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第四章
親友
しおりを挟む「つまり、トロイ・ランバート王国騎士様が……」
ケイトはなるほど、とうなづいていた。
時期にしても、タイミングにしても良すぎる。そう感じたようだ。
「中身かそれとも憑依されているかは知らないけど。そんなところかな。それに貴方が会いたがっている男爵様も、もしかしたらそうかもしれない。分からないけど」
アイリスは自分の運命はここでこんな喪服のような衣装を着されて、老人のような商人の愛人を演じろなんてねと肩をすくめて首を振る。
「きちんと愛があるなら、老人相手でも我慢するけど。それすらも神様に作られたとかなら、反抗心しか持てない。私はそんな女なの」
「アイリス。貴方はそれでわたしに孤独に帝国に行けって言うの? 親友を放って?」
あのね、ケイト。
アイリスは一呼吸置くと、結論を口にした。
「その親友の心すらももしかしたら――と思ったりするわ。だから――行って欲しい」
「直球ね……」
「うん。極論だけどでも――私はもう巻き込まれてるから。そう、巻き込んでごめんなさい。それは……ずっと思ってたの。あと」
「あと?」
多分、その笑顔はアイリスがケイトと二人きりで過ごしてきた中で、一番、責任感を強く見せたものだったかもしれない。
後悔するように、元国母候補は親友の侍女に頭を下げていた。
「……ごめんなさい。あの時、ここに来る前の話し合いで助けてくれて、本当にありがとう。ケイトの家族まで巻き込んだのに、私は自分の怒りだけで動いたもの。もっと我慢していれば良かった。殿下が来ないと当たり散らしていたあの時に――サティナ様を呼ばず、黙って待っていればよかったかもしれない」
「もう済んだことだわ」
「謝るなら、生涯かけて謝罪しろ、でしょう? 言いたいことは分かってる」
そのくらいのことはお見通し。
アイリスはどこかすっきりとした顔をケイトに向けていた。
「謝ってくれるの? 生涯かけて? なら、離れられないじゃない」
「うん……だから、ごめん」
「え? あっ――っ!?」
サティナ様の司祭ともなればね、ケイト。時間をかければ転移魔法の結界くらいなら用意できるの。
真紅の髪を魔力の風にはためかせて、炎の女神の司祭はとびっきりの笑顔でほほ笑んでみた。
「ありがとう。親友のケイト。シス子爵令嬢ケイト……男爵夫人になっても――元気でね」
さようなら。
その一言は声に出さずにアイリスは、心でそう呟くと手元に輝いていた朱色のそれをふっと払ってやる。
足元に起きた円陣、楕円形の背丈ほどまである光の渦、動けるはずなのに本能が動くなとそう伝えている。
ケイトは待ってと叫ぼうとしているようだったが、それが音になったかもしれない時。
アイリスの目の前から、親友の姿は空間の中に溶けるように掻き消えていた。
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