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その1
しおりを挟む6月6日のメトロポリスは雨だった……。
傘を持っているけどささない。このまま濡れている方が気持ちいい。
街行く人は怪訝そうに僕を見つめる。
無機質なビルディングの合間を気にせず歩く。
雷鳴が胸に響く。このまま頭から足へ駆け抜けるのだろうか?
古い商店街のシャッターを開ける老婦人。
眠たげな眼を必死に擦っている。
この世界は大きく二つに分かれている。
全てを失った者と全てを得た者。
僕は中間を行ったり来たりしていた。
今朝、全てを失った。
さて、これからどうしようか?
とりあえず物乞いでもしましょうか?
上を向く者は下を向く者の眼を知らない。
上を向きたかったら奪うしかない。
丁度美味しい素材があるじゃないか……。ここに……。
「おはようございます」
「行ってらっしゃい」
御婆さんと少女の普通な会話。
しかしながら、メトロポリスでは少し違う。
少女は細い路地に差し掛かった。
高校生だろうか?随分とユニークな制服だ。
僕が世間知らずなだけだろうか?
少女は傘をさしている。雨音が五月蠅い。
だから、僕のことなんて気が付かない。
あの路地の角に崩壊寸前のぼろやがある。
僕の根城だ……。
そこへ連れ込めば……。
「もしもし……お嬢さん?」
「はい……?」
「ちょっとこちらまで来てくれますか?」
「どうして?」
「どうしてもです……」
少女の怒号が響いたかもしれない。
それでも、天の涙には敵わない。
いや……。
下を向く者の嘆きには敵わない……。
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