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新たな日常編
08_心の糸
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地下への階段を一段一段下りていく。前は、アルバートと二人だった。でも、今は、一人だ。自分一人で、半獣の人たちと向かい合わなければならない。地下から漂う淀んだ重圧感に、心臓が押し潰されそうだ。
いつだって、隣に誰かがいてくれる訳ではない。立ち向かわなくては。自分の道は自分で切り開いていく。
地下室にたどり着くと、舞台の上で、蛇女ムグリ、狼男アウルフ、ライオン男ライアンの三人が、話をしていた。
僕が近づくと、三人は気配を感じ取り、一斉にこちらを見た。
「なんだ!また、来たのか。何のようだ、ここはガキの遊び場じゃねーぞ!」
狼男アウルフが、今にも噛み殺すぞと言わんばかりの鋭い目つきで睨み付ける。睨まれた瞬間、心臓が締め付けられる思いだったけれど、恐る恐る答えた。
「蛇女ムグリに話したいことがあって来ました。これを見てください。僕の家に、あなたの白蛇がいた」
僕は、持っていた蛇の入った瓶を半獣たちに見せると、蛇女ムグリに向かって言った。すると、蛇女ムグリは、瓶に入った白蛇を見て、大きく目を見開いた。
「あら!探していたのよ、私の白蛇がどこかに行ってしまったから。あなたのところに、この子は、行っていたのね。わざわざ、私のところに届けてきてくれたの?」
「それもありますが......僕は、今日の朝から、身体に異変があって、こうしているうちに、あなたたちのような半獣に近づいている。右腕には、蛇に噛まれたような噛み傷がある。この白蛇のせいで僕の身体に異変が起きているんじゃないかと疑っています」
蛇女ムグリは、足元から僕の全身を見て、半獣に近づきつつあることを確認した。見た目は、半獣ではなく、人間の姿をしているが、どういうわけだか蛇女ムガルは僕の身体に起こっている異変が分かるようだった。もしかしたら、半獣独特の雰囲気を僕から感じ取っているのかもしれない。
「ほんとね。あなた、半獣になっているわね。だけど、あなたが言うように、この子が、あなたを半獣にしたということは絶対にないわ」
ムグリは、落ち着いた声でそう言うと、僕の方にゆっくりと近づいてきた。
「どうして絶対だと言えるんですか!僕は、正直、怒っているんです!苛立ちを覚えて仕方がないんです!だって、僕は半獣になんか興味もなかったし、なりたくもなかった。僕は......僕は、ごく普通の人間として生きたかったのに......」
なかなか怒りの感情を爆発させることがない僕だが、今回ばかりは、つい感情的になって叫んでしまった。もう誰かにこの気持ちを向けなければ、燃え盛る憤怒の炎に自分自身が焼き殺されてしまう。
僕が感情むき出しの言葉を発するも、ムグリは、優しい表情を浮かべていた。
「あなたの気持ちは、分からなくはないわ。だって、私も、もともと人間だったんだもの」
僕は、思わず顔を上げ、ムグリの方を見た。知らなかった。蛇女がもともと人間だったなんてーー。
もとから半獣として生きてきたのだとばかり思っていた。人間の気持ちなど分からない冷たい存在なんだと、どこか心を許せないところがあった。
ようやく、少し、張り詰めた心の緊張の糸が緩まったように感じた。僕は、この人たちに対して、何か大きな思い違いをしているのではないだろうか。
いつだって、隣に誰かがいてくれる訳ではない。立ち向かわなくては。自分の道は自分で切り開いていく。
地下室にたどり着くと、舞台の上で、蛇女ムグリ、狼男アウルフ、ライオン男ライアンの三人が、話をしていた。
僕が近づくと、三人は気配を感じ取り、一斉にこちらを見た。
「なんだ!また、来たのか。何のようだ、ここはガキの遊び場じゃねーぞ!」
狼男アウルフが、今にも噛み殺すぞと言わんばかりの鋭い目つきで睨み付ける。睨まれた瞬間、心臓が締め付けられる思いだったけれど、恐る恐る答えた。
「蛇女ムグリに話したいことがあって来ました。これを見てください。僕の家に、あなたの白蛇がいた」
僕は、持っていた蛇の入った瓶を半獣たちに見せると、蛇女ムグリに向かって言った。すると、蛇女ムグリは、瓶に入った白蛇を見て、大きく目を見開いた。
「あら!探していたのよ、私の白蛇がどこかに行ってしまったから。あなたのところに、この子は、行っていたのね。わざわざ、私のところに届けてきてくれたの?」
「それもありますが......僕は、今日の朝から、身体に異変があって、こうしているうちに、あなたたちのような半獣に近づいている。右腕には、蛇に噛まれたような噛み傷がある。この白蛇のせいで僕の身体に異変が起きているんじゃないかと疑っています」
蛇女ムグリは、足元から僕の全身を見て、半獣に近づきつつあることを確認した。見た目は、半獣ではなく、人間の姿をしているが、どういうわけだか蛇女ムガルは僕の身体に起こっている異変が分かるようだった。もしかしたら、半獣独特の雰囲気を僕から感じ取っているのかもしれない。
「ほんとね。あなた、半獣になっているわね。だけど、あなたが言うように、この子が、あなたを半獣にしたということは絶対にないわ」
ムグリは、落ち着いた声でそう言うと、僕の方にゆっくりと近づいてきた。
「どうして絶対だと言えるんですか!僕は、正直、怒っているんです!苛立ちを覚えて仕方がないんです!だって、僕は半獣になんか興味もなかったし、なりたくもなかった。僕は......僕は、ごく普通の人間として生きたかったのに......」
なかなか怒りの感情を爆発させることがない僕だが、今回ばかりは、つい感情的になって叫んでしまった。もう誰かにこの気持ちを向けなければ、燃え盛る憤怒の炎に自分自身が焼き殺されてしまう。
僕が感情むき出しの言葉を発するも、ムグリは、優しい表情を浮かべていた。
「あなたの気持ちは、分からなくはないわ。だって、私も、もともと人間だったんだもの」
僕は、思わず顔を上げ、ムグリの方を見た。知らなかった。蛇女がもともと人間だったなんてーー。
もとから半獣として生きてきたのだとばかり思っていた。人間の気持ちなど分からない冷たい存在なんだと、どこか心を許せないところがあった。
ようやく、少し、張り詰めた心の緊張の糸が緩まったように感じた。僕は、この人たちに対して、何か大きな思い違いをしているのではないだろうか。
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