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その1

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私エランは、トスカーナ第一王朝の王女である。この世界は大きく、トスカーナ第一王朝とトスカーナ第二王朝に分かれている。私のお父様と第二王朝の国王は親戚で、ひいお爺様まで遡れば合流する。王朝が分裂したのは、お爺様の時代で、兄弟間の皇位継承争いが引き金となり、世界を巻き込む大戦争にまで発展した。

第一王朝と第二王朝の戦いは未だに決着がついていない。どちらかと言えば、第一王朝の方が有利であるが、あてにはならない。明日になったら、この城が第二王朝の手に落ちることだって十分考えられる。

私の家族は、お父様、お母様、そしてお兄様のイサクがいる。イサクお兄様はお父様の血を引き継いだ優秀な戦士として、第二王朝との戦いに参加していた。一週間前の激戦で、体に傷を負い、今は休息している。そんなイサクお兄様の看病を、私がしている。

「ありがとう……エラン。ああっ、もう大丈夫だ。下がっていいよ……」

イサクお兄様はいつも私のことを気遣ってくれた。しかしながら、私は率先してお兄様の面倒を見た。ずっとずっと胸に秘めていた想い……私はイサクお兄様が体を傷つけて酷く落ち込んだ。イサクお兄様に傷をつけた者を殺したいとも思った。これをイサクお兄様に伝えると、

「ははははっ……君は結構気が荒いんだね」

と言って笑った。

「何かおかしいですか?」

私が尋ねると、イサクお兄様は、

「いやいや、ありがとう」

とだけ言った。


私はイサクお兄様が好きだった。争い事はいくらでも許されるというのに、どうして兄妹同士の恋は認められないのだろうか?こんな問いを発すること自体、おかしいのだろうか?

「この戦いを終わらせる方法を色々考えてみたんだがね、一つだけ思いついたものがある」

イサクお兄様は自身に満ち溢れていた。それは、私がトスカーナ第二王朝に嫁ぐということだった。
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