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第八章
再会したは良いけれど
しおりを挟む「……ごめんなさいっ!」
あの後。
アイリスは大神官に命じられて退席を余儀なくさせられた。
なぜか共に騒いだという理由により、ケイトも一緒に「出ていけ」と言われてしょんぼりと席を立つ。
背後でバダンっと重苦しい音がして樫製の大きな古めかしい扉が閉じられてしまった。
最初に声をかけたのはケイトからなのに――なんてアイリスのぼやきは通用しない。
ケイトの怒りの視線としっかりと腰にあてられたひじの角度が、本気で怒っているなーとアイリスに理解をもたらした。
「あなたねえ、何考えているのよまったく。考えなしに抱き着いたりして、時と場合ってものを選んでちょうだいな。分かったの、アイリス?」
「あ、ええ、そうねケイト。分かっているわ……ごめんなさい」
「ならいいのだけど」
その言葉には納得も許しも許容もなかった。
虫の居所が悪いケイトは、これじゃ戻ろうにも戻れないじゃない。
そんな愚痴とともに、ぷりぷりと怒りを発散しながらそれから廊下でのお説教。
十分近くも続いて聞く方としてもうんざりとし始めた頃、ようやくケイトは口を閉じた。
「……ヴィクターが、まだ中にいたの?」
「そうよ! 彼がまだ……いるわ。せっかく残り少ない時間を過ごせる貴重なチャンスだったのに」
「そう、なん――いえ、そうね。それはごめんなさい」
「どうやって放課後にヴィクターと貴方の恋人を引き合わせることにするか名案を思付いたのに。何もかもがダメになりそうだわ」
「わたしの恋人って……」
その一言はどこかにさっと風にでも流れていったのだろう。
ケイトはアイリスの言葉にを耳にとめることはなく、どうしようかしら困ったわ。なんてぼやきを連発している。
「あなたが変な叫び声をあげて歓びさえしなかったら、あのままうまくいったのに」
「それはごめんなさい」
さっきから何度頭を下げたことだろう。
この親友であり、幼馴染であり、学友であり、王太子妃補の侍女でもある友人に。
身分、というものを考えるならそれはそれで大問題なのだが、アイリスの受けた印象は少し違っていた。
この子、こんなに愚痴を言う子だったかったかしら?
いつものケイトは水のようにしなやかで穏やかで、それでいて怒ると洪水のような苛烈さをみせる。そんな女性だったはずなのに。
沈着冷静、という二文字がよく似合った侍女にはまるでそぐわない光景だ。
やはりここは夢の中。もしかしたら幾つも存在する似たような並行世界があるとサティナに聞いたことがあったから、それのどこかかもしれないとも思ってしまう。
このまま廊下で高いヒールの重たいドレスのまま、ずっと立ちっぱなしでお説教というのも実は辛かったりするのだ。
見えないように、低級の回復魔法でその痛みをリカバリーはしているが。
「どうしたらいいかしら」
「あーねえ、ケイト? ここにいても講義はまだまだ続くでしょう?」
「講義? そうね、あと一時間と少しは――あるかもしれないわね」
「なら、場所を変えない。立ち尽くすというのもなんか辛いものがあるし」
「それもそうね」
一つ大きくうなづくと納得したのかはたまた、自分の足の痛みを思い出したのか。
ケイトはアイリスにお先にどうぞ、お嬢様。
なんて嫌味を一つ言うと、その後ろを付き従うように歩き出した。
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