上 下
27 / 104
第二章

時代錯誤

しおりを挟む


 女神様の御機嫌はいつ斜めから真横に戻るのかしら?
 ケイトは従者の視線から現世に降臨した彼女を見てずっとそんなことを思っていた。
 彼女の生きていた? もしくは現世にとどまったという二千年前。そんなに世界は素晴らしく、女神を満足させるだけのさまざまなものや、魅力的なものに溢れていたのかな? そうも思ってしまう。
 魔族との戦いも減り、人類はこれほどに繁栄したがどうかは分からないけど、伝え聞く神話のような災害もこの千年は起きていないはずだし……

「何よ、ケイト? わたしの顔になにかついていますか?」
「いいえ、サティナ様。女神様の御尊顔をいつも間近に見れて、これほどの幸せはないと。そう思っておりました」
「ふうん。あなたって嘘が下手ねえ。まるでアイリスのだらしなさを見ているようだわ、いてっ!?」

 サティナは頭をしたたかに打ち付けられて誰よっ、と背後を見た。それは硬い物ではなく、柔らかくしなやかな何かを固めた。そんな感触の痛みだった。

「あら、ごめんあそばせ。掃除をしておりましたら、そんなところに赤い動く巨大な葉が目に入りましたので」
「アイリス!? あんたっ、何するのよ!?」
「女神様、言葉、言葉。威厳が抜け落ちて町娘になってますよ?」
「うるさいのよっ! ケイトもあなたもまるでわたしに対する、敬意というものにかけているわっ! 反省なさい」
「自分よりも幼いし、古臭いことにしかこだわれない女神なんて、どうなんでしょうねー」
「あなたねー!?」

 そんな実の姉妹のようなやり取りと見て、ケイトはついクスクスと笑ってしまった。
 赤毛に緑の瞳。
 背丈と年齢は違うが、言動はそっくりな二人。
 少しだけ大人になろうと背伸びしている妹を、姉がたしなめている。
 そんな風に見えてしまうからだ。

「だって、今回の件。女神様が王族の威厳だの、神殿の自由だの、貴族のほこりだの。そういったあまりにも古いことにこだわり過ぎて起こした事件ではないですか」
「そんなことはないっ! あなたに伝えるのが一番良かったの! そのまま結婚していれば、うまく王族を裏から……」
「操れませんから。いつの常識ですか、その王様を操ったらすべてが意のままになるなんて、どこかの古い神話の魔王みたいな発想。人間はもう、そんなに幼くないですよ?」
「だって……貴族院の権力と王国としての機能が優先されるなんて誰も思わないじゃない……」
「だからこその貴族院があるのでがないですか。王は王国の主ではなく、ただのまとめ役。王族は権威の象徴ではありますが、国を動かすのは民の代表がまとめた貴族院の制定する法律なんです」
「どうして絶対王政じゃないのよ……」
「古いんですよ、サティナ様が……」

 竹ぼうきを操り、小器用に落ち葉を集めるも、その身長とほうきの柄が同じたかさでぴょこぴょこと動くものだからその動きに目をやると大きな赤い葉が目の前で二つ動いているようでとても面白い。
 ケイトはこの二枚の葉をさっさと捨てたら、少しは静かにならないかしら?
 そう思いながら、この姉妹喧嘩を眺めていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるイルリアは、婚約者から婚約破棄された。 彼は、イルリアの妹が婚約破棄されたことに対してひどく心を痛めており、そんな彼女を救いたいと言っているのだ。 混乱するイルリアだったが、婚約者は妹と仲良くしている。 そんな二人に押し切られて、イルリアは引き下がらざるを得なかった。 当然イルリアは、婚約者と妹に対して腹を立てていた。 そんな彼女に声をかけてきたのは、公爵令息であるマグナードだった。 彼の助力を得ながら、イルリアは婚約者と妹に対する抗議を始めるのだった。 ※誤字脱字などの報告、本当にありがとうございます。いつも助かっています。

本日は、絶好の婚約破棄日和です。

秋津冴
恋愛
 聖女として二年間、王国に奉仕してきたマルゴット。  彼女には同じく、二年前から婚約している王太子がいた。  日頃から、怒るか、罵るか、たまに褒めるか。  そんな両極端な性格の殿下との付き合いに、未来を見れなくなってきた、今日この頃。  自分には幸せな結婚はないのかしら、とぼやくマルゴットに王太子ラスティンの婚約破棄宣が叩きつけられる。  その理由は「聖女が他の男と不貞を働いたから」  しかし、マルゴットにはそんな覚えはまったくない。  むしろこの不合理な婚約破棄を逆手にとって、こちらから婚約破棄してやろう。  自分の希望に満ちた未来を掴み取るため、これまで虐げられてきた聖女が、理不尽な婚約者に牙をむく。    2022.10.18 設定を追記しました。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

処理中です...