Melting Dead 最弱の科学者が紡ぐ世界

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2082年 1月20日 その3

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「お兄ちゃん!」
 もうこれ以上説明する必要はなさそうだった。晴海は事の成り行きを知っていた。
「ただいま」
 正はそれしか言わなかった。
「じゃあ、受かったんだね!おめでとう」
「まあ、そんなところだ。ありがとな」
 正は晴海の頭を軽く撫でた。
「晴海ね、今までで一番うれしい日かもしれない。だってほら、お兄ちゃんの顔に喜びが溢れているんだもの」
 正は気になって、鏡を見つめた。
「……いつもと同じように見えるが」
 晴海は大きく横に首を振った。
「そんなことないよ。晴海、分かるもん。今日のお兄ちゃんはいつにも増して素敵なの」
「そうか……。他人の方がよくわかるってことだ」
 正は二度頷いて、リビングへ向かった。
「食事の準備はもう出来てるよ」
 晴海の元気な声が後ろから響いた。

 正は、晴海のこしらえた、豪勢な夕食に目を奪われた。
「これ全部、晴海が作ったのか?」
「そうだよ。私以外にいないでしょ?」
「まあ、そうだけど」

 それにしても豪華だった。確かに晴海の料理は美味しい。それは誰しもが認めること。しかしながら、それは味の問題である。要するに、調味料の配分と、人間の知覚が上手くマッチした状態を指す。つまり、見た目は別の問題である。晴海の料理は、見た目的には普通だった。視覚芸術のセンスはノーマルということ。それが、今晩はどうだろう。見た目からして華やいでいる。ちょっとしたパーティーに合いそうだ。 
「見てるだけじゃなくて、早く食べようよ」
「ああ、そうだな……」
 正と晴海はいつもの位置に座った。晴海はお茶と皿の準備をした。
「ありがとう」
「どういたしまして!」
 いつものように、ぶっきらぼうな客と、人懐っこいメイドの駆け引きが続いた。
「本当に美味しいな」
「よかった!気に入ってもらえて」
 晴海は、正がよく味わって食べるのを逐一見ていた。

 食事が終わると、正は、いつものように自室へ向かった。勿論、晴海も一緒に。
「お兄ちゃん。受験も終わったことだし……。今日は少しお話がしたいと思ってるの」
「何だ。相談事か。遠慮するな」
「うん、分かった。それじゃ、ちょっと待ってね……」
 晴海は頭をひねった。聞きたいことがありすぎて、何から話せばいいか分からなかった。暫く経って、
「一番大切な質問をします」
 と言った。晴海は、それまでの甘えたがりやを押し殺し、真面目な顔をした。

「……お兄ちゃんの将来の夢って何?」
「何だって?」
 正は耳を疑うしかなかった。兄の夢が一番の関心事だって?それにしても……確かに何だろう。
「分からないの?」
「考えたこともないな……。物心ついた頃から、親の操り人形になったわけで……。自分で考えたことなんてないな。言われてみると……何だろうな」
 正は頭を抱え込んだ。答えのない問いは本当に難しい。何故なら、答えのあるクイズしかやってこなかったから。
「本当に何だろう……」
 正は答えを出せなかった。候補はいくつかあった。しかしながら、それは自分の意志でないと、誰かが囁くように感じたので、口に出さなかった。
「少し考えさせてくれないか」
「うん。わかった。いつか教えてね!」
 晴海はにこりと微笑んだ。


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