない声が王太子本人から上がることから考えても、これは王太子妃補が正しい。
むしろ、先ほどまでの周囲を唖然とさせた王太子の言動が、周りからの同情を失わせていた。
自分から出て行けと叫んでおいて、見捨てるな。
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「このままじゃ、我が家につく前に捕まって投獄されてしまうわ。そんなことになったら――打ち首なんてまだ嫌!!」
なんとか学院の裏側で待つ、侯爵家の馬車とその護衛たちのいる場所までたどり着かなくてはならない。
少女の心臓は、汽笛を鳴らす列車のように早鐘を打っていた。
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