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第三章

女神の約束

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 もう何もかもが中途半端なままだわ……。
 まるでどこかの劇作家があらすじや大まかな流れも決めずに創作を始めてしまったものだから、これから先のことをうまく決めかねてしまい、時間稼ぎにだらだらと適当な会話を書き連ねた台本を演じる役者の気分だ。
 それを観客が観劇している合間に、どうにかいい話にしようともがいて場をつないでいるような。
 アイリスは自分がそんな駄作に延々と付き合わされるのはまっぴらごめんだった。
 
「サティナ様!」
「何かしら、いきなり大声出さなくてもいいじゃない、アイリス?」
「いえ、もう我慢の限界です。あれはあれ、これはこう。きちんと筋道を立てて説明してください。ああでも、神様の都合とかそんなものは抜いてくださいね。どうしたいかだけを嘘偽りなく、人間の身になって教えてください」
「めんどくさい。あなたたちは黙ってここにいればいいのよ? それだけで終わるものを」
「終わりませんし、ケイトの件すらもご存じないのなら従う方も恐ろしくなります。こんなにも不安定で適当な神に従うのは、もしかしたら破滅への道を歩んでいるのではないだろうかと」

 自分の司祭がここまで言葉を連ねて不満を口にするなんてこと、これまでの付き合いであったかしら? サティナはそう思い過去を振り返るが、それは王太子に夜襲をかけたあの時くらいしか思い至らない。
 いつもならここで的確な嫌味を交えて発言をするケイトは様子を見守りながら沈黙を続けている。
 どうやら、二人の中では同じ思いが芽生えているらしい。
 それは多分、信頼や信用が薄くなった。そういうことだろうと、サティナは当たりを付けていた。

「不満がたくさんですね、まあ……でも安心したわ。アイリスはまだアズライル王子のことを引きずっているようだったし、ケイトは家族が二度と巻き込まれないようにと不安を隠したまま見知らぬ土地で生きることに慣れようと必死だったから。ある程度慣れるまでは新しい不安を与えないようにしようと思っていたの」
「お優しいお言葉ですけど、優しさが不安を与えるということも理解して頂きたいです、サティナ様」
「ごめんなさい、私もついつい羽を伸ばしてしまったわ」
「それで、何をどうなさるおつもりですか? いつまでこんな逃避行を?」

 そうねえ、と女神は何かを思い出すように天井を見上げてから、アイリスとケイトへ交互に視線をやる。
 言いたくないなあ、そんな困ったような笑みを浮かべると話を始めた。

「二人にはね、こんな状況に巻き込んでしまって悪いと思っているわ。悪い……どこまでも人間的な感情だけど。炎の女神としては正直、どうでもいいの。でも、この国と契約を交わした女神サティナとしては悪いと思っているわ。それと全知全能ではあるけど、一応。それを使わないのは理由があるの」

 あの時、彼に言われた嫌味がまだ効いているなんて。
 はるかな過去の約束が今でも自分を縛り付けていることに、サティナは懐かしくも悲しい思いを抱いていた。
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