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その14

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「とにかく、あなたのお父様からのお願いでありますから、私がそれに従わない事は不可能なのです。よって、私はあなたと婚約することになります。ただ、一言だけ付け加えておきます。婚約と言うのはあくまでも形だけのことでありまして、それ以上でもそれ以下でもないと言うことをご承知おきいただきたいのです。例えば、子供を設けるなどと言う事は致しません。普通の夫婦とは違いますから、夜の営みなども全てございません。そもそも、私はあなたのことを全く何も知りませんし、特に愛してもおりません」

いわゆる、政略結婚と言うものでしょうか。ちょっと違いますね。この伯爵には私と婚約することで特にメリットなんてありません。いや、ひょっとすると、これはお父様の提案でありますから、私と婚約することで、爵位が上がったりすることがあるのでしょうか。

もしも、伯爵から公爵に上がれば、地方長官をやる必要なんてあります。中央政府に入って、働くことができるのです。そうか、彼の狙いはきっと出世なのです。そして、私との無意味な婚約を持って、それはきっと成就するのです。

失礼とか、そういうものを全て通り越してしまって、やっぱりこの方は貴族なのだと私は思いました。私の1番大嫌いな貴族なのです。でも、私が何か口答えする立場にはありませんでした。愛されて婚約する、それが私の幼い頃の夢でした。そんなものが現実でないと知ったのは物心ついた頃です。形だけでも、私は将来王子様の元へ嫁ぐことになっておりましたから。


ひょっとすると、この世界にかなう恋なんてかもしれません。あるのはただ、制約によって動かされる駒だけなのです。

「ちなみに、もう一つだけ申し上げておきましょう。あなたは私の正妻になるわけですが、当然私にも側室はいます。しかしながら、その側室というのが、本来私の愛するべき女性だったのです。言いたい事はわかりますね?」

それにしても、私は人生の中で何回みじめさを感じれば良いのでしょうか?本当に、もう終わりにはできないのでしょうか。多分無理なのでしょう。

側室……なるほど、それがほんとに愛する女性なのですね。

「子細承知しました」

私はそう答えました。そう答えるのが、一種の義務だと思ったからであります。私が何か文句を言っても、そこに真実の恋がないわけでございますから、意味がないのです。

ああ、一つあくびでもして、早く寝てしまいたい気分でした。

私の人生がここまで……ここまでだったとは。

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