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第八章
解雇予告
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こんなに毒を持った性格だったかしら、ケイトってば。
後ろを付いてくる侍女の顔を振り返りつつ、二人がやって来たのは教育棟がある棟とは真反対の、生徒たちが憩いの場所としてる喫茶店や料理屋、その他、服から武器までなんでも揃う、貴族向けのモールのような建物だった。
その一角に、建物の奥まった場所を利用して小さな隠れ家のようなカフェがある。
そこは二人のお気に入りの店で、ちょうど席も空いていたから彼女たちは慣れた仕草で座り、いつものものを、と定番となったメニューを注文していた。
「続き出る気がしないけど、ケイトはいいの?」
「別に。あの人も少しは理解してくれるから」
「そう。良いわね……」
アズライル王子のそれとは大違い。
彼なら今日の失態を耳に擦れば、さぞ叱りつけるだろう。
貞淑とは、貴族の娘の義務とは、妻としてあるべきとは。
そんなどうでもいいようなことにばかりこだわる、十一歳年上の彼に、当時のアイリスは辟易していた。
ついでにあの女伯爵が、わがもの顔で彼を独占するようになったのも――この頃だったな。
なんてアイリスは過去を思い出し、心に染み込む虚しくもなつかしさをもったそれを大事に抱き締めていた。
「オンセド男爵、になるんだっけ。ヴィクターは」
「そうよ。帝国に戻るから君も来ないかなんて誘われてるけど――でもね」
じろりとにらまれて、アイリスは首をすくめる。
実家の侯爵家を一つの国だとしたら、ケイトの家系は伯爵家。
いわば国務大臣というかそんな役職だ。
主の娘が王太子妃補になるのならば、恥ずかしくない身分の侍女も必要。
そう考えたアイリスの両親が、身内でも上級貴族であるケイトを望んだのはごく自然ないきさつだった。
「わたしは――構わないわよ、ケイト」
「え?」
「あなたを束縛しても、結婚する約束がある殿方がいるのなら……その幸せを一番にして欲しいと思うの」
そんな返事が戻って来るなんてケイトは思ってもみなかったのだろう。
驚きと呆れとそんなものが混じった顔で、ポカンっと口を開けてかたまってしまった。
運ばれてきた梨のパフェがケイトのお気入りだったが、その生クリームが芳醇な梨の果汁で器の外に漏れ出そうとしていても、ケイトはただただ呆然としたままだった。
「落ちそうよ、それ」
「あ、ああ。そう、ね……驚いてしまって」
「そう? とにかく食べましょう。もったいないわ」
「ええ」
いきなりすぎてびっくりさせたかしら。
でもここでこの子をヴィクターの元に行かせれば、二年後のあの事件に巻き込むことはないはず。
代わりの誰か。
新たな侍女になった別の貴族子女がその災難に巻き込まれる可能性なんてまったく考えず、アイリスはこれ美味しいわね、と相変わらず食欲だけは旺盛にパフェを頬張っていた。
後ろを付いてくる侍女の顔を振り返りつつ、二人がやって来たのは教育棟がある棟とは真反対の、生徒たちが憩いの場所としてる喫茶店や料理屋、その他、服から武器までなんでも揃う、貴族向けのモールのような建物だった。
その一角に、建物の奥まった場所を利用して小さな隠れ家のようなカフェがある。
そこは二人のお気に入りの店で、ちょうど席も空いていたから彼女たちは慣れた仕草で座り、いつものものを、と定番となったメニューを注文していた。
「続き出る気がしないけど、ケイトはいいの?」
「別に。あの人も少しは理解してくれるから」
「そう。良いわね……」
アズライル王子のそれとは大違い。
彼なら今日の失態を耳に擦れば、さぞ叱りつけるだろう。
貞淑とは、貴族の娘の義務とは、妻としてあるべきとは。
そんなどうでもいいようなことにばかりこだわる、十一歳年上の彼に、当時のアイリスは辟易していた。
ついでにあの女伯爵が、わがもの顔で彼を独占するようになったのも――この頃だったな。
なんてアイリスは過去を思い出し、心に染み込む虚しくもなつかしさをもったそれを大事に抱き締めていた。
「オンセド男爵、になるんだっけ。ヴィクターは」
「そうよ。帝国に戻るから君も来ないかなんて誘われてるけど――でもね」
じろりとにらまれて、アイリスは首をすくめる。
実家の侯爵家を一つの国だとしたら、ケイトの家系は伯爵家。
いわば国務大臣というかそんな役職だ。
主の娘が王太子妃補になるのならば、恥ずかしくない身分の侍女も必要。
そう考えたアイリスの両親が、身内でも上級貴族であるケイトを望んだのはごく自然ないきさつだった。
「わたしは――構わないわよ、ケイト」
「え?」
「あなたを束縛しても、結婚する約束がある殿方がいるのなら……その幸せを一番にして欲しいと思うの」
そんな返事が戻って来るなんてケイトは思ってもみなかったのだろう。
驚きと呆れとそんなものが混じった顔で、ポカンっと口を開けてかたまってしまった。
運ばれてきた梨のパフェがケイトのお気入りだったが、その生クリームが芳醇な梨の果汁で器の外に漏れ出そうとしていても、ケイトはただただ呆然としたままだった。
「落ちそうよ、それ」
「あ、ああ。そう、ね……驚いてしまって」
「そう? とにかく食べましょう。もったいないわ」
「ええ」
いきなりすぎてびっくりさせたかしら。
でもここでこの子をヴィクターの元に行かせれば、二年後のあの事件に巻き込むことはないはず。
代わりの誰か。
新たな侍女になった別の貴族子女がその災難に巻き込まれる可能性なんてまったく考えず、アイリスはこれ美味しいわね、と相変わらず食欲だけは旺盛にパフェを頬張っていた。
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