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プロローグ
レアですか、ミディアムですか、それとも‥‥‥?
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「あー‥‥‥ねえ、アイリス様?」
「何かしら、ケイト。改まって」
寝室。
王城の一角にしつらえられた、明日から王太子夫妻が住むための離宮の前。
いや、その入り口を守る門番たちをひと睨みしてどかせたアイリスの目の前には――
「何って、ねえ。あなた、どうするつもりなの? このドアの向こうってすぐ寝室じゃない‥‥‥」
「そうね。さすがに爆炎で焼くのはまずいかしらって思ってるわ」
「止めてよ、そんな無茶苦茶するの。一応、国民の血税で賄われているのよ、ここの建築費」
「何を今更? 王族が国庫を私物化してるなんてどこの国でもあることじゃない。私、こんなに立派な家具類があるなんて知らなかったな―」
「‥‥‥そこは王太子殿下の顔というものがあるでしょ、アイリス様」
「そうね。薄っぺらい、血縁だけで尊敬されて自分勝手に女を好きに出来る顔だわね」
ああ、もう。
国王陛下のお耳に入ったら、断罪どころじゃ済まない。
下手したら侯爵家だけじゃなく、実家の子爵家までお取り潰しに合いそうな発言を‥‥‥
ケイトは暗い未来をなるべく想像しないようにしながら、神殿騎士たちに合図した。
さっさとこの寝所に通じる扉を開けなさい。
侍女の指示に従い、騎士たちが恐れながら、と静かに扉に手をかけるのを見てアイリスが小さくため息をつく。
「どきなさい」
「え、しかし、王太子妃補様?」
「いいから。めんどくさいわ」
あっ、と彼らが止めた時は遅かった。
これくらいなら大丈夫でしょ?
アイリスは笑顔で炎の女神の司祭の名に恥じないような、素晴らしい開け方をして見せたからだ。
風の結界を扉そのものに、水の結界を間に挟み、そこに小さく凝縮された火球を放り込む。
それらは勢いよく水蒸気を立てて暴発し――しかし、アイリスの前には更に強固な結界が張られて騎士たちとケイトは全くの無傷だ。
「あらら‥‥‥やり過ぎたかしら?」
「アイリス――っ!?」
「いいのよ、風よ‥‥‥熱気を払いなさい」
その一声で熱さが支配していた周囲の気温が一変する。
ケイトの必死の悲鳴を無視して、炎の女神の司祭は未来の夫が待つ寝所に足を踏み入れた。
どうやら、扉側の風の結界は薄くしてあったらしい。
爆風はいい感じに室内の景色を変えていた。
風に押し飛ばされて壁際に叩きつけられたソファーやカーペット類、小物などはもちろん、立派な天鵞絨の天蓋がついた、アイリスの、『お気に入り』、だったベッドは真横に――いや、微妙な形にひっくり返っていた。
「なっ、ななな――――っ、何だ、これは一体!?」
ベッドの向こう側から、情けない男の悲鳴が飛んで来る。
それを聞いて、アイリスはそこか、と目ぼしをつけるとゆっくりと歩きながら、婚約者の名前を呼んだ。
「何かしら、ケイト。改まって」
寝室。
王城の一角にしつらえられた、明日から王太子夫妻が住むための離宮の前。
いや、その入り口を守る門番たちをひと睨みしてどかせたアイリスの目の前には――
「何って、ねえ。あなた、どうするつもりなの? このドアの向こうってすぐ寝室じゃない‥‥‥」
「そうね。さすがに爆炎で焼くのはまずいかしらって思ってるわ」
「止めてよ、そんな無茶苦茶するの。一応、国民の血税で賄われているのよ、ここの建築費」
「何を今更? 王族が国庫を私物化してるなんてどこの国でもあることじゃない。私、こんなに立派な家具類があるなんて知らなかったな―」
「‥‥‥そこは王太子殿下の顔というものがあるでしょ、アイリス様」
「そうね。薄っぺらい、血縁だけで尊敬されて自分勝手に女を好きに出来る顔だわね」
ああ、もう。
国王陛下のお耳に入ったら、断罪どころじゃ済まない。
下手したら侯爵家だけじゃなく、実家の子爵家までお取り潰しに合いそうな発言を‥‥‥
ケイトは暗い未来をなるべく想像しないようにしながら、神殿騎士たちに合図した。
さっさとこの寝所に通じる扉を開けなさい。
侍女の指示に従い、騎士たちが恐れながら、と静かに扉に手をかけるのを見てアイリスが小さくため息をつく。
「どきなさい」
「え、しかし、王太子妃補様?」
「いいから。めんどくさいわ」
あっ、と彼らが止めた時は遅かった。
これくらいなら大丈夫でしょ?
アイリスは笑顔で炎の女神の司祭の名に恥じないような、素晴らしい開け方をして見せたからだ。
風の結界を扉そのものに、水の結界を間に挟み、そこに小さく凝縮された火球を放り込む。
それらは勢いよく水蒸気を立てて暴発し――しかし、アイリスの前には更に強固な結界が張られて騎士たちとケイトは全くの無傷だ。
「あらら‥‥‥やり過ぎたかしら?」
「アイリス――っ!?」
「いいのよ、風よ‥‥‥熱気を払いなさい」
その一声で熱さが支配していた周囲の気温が一変する。
ケイトの必死の悲鳴を無視して、炎の女神の司祭は未来の夫が待つ寝所に足を踏み入れた。
どうやら、扉側の風の結界は薄くしてあったらしい。
爆風はいい感じに室内の景色を変えていた。
風に押し飛ばされて壁際に叩きつけられたソファーやカーペット類、小物などはもちろん、立派な天鵞絨の天蓋がついた、アイリスの、『お気に入り』、だったベッドは真横に――いや、微妙な形にひっくり返っていた。
「なっ、ななな――――っ、何だ、これは一体!?」
ベッドの向こう側から、情けない男の悲鳴が飛んで来る。
それを聞いて、アイリスはそこか、と目ぼしをつけるとゆっくりと歩きながら、婚約者の名前を呼んだ。
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