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第二章
時代錯誤
しおりを挟む女神様の御機嫌はいつ斜めから真横に戻るのかしら?
ケイトは従者の視線から現世に降臨した彼女を見てずっとそんなことを思っていた。
彼女の生きていた? もしくは現世にとどまったという二千年前。そんなに世界は素晴らしく、女神を満足させるだけのさまざまなものや、魅力的なものに溢れていたのかな? そうも思ってしまう。
魔族との戦いも減り、人類はこれほどに繁栄したがどうかは分からないけど、伝え聞く神話のような災害もこの千年は起きていないはずだし……
「何よ、ケイト? わたしの顔になにかついていますか?」
「いいえ、サティナ様。女神様の御尊顔をいつも間近に見れて、これほどの幸せはないと。そう思っておりました」
「ふうん。あなたって嘘が下手ねえ。まるでアイリスのだらしなさを見ているようだわ、いてっ!?」
サティナは頭をしたたかに打ち付けられて誰よっ、と背後を見た。それは硬い物ではなく、柔らかくしなやかな何かを固めた。そんな感触の痛みだった。
「あら、ごめんあそばせ。掃除をしておりましたら、そんなところに赤い動く巨大な葉が目に入りましたので」
「アイリス!? あんたっ、何するのよ!?」
「女神様、言葉、言葉。威厳が抜け落ちて町娘になってますよ?」
「うるさいのよっ! ケイトもあなたもまるでわたしに対する、敬意というものにかけているわっ! 反省なさい」
「自分よりも幼いし、古臭いことにしかこだわれない女神なんて、どうなんでしょうねー」
「あなたねー!?」
そんな実の姉妹のようなやり取りと見て、ケイトはついクスクスと笑ってしまった。
赤毛に緑の瞳。
背丈と年齢は違うが、言動はそっくりな二人。
少しだけ大人になろうと背伸びしている妹を、姉がたしなめている。
そんな風に見えてしまうからだ。
「だって、今回の件。女神様が王族の威厳だの、神殿の自由だの、貴族のほこりだの。そういったあまりにも古いことにこだわり過ぎて起こした事件ではないですか」
「そんなことはないっ! あなたに伝えるのが一番良かったの! そのまま結婚していれば、うまく王族を裏から……」
「操れませんから。いつの常識ですか、その王様を操ったらすべてが意のままになるなんて、どこかの古い神話の魔王みたいな発想。人間はもう、そんなに幼くないですよ?」
「だって……貴族院の権力と王国としての機能が優先されるなんて誰も思わないじゃない……」
「だからこその貴族院があるのでがないですか。王は王国の主ではなく、ただのまとめ役。王族は権威の象徴ではありますが、国を動かすのは民の代表がまとめた貴族院の制定する法律なんです」
「どうして絶対王政じゃないのよ……」
「古いんですよ、サティナ様が……」
竹ぼうきを操り、小器用に落ち葉を集めるも、その身長とほうきの柄が同じたかさでぴょこぴょこと動くものだからその動きに目をやると大きな赤い葉が目の前で二つ動いているようでとても面白い。
ケイトはこの二枚の葉をさっさと捨てたら、少しは静かにならないかしら?
そう思いながら、この姉妹喧嘩を眺めていた。
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