上 下
13 / 51
新たな日常編

02_異変①

しおりを挟む
 赤く二つ出来物ができているが、何かに噛まれたようなあとに見える。寝ているときに、虫にでも刺されたのかもしれない。以前にもここまでではなかったが、ダニに噛まれて、腫れ上がり、しばらく消えなかったことがあった。

 見なかったことにしよう......。

 黒ずんだ右腕にそっとめくり上げていた上着を戻し覆い隠す。

 僕は、リビングに行くと、台所には母親が料理を作っていて、父親は、ソファーで新聞を読んでいた。いつもの朝の風景だ。

「おはよう、朝ごはん待っててね。もう少しでできるから」

 起きてきた僕を見て、母親がまな板の上で包丁を使って野菜を切りながら言った。

「おはよう、うん、そんなに急がなくてもいいよ」
 
 僕は、母親にそう言うと、テーブルの椅子に座り、テレビのリモコンボタンをぽちっと押した。テレビをつけると、朝のニュース番組が流れた。ニュースの内容はというと、芸能人の誰かが浮気をして離婚したとか、街中に猿が出没したとか、平和なニュースだった。

 なんとなく、ニュースを見ていると、ソファーに座って新聞を読んでいた父親に話しかけられた。

「昨日は、遅かったじゃないか。遅くまで何してたんだ?」

「えっと......友達と遊んでたんだ。遊んでたら、つい時間が経つのを忘れてしまってたんだよ」

 昨日、アルバートとタイムベルに行き、半獣たちと出会ったなんて正直に言っても、話がややこしなりそうだ。言ったところで、何を話しているんだと頭を混乱させてしまうだろうし、作り話だと思われて信じてもらえないだろう。

 父親は、新聞を読みながら、僕に言った。

「そうか。遊ぶのはいいが、あまり遅くまで、遊ぶんじゃないぞ。新聞に載っていたが、変死体がこの辺で見つかったようだからな ......」

「えっ......」

 物騒な話だ。最近、各地で変死体が見つかるなんてニュースがやってたけれど、この辺では初めてだった。

「変死体だって、一体、どんな死体だったの?」

「新聞によると、その死体は、獣の毛に覆われていて、まるで獣の姿をしていたそうだ。腕の辺りには、何かに噛まれたあとがついていたらしい」

 獣の姿の人の死体ーー。それって、もしかして、半獣のことではないだろうか。だとしたら、昨日タイムベルの地下で出会った半獣たちと何か関係あるのかもしれない。

 途端に、アルバートの顔が浮かんだ。昨日の一件がある。アルバートと変死体について語り合いたいが、気まずい。

 父親と変死体の話をしていると、テレビのニュースでも、変死体について取り上げた話題をちょうど報道し始めた。

 報道によると、家から徒歩10分くらいにある河川敷の草むらのなかに、変死体が見つかったとのことだ。さすがに、変死体には、何ヵ所も食いちぎられたあとがあり、地面に血液をたらしながら、内臓も外に飛び出ていたそうだ。

 さすがにグロテスクな変死体をテレビでは見せられないので、ぼかしがかかっていた。何に襲われたのかは定かではないけれど、何だかの肉食動物に襲われたのではないかと仮説を立てられていた。

 今日は、朝起きた時から、やはり調子がよくなかった。いつもだったら、美味しい母親の料理がとても不味く感じたからだ。テーブルに運ばれてきた朝食を口にした途端、身体が拒絶して、猛烈な吐き気がした。味もほとんど感じることができなかった。こんな事は今までで初めてだった。

 せっかく、母親が作ってくれたし、テーブルに置かれたからには、なんとか食べきりたいが、体がどうしても受け付けてくれない。さらに、突如、思わず両手で腹を押さえ込むほどの腹痛が襲う。その様子を見て、母親が心配そうに言った。 

「どうしたの?大丈夫?」

「ちょっと、体の調子が悪いみたい。トイレ行ってくるよ」

 僕は、死物狂いで、トイレに駆け込むと、我慢できなくなって、思わず、朝の食事を全て吐き出してしまった。

 どうしたんだろう。やはり、体調がおかしい。僕の身体に何が起こっているんだ......。

 吐き出した後は、嘘みたいに、全身を巡る気持ち悪さがなくなっていた。まるで、僕の体が、食べ物自体を、拒絶しているかのような感覚だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

呪配

真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。 デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。 『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』 その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。 不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……? 「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

リバーサイドヒル(River Side Hell)

グタネコ
ホラー
リバーサイドヒル。川岸のマンション。Hillのiがeに変わっている。リーバーサイドヘル 川岸の地獄。日が暮れて、マンションに明かりが灯る。ここには窓の数だけ地獄がある。次に越してくるのは誰? あなた?。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

ずっといっしょの、おやくそく。

石河 翠
ホラー
大好きなわたしのお友達。 そのお友達が泣いていたら……。 わたしは、お友達のために何ができるかな? あなたなら、どうする? こちらは小説家になろうにも投稿しております。

不穏ラジオ−この番組ではみんなの秘密を暴露します−

西羽咲 花月
ホラー
それはある夜突然頭の中に聞こえてきた 【さぁ! 今夜も始まりました不穏ラジオのお時間です!】 私が通う学校の不穏要素を暴露する番組だ 次々とクラスメートたちの暗い部分が暴露されていく そのラジオで弱みを握り、自分をバカにしてきたクラスメートに復讐を!!

処理中です...