Melting Dead 最弱の科学者が紡ぐ世界

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2082年 4月8日 その1

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 あれから三か月が経った。

 父と母、そして晴海。四人が揃ったのは、去年の十月以来だった。正の両親は、記憶のメカニズムについて研究している、国際的な神経学者である。数年前から、研究の拠点を海外に移したため、殆ど会う機会がなかった。最も、晴海が実際の年よりも大人びていたので、両親に言わせれば、正のことを任せられるということだった。晴海は、両親の同意を得て……と上手くことが運ぶことを半ば期待していたのだが、正が鈍感すぎるせいで叶わなかった。


 両親は、正から国立科学院合格の一報を受けた時、晴海ほどではないが、喜んだ。

 父は、科学院の入り口がロボットによって管理されていることに驚いた。
「私が通っていた頃は、未だ人だったからな。すごい進歩だ……」
「ご子息の入学、おめでとうございます」
 ロボットの礼儀正しい挨拶に、父は度肝を抜かれた。
「こ、こちらこそ。どういたしましてです」
 正と晴海は思わず笑ってしまった。

 講堂へ続く並木道を、父と母は、互いに手を握って歩いていた。
「昔とちっとも変わらないな。こうやって息子の入学式に参加できるなんて。当たり前のことなんだけど、胸が高鳴るよ」
「本当に。懐かしいですね。ほら、あのベンチ!」
 母は、噴水の近くにある、木製の古びたベンチを指差した。
「懐かしいじゃないですか。昔、お父さんが私に告白してくれた場所……」
「母さん!また、そんな話を……」
「いいえ、お父さん。可愛い子供たちに聞かせてあげましょうよ。ねえ、正。晴海。聞いてみたいでしょう」
「別に、今更聞いても……」

 正は、もはや自分が主役でないことを悟った。

 まあ、親の仲がいいことは悪いことじゃない。若いカップルみたいにいちゃつくのはどうかと思うけど……。そう言えば、国立教育研究所の発表によると、夫婦仲のいい子供は、成績が良いのだとか。そのおかげかな。

 母の、少女のように煌く視線を、ストレートに感じ取ったのは、晴海だった。
「聞かせてほしいな……」
「……あの、晴海さん?」

 結局、晴海は母の恋物語を聞いた。正は、講堂への道のりを急いだ。後に晴海が、
「将来はお兄ちゃんと二人だけで歩きたいな」
 と言ったような、言わなかったような……。

 
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