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第二章
アイリスの不満
しおりを挟む翌朝。
神殿ではなく、王都の一角にある今は使われていないはずの神殿が保有している屋敷の一つ。
そこに、アイリスはケイトと共に身を寄せていた。
彼女たちをこの場に集めたのはもちろん――女神サティナだった。
「おはようございます、サティナ様。ケイトと我が親族を助けていただきましてありがとうございます。ですけど、なぜここなんですか?」
「何故? 急場を凌ぐように用意せよと申し付けたら、あれらが用意したのがここだったんだけどね?」
「そうですか……。王都の下級貴族も住まない、商人と上級貴族の使用人たちが住むこの街になぜでしょうね」
そうぼやくアイリスをやめなさいよと、ケイトはたしなめるが彼女はそれを聞く素振りが見えなかった。
昨夜のどうにもまとまりのない、消化不良のような出来事が納得できないだろうなあ。
ケイトは親友の態度からそう辺りをつけながら、両者に巻き込まれないようにそっと数歩下がっていた。
「不満か?」
「不満はたくさんありますけど。まずはその――」
めんどくさいことをやらせためんどくさい女神が待っている。
アイリスの視線は神殿騎士たちを両脇に侍らすように立たせている炎の女神に注がれていた。
この幼女のような存在を誰が降臨した女神だと信じるんだろう?
いま誰かが否定すれば即、天界に戻りそうなのに――サティナはそんな司祭の思惑を知ってか知らずかふん? と首をかしげていた。
「どうした?」
「いいえ、どうもしませんサティナ様。偉大なる女神様に裏で糸を引いていただいたおかげで、私は一晩をかけて殿下を詰問してフラストレーションを溜めただけでしたわ……」
「随分な言い方をするじゃないの、アイリス。素晴らしい讃辞じゃないの、女神に対して恐れ知らずにもほどがあるわねー」
「ほどがあるではありませんよ、サティナ様。どうして行かせたんですか、意味がないじゃないですか。神殿騎士を動員してしまっては……」
「意味はあったのよ、現にあなたはその溜め込んだ欲求不満を解消してこれたでしょ?」
「質問してもよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「炎の女神様はやはり、大量の水に苦手だったりしますでしょうか? 無責任に焚きつけておいて、良いところだけを持ち逃げするような真似をする女神様ってどこかにいらしたような気もしますが」
「アイリス、あなたいつからそんなに負の感情をまき散らすようになったの? 仮にも女神サティナの司祭らしからぬ行動よねえ謹んで欲しいわ」
腹黒女神に言われたくないですよ!
とはいえあのまま今朝を迎えていれば自分とケイトは断罪、家族も巻き添えをくらい、王太子の計画のままに行けば貴族院も解体。
そうなると三者体制だったうちの一角が崩れてしまい、王族と神殿の二極構造になる。
それがどれほど大きな波紋となってこの国を揺るがすのか。
アイリスには見当もつかない。
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