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第四章
本質
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「あ、そう。ところでオンセド男爵様は未だにお越しになられないのね?」
「嫌味?」
「かも?」
「アイリス、貴方のそんなところ、嫌いじゃないわ。でも」
ケイトはアイリスの方にあった紅茶ポットから中身を噴水のように吹き上がらせると、自分のカップの中に無音で着地させた。
それを見て、こんな魔法使えたの貴方とアイリスは口を半開きにしてそれを目で追っていた。
カップの淵に並々と注がれたまま、ケイトがそれを斜めにしても中身はこぼれない。
「呆れた……」
「そう? わたしにでもこの程度、できる物なのよ?」
「つまり――その。何が言いたいの?」
「そうねえ。知ってる?」
「だから、何を? 何をどうさせたいの?」
ケイトはタルトの皿をすっと持ち上げると、紅茶のカップの中に指先を付けてやる。
そのまま指先を上げると水は磁石で指先にくっついたかのように、後に続いた。ぐるぐるっと指先を回転させ、その勢いが一定の水流を越えたところでもう片方の手にもった皿をそこに通過させる。
まるで鋭利な刃物のように、その端は綺麗に切断され、床に落ちて砕けてしまった。
「できる?」
「炎なら」
「やってみてと言わなくて想像できるわ。でも見てみたい」
「ふうん? これね、待ってよー……」
イメージが難しい。アイリスの脳裏にある炎のイメージは燃え盛る暖炉の中のそれそのものだ。
ケイトがしたように薄く、それでいて高熱で何でも切断できる、おまけに綺麗な切断面を見せなきゃいけない。
指先の倍程度の焔の集約、そして――色は赤から青に青から白へと変化する。
「こう?」
「あら、すごい」
それは皿の端をすっぱりとはいかなかったものの、少しばかり荒い断面を見せて消滅した。
ケイトは何がしたいのかしら。アイリスの思いは今一つ定まらない。まるで答えのない数式を解かされている気分だった。
「ねえ……これが何?」
「だからね、アイリス。水でも炎でも、同じことが出来るでしょう?」
「こっちは……少し溶けてるけど」
「それは貴方の腕が悪いから」
「もう! だから何なの!?」
「水でも炎でも風でも大地の精霊でも――似たことが出来るってこと。気づかない?」
「それってつまり……サティナ様が偽物ってこと?」
はあ、違うわよ。バカ、とケイトは嘆息する。
言いたいことはそこではないのだ。
「アイリス、いい? よく聞いて頂戴。神様そのものが騙されているんじゃないのかなってそう思うのよ」
「水でも炎でも同じことができるから? でもそれは結果を見れば――ああ、そういうことね」
「そう。ようは過程を追えば分かるはずなのよ。わたしたちをうまく利用してサティナ様を困らせてる、誰かの本質がね?」
ケイトがまるで名探偵になったようだとアイリスは目を見張って驚いていた。
「嫌味?」
「かも?」
「アイリス、貴方のそんなところ、嫌いじゃないわ。でも」
ケイトはアイリスの方にあった紅茶ポットから中身を噴水のように吹き上がらせると、自分のカップの中に無音で着地させた。
それを見て、こんな魔法使えたの貴方とアイリスは口を半開きにしてそれを目で追っていた。
カップの淵に並々と注がれたまま、ケイトがそれを斜めにしても中身はこぼれない。
「呆れた……」
「そう? わたしにでもこの程度、できる物なのよ?」
「つまり――その。何が言いたいの?」
「そうねえ。知ってる?」
「だから、何を? 何をどうさせたいの?」
ケイトはタルトの皿をすっと持ち上げると、紅茶のカップの中に指先を付けてやる。
そのまま指先を上げると水は磁石で指先にくっついたかのように、後に続いた。ぐるぐるっと指先を回転させ、その勢いが一定の水流を越えたところでもう片方の手にもった皿をそこに通過させる。
まるで鋭利な刃物のように、その端は綺麗に切断され、床に落ちて砕けてしまった。
「できる?」
「炎なら」
「やってみてと言わなくて想像できるわ。でも見てみたい」
「ふうん? これね、待ってよー……」
イメージが難しい。アイリスの脳裏にある炎のイメージは燃え盛る暖炉の中のそれそのものだ。
ケイトがしたように薄く、それでいて高熱で何でも切断できる、おまけに綺麗な切断面を見せなきゃいけない。
指先の倍程度の焔の集約、そして――色は赤から青に青から白へと変化する。
「こう?」
「あら、すごい」
それは皿の端をすっぱりとはいかなかったものの、少しばかり荒い断面を見せて消滅した。
ケイトは何がしたいのかしら。アイリスの思いは今一つ定まらない。まるで答えのない数式を解かされている気分だった。
「ねえ……これが何?」
「だからね、アイリス。水でも炎でも、同じことが出来るでしょう?」
「こっちは……少し溶けてるけど」
「それは貴方の腕が悪いから」
「もう! だから何なの!?」
「水でも炎でも風でも大地の精霊でも――似たことが出来るってこと。気づかない?」
「それってつまり……サティナ様が偽物ってこと?」
はあ、違うわよ。バカ、とケイトは嘆息する。
言いたいことはそこではないのだ。
「アイリス、いい? よく聞いて頂戴。神様そのものが騙されているんじゃないのかなってそう思うのよ」
「水でも炎でも同じことができるから? でもそれは結果を見れば――ああ、そういうことね」
「そう。ようは過程を追えば分かるはずなのよ。わたしたちをうまく利用してサティナ様を困らせてる、誰かの本質がね?」
ケイトがまるで名探偵になったようだとアイリスは目を見張って驚いていた。
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