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第八章

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 いつまでも面倒くさいことが続くというのは、あまり好きではないのだ。
 アイリスはふよふよとどこかに漂いながら人生を見返していた。
 結局、自分は何をしたかったんだろう。
 サティナを主体に考えて生きて来たものだから、使命が無くなって単なる女の子になってみたら、ぽっかりと空いた心の穴を埋めるなにかを見つけたくなった。
 しかし、サティナは来ないだろう。
 来れないというより、来ないだろう。
 あの女神様に人生をさんざんなものにされたけど、あっちだって更に昔から周りに酷い目に遭わされてきたのだから、互いに被害者という意味では、彼女の心も理解できないでもない。
 同情はできないけど……まあ、かわいそうではある。
 しかも、妹に知らん顔をされているのは、更に輪をかけて無情な姉妹仲だなと思ってしまう。
 ケイトですらも自分の隣にいてくれたのに、サティナにはそんな相手すら与えられなかったのだ。

「ま、わたしにしたことの報いも込められているなら、許そうかなー」

 この空間で忘我の境地に至れるようなのんびりとした時間を過ごしていたら、アイリスはそんなことさえ呟ける余裕を持つことが出来るようになっていた。
 復讐、復讐、復讐、ね。
 あんたなんか大っ嫌いって一声かけて、そのままアズライルの頬を張れないかしら。
 あの火事から助け出されてまともな身体でいられなくなったなら、それくらいで許してもいいかもしれない。元気にあの女伯爵と肉欲に励んでいるなら――また焼いてやりたいけど。

「あ、だめだわ。やっぱり、あの人だけは許せないわ」

 困ったなーと頭を捻る。
 他人の不幸とやられた仕返しはとりあえずできたから、それはいい。
 サティナは過去から人生をやり直すという凄まじく自由で、それでいて我がままの効かない一度きりの真剣勝負を数千年、あれからしなければならないからだ。これを仕返しと言わず、なんといおう。失敗したら神々はサティナを許さないだろう。存在そのものを消すかもしれない。だから、あの駄女神に対する復讐はそれでいいのだ。
 問題は――

「やっぱり、アズライルね。わたしはわたしで人生をやり直さなきゃいけないんだわ」

 となるとどうしよう。
 ここから出たら待つのは死。いや、魂の消滅に近い末路が待っているような予感がしてどうにも動きたくても動けない。
 永遠にここで生きるか。
 それとも消滅覚悟で、人生をやり直すか。

「何よ、それ! わたしもサティナ様とおなじ運命になりそうじゃない?」

 あーもう、悩んで損をしたわ。
 それなら行くべきよ。自分のことは自分でやらなきゃ。
 取り返そう、すべての人生を。
 やり直すのだ、あの時から。
 婚約者の浮気現場に踏み込んだ、あの時から――。
 燃やすとかそんなことはどうでもいい。
 王太子妃補という座をあの愛人にくれてやる。そして、本当に自由になろう。
 うっすらと目の前にあの扉が現れるのを目にして、アイリスはあの夜来ていたドレスと髪型にその身を変じながら、じっと扉が開くのを待つのだった。
 
 
 
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