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2082年 1月10日 その3
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「僕が早すぎるのか、それとも周りのレベルが低いのか……」
その時、正は合格を確信していた。すぐさま携帯電話を取り出し、晴海の電話番号を探し始めた。真っ先に伝えたかった。
「もしもし。お兄ちゃん?」
「うん、僕だ。多分大丈夫だ。満点合格じゃないか?」
「ほんと?やった!やっぱりお兄ちゃんすごいね!」
正は晴海を、晴海は正を、互いに気遣った。どちらにしても、これ以上の喜びはない、という具合に。
家に着くと、晴海は今までの中で一番早く、正の元へ歩み寄った。普段は、勢い余って正に倒れかかるのだが、この時は、正の手をしっかりと握り、元気よく、お帰りなさい、と言った。
「ただいま。寒いだろう。早く部屋に入ろう」
正は晴海の手からゆっくりと離れた。トレンチコートを脱ぐと、廊下が寒いことを実感した。正は晴海の手を再び握りしめ、暖房の効いた部屋に入った。
「あの……、少し暑いんじゃないか」
リモコンに目を通すと、設定温度は、28度だった。どうりで、晴海の頬が、血の巡りの良い少女のように紅いわけだった。
「どうしてこんなに高い温度なんだ?寒いのか?いや、そんな訳はないだろう。なぁ、晴海。外で遊んでいたわけじゃないだろう」
晴海は、えっ、と口角を緩めた。何かまずいことを隠そうとしているようだった。
「晴海。何かあったのか?怒らないから言ってみな。兄弟に隠しごとはなしだって、晴海が言ったんだろう。さあ、こっちにおいで。どうしたんだ。まるで何かを怖がっているような目つき……」
正は、三秒間の長い沈黙を過ごした。
一体、外で何をしていたのだろう?怖気づいた目、そして、僕には言えないこと……。
「そんなことよりさ、お兄ちゃん。早く食事をしようよ」
晴海は間違いなく動揺していた。関心事をそらそうとしていた。正は、これだけの断片的な情報から推測することは不可能だと考えた。暫く、晴海の様子をうかがうことにした。
「分かった。すごく腹が減ってるんだ。晴海、頼むよ」
正は晴海の頭を撫でてやった。
「もう、お兄ちゃんってば……。そんなことしても、大盛りくらいしか出来ないよ」
大盛りしか?
ほかの選択肢もあるのか?
晴海は茶碗いっぱいにご飯を盛った。
「ねえ、何か隠しているんじゃないか?」
「別に。何もないよ。そんなことより、おめどとう。お兄ちゃん」
食事を終えると直ぐに、自室へ向かった。晴海は何も言わずについてきた。いつもの椅子にいつもの机、そして、いつもの電灯。唯一違うことと言えば、これ以上勉強する必要がないということだった。正は、ベッドにもたれかかった。親の目をぬすんで、何か楽しいことをする子供のように笑っていた。
「お兄ちゃん。少し起きているほうが良いよ。身体に悪いよ」
「心配することはない。今日で全てが終わったんだ。少し羽目を外したくらいで、ばちは当たらないさ」
正は、窓から差し込む光を見つめた。
「ほら、おいで」
正は晴海のために腕を大きく広げた。
「うん!」
晴海は満面の笑みで飛び込んできた。
「久しぶりに一緒に寝るか?」
「……いいの?」
「あぁ……。ほら、お星さまも僕たちを祝ってるようだよ……」
「お兄ちゃん……えへへ……嬉しいな……」
正は晴海を全身で包み込んだ。夜は未だ長くかかりそうだった。
その時、正は合格を確信していた。すぐさま携帯電話を取り出し、晴海の電話番号を探し始めた。真っ先に伝えたかった。
「もしもし。お兄ちゃん?」
「うん、僕だ。多分大丈夫だ。満点合格じゃないか?」
「ほんと?やった!やっぱりお兄ちゃんすごいね!」
正は晴海を、晴海は正を、互いに気遣った。どちらにしても、これ以上の喜びはない、という具合に。
家に着くと、晴海は今までの中で一番早く、正の元へ歩み寄った。普段は、勢い余って正に倒れかかるのだが、この時は、正の手をしっかりと握り、元気よく、お帰りなさい、と言った。
「ただいま。寒いだろう。早く部屋に入ろう」
正は晴海の手からゆっくりと離れた。トレンチコートを脱ぐと、廊下が寒いことを実感した。正は晴海の手を再び握りしめ、暖房の効いた部屋に入った。
「あの……、少し暑いんじゃないか」
リモコンに目を通すと、設定温度は、28度だった。どうりで、晴海の頬が、血の巡りの良い少女のように紅いわけだった。
「どうしてこんなに高い温度なんだ?寒いのか?いや、そんな訳はないだろう。なぁ、晴海。外で遊んでいたわけじゃないだろう」
晴海は、えっ、と口角を緩めた。何かまずいことを隠そうとしているようだった。
「晴海。何かあったのか?怒らないから言ってみな。兄弟に隠しごとはなしだって、晴海が言ったんだろう。さあ、こっちにおいで。どうしたんだ。まるで何かを怖がっているような目つき……」
正は、三秒間の長い沈黙を過ごした。
一体、外で何をしていたのだろう?怖気づいた目、そして、僕には言えないこと……。
「そんなことよりさ、お兄ちゃん。早く食事をしようよ」
晴海は間違いなく動揺していた。関心事をそらそうとしていた。正は、これだけの断片的な情報から推測することは不可能だと考えた。暫く、晴海の様子をうかがうことにした。
「分かった。すごく腹が減ってるんだ。晴海、頼むよ」
正は晴海の頭を撫でてやった。
「もう、お兄ちゃんってば……。そんなことしても、大盛りくらいしか出来ないよ」
大盛りしか?
ほかの選択肢もあるのか?
晴海は茶碗いっぱいにご飯を盛った。
「ねえ、何か隠しているんじゃないか?」
「別に。何もないよ。そんなことより、おめどとう。お兄ちゃん」
食事を終えると直ぐに、自室へ向かった。晴海は何も言わずについてきた。いつもの椅子にいつもの机、そして、いつもの電灯。唯一違うことと言えば、これ以上勉強する必要がないということだった。正は、ベッドにもたれかかった。親の目をぬすんで、何か楽しいことをする子供のように笑っていた。
「お兄ちゃん。少し起きているほうが良いよ。身体に悪いよ」
「心配することはない。今日で全てが終わったんだ。少し羽目を外したくらいで、ばちは当たらないさ」
正は、窓から差し込む光を見つめた。
「ほら、おいで」
正は晴海のために腕を大きく広げた。
「うん!」
晴海は満面の笑みで飛び込んできた。
「久しぶりに一緒に寝るか?」
「……いいの?」
「あぁ……。ほら、お星さまも僕たちを祝ってるようだよ……」
「お兄ちゃん……えへへ……嬉しいな……」
正は晴海を全身で包み込んだ。夜は未だ長くかかりそうだった。
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