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第一章

アイリスの苦笑 1

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「ああ、そういうことですか。つまり、民衆の総意としての貴族院が……私を通じて女神様と対話を試みた、と? 私が司祭であり、次期国母候補だから? そういうこと?」
「端的に言えば、そういうことだ。王族はそれを知れば貴族院と君を排除しようとするだろう。疑わしいどころか、実際につながっているのだから。少なくとも、アイリスと女神様は。そうだろう?」


 それでも、とアイリスはおかしいではないですかと叫びそうになる。
 陰謀論はどこにでも存在するものだ。
 事実関係を調査することくらいはするべきだった。
 しなかったのは、単に王族側、神殿側の落ち度でしょう? 
 そう叫びたかった。

「知るということは互いを救いたもう行動である」
「……なんだ?」

 不意にアイリスが漏らした一言が王子の耳に入る。
 その意味が分からず、彼は怪訝な顔をしてアイリスに問い返していた。

「知る、ということはお互いを不和や、疑念の渦から助けるものだと。そう……サティナ様の教えにあります。私もあなたも、それをしなかったという点では同罪だと。そう皮肉にも、そう思いました」
「ふふふ……っ、なんだいまさら。俺たちをこんな渦中に放りこんだ原因。それが女神の気まぐれだと俺は言っているのに。君はまだ、サティナ様を信奉するのか?」
「女神様が原因ではありません! 聖女様や大神官様が原因でもありません!! ただ、私を信じて行動できなかったあなたの弱さ、あなたの行動の真意に気づけなかった私の幼さが、今回の原因ですよ、アズライル様」

 そうは思いませんか?
 いまは彼に対しての未練などどうでもいい。
 それよりも、当事者として。
 いつかは、信じあった友人として。
 未来を互いにともにしようと誓い合った、仲間として。
 アイリスは王子に真摯に訴えかけていた。
 この騒動の最高位にあるのは彼であり、それを治められるのもまた、彼なのだ、と。

「あくまで、王子たれ、か。君はどこまでも無茶を言う。逃げ出すことを許さない、前に踏み出せといつも俺を後ろから押すばかりだ」
「……え?」
「俺がこのーーダイアナに逃げたのは俺の弱さからだが。そんな要因もあったりした。ま、いまとなっては浮気男の汚名しか残らんがな。あとの話を聞く気はあるのか?」
「--それが、価値のあるものならば」
「なら、聞いていけ。王に話はできなかった。言えば即、父上は貴族院とお前をーー俺がしたようにするだろう。貴族院は解体、俺の婚約者とその家族は死罪。女神様が降臨するとはまさか、思わなかったが……それでも俺はどうにか守りたかった」
「都合のいい方便にしか聞こえませんね」
「それでもいいさ。アイリスに相談しなかった大きな要因はまさしく、女神様だ。神はどこからでも多くを見ていられる。神殿騎士の話が出たな?」
「それが?」
「神殿騎士は女神に仕える者。聖女や大神官は取り次ぐ者だ。王族や民衆と、女神の間をな。いざという時には、神殿騎士が聖女たちを捕縛する可能性だってあった。そうなったら、一層、疑いは深まるだろう。手の打ちようがない」

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