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第三章

協定

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「ティトの大森林か、イリヤーブリット王国?」
「そうね。そのイリヤーブリットで信仰されているエクスロー神とその兄弟姉妹の三神がいま、この地方を治めているの。神の主としてね?」
「はあ。それで?」
「その三神が甥と姪なのよ。兄上と義姉上のアーゲイン王国の双子の女神は兄上と――」
「サティナ様、ストップ。めんどくさいです」
「だから、その姪の一人が問題を起こして……」
「はあ……?」
「タレス王国の炎の女神アミュエラは妹なのよ。でも兄上とはとても仲が悪くて……まだどちらも地上にいるのに魔族の監視とかで動けなくて……」
「それで降臨された、と? 全くもって意味不明ですね!!!」
「仕方がないでしょ!? 姪のカーラが協定破ったんだから!」

 協定? 何よそれ。まったくもって更に理解不能。
 もしかして、神々の問題の後始末をするために自分たちは利用された?
 アイリスとケイトはそう思い、顔を見合わせてしまった。

「カーラ様って炎の女神様の? 一体、何人いらっしゃるのですか、炎の女神って……サティナ様がずっとやればいいじゃないですか」
「休ませてよ! 何千年も魔族とやりあってようやく協定を結んだのに……。簡単に破ったんだか、あの子は!」
「ですから、話になってない。もう……破ったって何したんです? 協定って何?」
「あんまり言えないけど――大きな約束事に相手の首都は狙わない。もしくは市民は狙わないってあるのよ。だから、魔族だって戦争は仕掛けるけどその国を滅亡させたりはしないでしょ? それは協定があればこそなの」
「まあ確かに、軍隊と軍隊が争ってそれで終わりですね。あとは戦後交渉で決めてるし。それは神様たちの恩恵ですか。ふーん……で、破ったと。つまり、何ですか? 魔王の都にでも襲撃を加えた、とか?」
「カーラは大地の底に眠るマグマとか、それを象徴する女神なのよ。私は太陽や星の光などに属する炎、妹のアミュエラは精霊界に属する炎の精霊の象徴なの。あの子、地下から溶岩を噴出させて魔都グレイスケーフを消滅させようとしたから、魔王が……ね」

 魔王、ねえ。確かに魔都グレイスケーフは隣国だけど、このトランダム王国とは友好関係にあるし、戦乱の風も吹いてこない。むしろ、より北のラスディア帝国とのドンパチが聞こえていて、アイリスたちには緊張感はあるが馴染の薄い話だった。
 そういえば数か月前に、同じ炎の系統の女神カーラの聖女タチアナ様が、戦場で魔王に撲殺されたという話を耳にしたっけ……。あの時は惨いと思ったが、それがここでつながってくるなんてとアイリスは記憶を探ってみる。
 そして思いついたのはたった一つ。

「つまり、サティナ様。私とつながっているのをいいことに、神同士の問題を解決する損な役割を押し付けられて降臨させられた……?」

 女神は沈痛な面持ちで静かにうなづいていた。
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