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第八章

ご都合主義は同じこと

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「なんってご都合主義!?」

 サティナのあげたその悲鳴は呻くというよりは、叫ぶというほうに近かった。
 はあー、と肩を大きく上下させ、左手で顔をおおってため息を一つ。
 もうあきれ果ててものが言えないというような雰囲気を醸し出していた。
 頭を数度振ると、たっぷり十秒は数えてから女神様は顔をあげた。
 そこには厳しい怒りというか、お叱りの視線がたぶんに含まれているが、アイリスはどこふく風と受け流す。

「そうですか? ご都合主義、いいじゃないですか。偶然も必然もご都合主義でまかり通ってきたのは、歴史が証明しているところです」
「貴方、アイリス! この世にはやっていいことと悪いことがっ」
「それは――」
「何よ!?」
「それはサティナ様。女神様だから、神格を持つ存在だから許されて、わたしたち人類や魔族には許されない、とでもおっしゃいますか?」
「それは、もちろん……管理者とそうでないものには権限の差があるわ。犯した結果の修正をできるかどうかの能力だって……」

 と、サティナはどこか言い淀み、視線をそらす。
 アイリスには女神の怒りがすこし弱まった気がした。

「だって? ずいぶんな言い訳ですね、主様。自分は数百年前に妹のせいで神力を失い、信徒を犠牲にしてまで回復したその御姿で言われることがそれなんて。アイリスは悲しいですわ」
「犠牲だってそんな、そんなこと。それは貴方が選んだ道じゃ……」
「あのですね、サティナ様!」

 と、開きだした扉に入るのを拒もうとする女神の背を手を引きながら、こりゃだめだと思いアイリスは腰に手をあてて叫んだ。

「なっ、なに。私だって感謝していないわけでないわよ」
「それですよ! 誰かにお世話になったらまず、ありがとう、それじゃないですか。我が主は信徒ですら心得ている常識を忘れ果てるくらい、尊大になられたのですね。神様なら何をしてもいいというお考えでしょうか? この世界ではそれが許されないことくらい、御存知でしょうに」
「……。感謝はしているわ。でも、死んだのは貴方の選んだ道でしよう。それは尊大とか何をしていいとかとは、違うはずよ」
 
 女神の言葉には罪悪感がなんとなく含まれていて、だからといってアイリスの選んだ意思は自分のせいではないと言い張るところは子供というか。どうやらその点は、魂の格が上の方々には理解できないらしい。
 まあ、アイリスはそんな理解なんて望んではいなかった。
 ただ単にサティナのやり方が傲慢で犠牲者には悲しんでもらうしかない、という考えがあるような気がして嫌なだけだった。

「もう、面倒くさい駄女神っぷりは相変わらずですね、サティナ様。面倒くさいからこれからやることのお話をしましょう?」
「なにをする気なの?」

 いぶかしむサティナに、アイリスは指を立てて一つずつ説明を始めた。
 その前に、警戒を解こうとした女神を扉の奥に引きずり込んだのは言うまでもない。
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