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第二章
困惑
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「どうかなさいましたか、サティナ様?」
「どうかなさいましたか、じゃないないわよ、ケイト。あなた、それが家臣の申し出ることなの?」
「もちろん、頭を飛び越えていることは重々、承知しておりますけど。でも、我が家も死地に追いやられるところというか、まさしく、そうなりましたし。アイリスがきちんと殿下を制御していればこうはならなかったはず。そこにサティナ様の神託が毎度のようにあったとなれば――これを公表することを我が父は厭わないと思いますが?」
「はあ……あなた、アイリスより余程、交渉が上手ね。あなたが王太子妃補になれば良かったのよ。どうしてそうしなかったの?」
「まさか、そんな。主を差し置いてそのような真似、できるわけがありません。あくまで、我が主はそこにいます、アイリス様ですから」
「へえ。それが口実でないことを祈るわよ、わたしも数年だけどあなたと同じ、友人であるのだし」
「さあ? それはどうでしょうか?」
友人が友人を焚きつけて恋人を殺しに行かせますかね?
ケイトは円満の笑みでこたえていた。
サティナにとっては一番、やりにくい相手だ。少なくとも、この場においては――
「ちょっと待ちなさい、ケイト! それにサティナ様もっ!! 嫌ですよ、昨晩は婚約者を殺し、いまはその仇かもしれない男性と婚約しろ? 女神様の申し付けが行われるとしても、悪趣味過ぎます! 断固、拒絶――っ……ケイト、何、目つき……」
「アイリス、気を付けたほうがいいわよ? これは女神ではなく一人の年上過ぎる友人としての忠告だけど。いま拒絶したら、あなた。お昼まで生きていられないかもしれないわね?」
「えっ!? そんな――」
「覚悟を決めた人間の恐ろしさ、あなたも知らないわけじゃないでしょう? 昨夜は――まあ、甘いあなたが出て来て終わったわけだけど。ケイトはその辺り、非常になれそうで怖い。さすが子爵家の令嬢ね」
「そんなところで子爵家は関係ないのでは……?」
「大ありよ。伯爵家の子飼いが子爵家だもの。侯爵家の守り番、それでいて、遠隔地では要塞を守るためには女でも戦う。それが子爵家じゃないの。いい血筋だわ、本当に」
「でもっ、これを受けたらそれこそ、我が侯爵家の恥になります……」
さて、どうしようかな。
サティナは黙ってことの成り行きを見守っている、聖騎士に目を向けた。
彼は躊躇なく、自分の命令を受けるだろう。
もし、ここで二人の令嬢を斬れ。
そう命じれば、即座に実行するはずだ。
でも、それはいまは賢くない。
やるとすれば――
「いいわ、その提案、受けましょう。ケイト。いいわね、アイリス?」
「はあっ!? 本当に駄女神って呼びますよ!?」
「うるさい子ねえ、ここは一度受けておいて、後からどうにかするくらいの考え浮かばないのかしら?」
「一度受けたら、二度と断れないから言っているんです!!」
「じゃあ、どうすればいいかしら。ねえ、シュネイル卿?」
そして沈黙を貫いていた美丈夫が言葉を発した。
「では――ここは、御二方とも、貴族籍を離れて世間から身を隠されるのが一番良いのではないか、と。昨夜の火事に巻き込まれて死亡した。それでいかがでしょうか? 婚約もせずによくなりますし、ケイト様の御家族には神殿騎士の護衛を増やしましょう。それでは?」
「名案ね、そうしましょう」
あっけに取られて反論ができないアイリス、まあまあでしょうとうなづくケイト――彼女の脳裏では女神が実家への安全を保証すると分かっていたらしい――。
それぞれが困惑と満足の笑みを浮かべ、とりあえずの結論が出たのだった。
「どうかなさいましたか、じゃないないわよ、ケイト。あなた、それが家臣の申し出ることなの?」
「もちろん、頭を飛び越えていることは重々、承知しておりますけど。でも、我が家も死地に追いやられるところというか、まさしく、そうなりましたし。アイリスがきちんと殿下を制御していればこうはならなかったはず。そこにサティナ様の神託が毎度のようにあったとなれば――これを公表することを我が父は厭わないと思いますが?」
「はあ……あなた、アイリスより余程、交渉が上手ね。あなたが王太子妃補になれば良かったのよ。どうしてそうしなかったの?」
「まさか、そんな。主を差し置いてそのような真似、できるわけがありません。あくまで、我が主はそこにいます、アイリス様ですから」
「へえ。それが口実でないことを祈るわよ、わたしも数年だけどあなたと同じ、友人であるのだし」
「さあ? それはどうでしょうか?」
友人が友人を焚きつけて恋人を殺しに行かせますかね?
ケイトは円満の笑みでこたえていた。
サティナにとっては一番、やりにくい相手だ。少なくとも、この場においては――
「ちょっと待ちなさい、ケイト! それにサティナ様もっ!! 嫌ですよ、昨晩は婚約者を殺し、いまはその仇かもしれない男性と婚約しろ? 女神様の申し付けが行われるとしても、悪趣味過ぎます! 断固、拒絶――っ……ケイト、何、目つき……」
「アイリス、気を付けたほうがいいわよ? これは女神ではなく一人の年上過ぎる友人としての忠告だけど。いま拒絶したら、あなた。お昼まで生きていられないかもしれないわね?」
「えっ!? そんな――」
「覚悟を決めた人間の恐ろしさ、あなたも知らないわけじゃないでしょう? 昨夜は――まあ、甘いあなたが出て来て終わったわけだけど。ケイトはその辺り、非常になれそうで怖い。さすが子爵家の令嬢ね」
「そんなところで子爵家は関係ないのでは……?」
「大ありよ。伯爵家の子飼いが子爵家だもの。侯爵家の守り番、それでいて、遠隔地では要塞を守るためには女でも戦う。それが子爵家じゃないの。いい血筋だわ、本当に」
「でもっ、これを受けたらそれこそ、我が侯爵家の恥になります……」
さて、どうしようかな。
サティナは黙ってことの成り行きを見守っている、聖騎士に目を向けた。
彼は躊躇なく、自分の命令を受けるだろう。
もし、ここで二人の令嬢を斬れ。
そう命じれば、即座に実行するはずだ。
でも、それはいまは賢くない。
やるとすれば――
「いいわ、その提案、受けましょう。ケイト。いいわね、アイリス?」
「はあっ!? 本当に駄女神って呼びますよ!?」
「うるさい子ねえ、ここは一度受けておいて、後からどうにかするくらいの考え浮かばないのかしら?」
「一度受けたら、二度と断れないから言っているんです!!」
「じゃあ、どうすればいいかしら。ねえ、シュネイル卿?」
そして沈黙を貫いていた美丈夫が言葉を発した。
「では――ここは、御二方とも、貴族籍を離れて世間から身を隠されるのが一番良いのではないか、と。昨夜の火事に巻き込まれて死亡した。それでいかがでしょうか? 婚約もせずによくなりますし、ケイト様の御家族には神殿騎士の護衛を増やしましょう。それでは?」
「名案ね、そうしましょう」
あっけに取られて反論ができないアイリス、まあまあでしょうとうなづくケイト――彼女の脳裏では女神が実家への安全を保証すると分かっていたらしい――。
それぞれが困惑と満足の笑みを浮かべ、とりあえずの結論が出たのだった。
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