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2082年 1月10日 その1
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正が国立科学院を訪れたのは、今回が二度目だった。一度目は去年の夏。つまり、大学見学である。
正門の前で受験生を待ち構えているのは、十台のロボットだった。持参した受験票と、本人の同一性を確認する。確認が済むと、講堂へ続くモノレールに乗車することが出来る。
「お名前をフルネームでおっしゃってください」
随分と立派なロボットだな。喋り方も精巧だ。
「伊能正です」
ロボットは正の指紋、眼底認証を迅速に行った。
「入校を許可します。頑張ってください」
驚いたことに、ロボットは人に模した五本の指の内、親指を天に向けた。無表情なロボットはどこか人懐っこく、かえって不気味だった。
モノレールに乗れるのは最大十人。とは言っても、受験生が少ないので、正の番はすぐに来た。
こればかりは昔ながらなのか。今時だから、テレポートとか出来そうだけど……。
揺られること五分。正は講堂に到着した。これまた相当に古い建物で、地震でも来たら壊れてしまいそう。まあ、国立科学院に限ってそれはないか……。
足を踏み入れた瞬間、思わず天井を見上げた。荘厳な中世の教会と言えばいいのか、それとも……。歴史的資料として鑑賞するだけなら、その素材はいくらでもある。そこには大抵、立ち入り禁止と書かれた大きなプラカードが添えられていて、ボルテージを下げてしまう。
「カメラ……。持ってくればよかった」
正は思わず呟いた。古代アテネの学び舎を彷彿とさせる。確かに、国家の中枢を担う人材の選抜場所として不足はない、と思った。思いっきり深呼吸をしてみた。何ら変わらない空気のはずだが、正は、頭の中で一々理屈をこねた。講堂に関わる、ありとあらゆるものが、正の燃えたぎるプライドに拍車をかけた。
正は所定の座席に着いた。その後やって来た受験生は、おおよそ百人くらいであった。全ての受験生が席に着いたことを、中央のロボットが確認すると、前方のドアが開き、四人の人間が現れた。
「試験監督者は、解答用紙と問題の確認をして下さい」
講堂内に響いた指示を受けて、中央のロボットは、確認作業を開始した。正は、右手でペンを回しながら、ロボットの動きを観察した。
「特に問題ありません。配布してください」
確認に要した時間は、およそ五分だった。四人は、それぞれのブロックに分かれ、問題冊子を配布し始めた。
「問題冊子と解答用紙を確認してください」
正のブロックを受け持っていたのは、初老の痩せこけた男性だった。思いやりの籠った口調は、正の好感度を大きく上げた。きっと、どこかの部署の教授だ。入学した暁には、弟子にしてもらおう。正は勝手に胸を膨らませた。男性は、正の後ろに座っている受験生にも、同じ口調で説明した。
時計の針が九時を刻んだ。
「試験を開始します!」
ロボットの合図により、試験がスタートした。
正門の前で受験生を待ち構えているのは、十台のロボットだった。持参した受験票と、本人の同一性を確認する。確認が済むと、講堂へ続くモノレールに乗車することが出来る。
「お名前をフルネームでおっしゃってください」
随分と立派なロボットだな。喋り方も精巧だ。
「伊能正です」
ロボットは正の指紋、眼底認証を迅速に行った。
「入校を許可します。頑張ってください」
驚いたことに、ロボットは人に模した五本の指の内、親指を天に向けた。無表情なロボットはどこか人懐っこく、かえって不気味だった。
モノレールに乗れるのは最大十人。とは言っても、受験生が少ないので、正の番はすぐに来た。
こればかりは昔ながらなのか。今時だから、テレポートとか出来そうだけど……。
揺られること五分。正は講堂に到着した。これまた相当に古い建物で、地震でも来たら壊れてしまいそう。まあ、国立科学院に限ってそれはないか……。
足を踏み入れた瞬間、思わず天井を見上げた。荘厳な中世の教会と言えばいいのか、それとも……。歴史的資料として鑑賞するだけなら、その素材はいくらでもある。そこには大抵、立ち入り禁止と書かれた大きなプラカードが添えられていて、ボルテージを下げてしまう。
「カメラ……。持ってくればよかった」
正は思わず呟いた。古代アテネの学び舎を彷彿とさせる。確かに、国家の中枢を担う人材の選抜場所として不足はない、と思った。思いっきり深呼吸をしてみた。何ら変わらない空気のはずだが、正は、頭の中で一々理屈をこねた。講堂に関わる、ありとあらゆるものが、正の燃えたぎるプライドに拍車をかけた。
正は所定の座席に着いた。その後やって来た受験生は、おおよそ百人くらいであった。全ての受験生が席に着いたことを、中央のロボットが確認すると、前方のドアが開き、四人の人間が現れた。
「試験監督者は、解答用紙と問題の確認をして下さい」
講堂内に響いた指示を受けて、中央のロボットは、確認作業を開始した。正は、右手でペンを回しながら、ロボットの動きを観察した。
「特に問題ありません。配布してください」
確認に要した時間は、およそ五分だった。四人は、それぞれのブロックに分かれ、問題冊子を配布し始めた。
「問題冊子と解答用紙を確認してください」
正のブロックを受け持っていたのは、初老の痩せこけた男性だった。思いやりの籠った口調は、正の好感度を大きく上げた。きっと、どこかの部署の教授だ。入学した暁には、弟子にしてもらおう。正は勝手に胸を膨らませた。男性は、正の後ろに座っている受験生にも、同じ口調で説明した。
時計の針が九時を刻んだ。
「試験を開始します!」
ロボットの合図により、試験がスタートした。
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