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第一章

不遇の始まり

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 ルークの回想は続く。 
 まず王都から、父親が守っていた辺境のさらに奥に追放された。
 ペイゼワールというこの街は、古くは二千年まえからここにあるのだという、交通の要衝。

 北にギリーダム帝国。
 南にエクスロー。
 西に魔王が支配する、魔都グレイスケーフに囲まれていて、ルークの住むブレイゼル王国を北から南へ縦断するオルム大街道の側にできた、商業都市として国内外に広く知られている。

 人口は二万とちょっと。
 東西に狭く、南北にひょろ長い、長靴のような城塞都市。
 西に流れるシェス大河を利用した海外との交易が盛んな王国にとって、背後に広がるこの高山地帯の荒れ地は特に重要だと思われていないらしい。

 魔王の脅威も、帝国の侵略も、その手前にある大河の支流が邪魔になって届かないからだ。
 利用価値のない土地に、利用価値のない裏切り者の家族を追放する。
 それは中央から見れば、合理的で損のない選択だった。

 一年を通して解けることのない雪をたたえた山脈から吹き下ろす風は、いつも冷たくこの土地に作物が育つことを阻もうとする。
 全く利用価値のない寂れた土地。
 そんなイメージだったけど、来てみたらそれは大きく違った。

 夏の期間は短く、冬は長く、そして、朝が長くて夜は短い。
 土地の人の心は分厚い鍵がかかったようになかなか開いてくれない。
 そんな中で生活をするのは本当に大変だった。
 ルークの父親を無実の罪で忙殺した連中は、親戚筋に預けたら、いずれ反旗を翻すと考えたのだろう。
 伯爵家とは無縁の土地の、とある領主の元に、ルーク母子は預けられた。

 ペイゼワールの市内の端。
 貴族たちが住む区域のかろうじて端の方に、彼らの家は与えられた。
 二階建て。両方の階を合わせて八つの部屋があり、馬小屋と台所、二人の年老いた下男と、十四歳の奴隷の娘が一人いた。
 伯爵の階級を剥奪されなかっただけ、ましかもしれなかった。

 王国から与えられる俸給は、年間を通して大金貨四枚だけ。
 彼らが食べていくにはことかかなかったけれど、新しい何かを始めたり、大きな買い物をしようとしたらそれはできないくらいに不便で。
 貴族の子弟子女といえば家庭教師を雇って教育をするのが当たり前の時代。

 ルークには、それすらも与えられない。
 二年間の不遇の始まりだった。

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