Melting Dead 最弱の科学者が紡ぐ世界

tartan321

文字の大きさ
上 下
9 / 16

2082年 1月10日 その1

しおりを挟む
 正が国立科学院を訪れたのは、今回が二度目だった。一度目は去年の夏。つまり、大学見学である。

 正門の前で受験生を待ち構えているのは、十台のロボットだった。持参した受験票と、本人の同一性を確認する。確認が済むと、講堂へ続くモノレールに乗車することが出来る。

「お名前をフルネームでおっしゃってください」
 随分と立派なロボットだな。喋り方も精巧だ。
「伊能正です」
 ロボットは正の指紋、眼底認証を迅速に行った。
「入校を許可します。頑張ってください」
 驚いたことに、ロボットは人に模した五本の指の内、親指を天に向けた。無表情なロボットはどこか人懐っこく、かえって不気味だった。

 モノレールに乗れるのは最大十人。とは言っても、受験生が少ないので、正の番はすぐに来た。

 こればかりは昔ながらなのか。今時だから、テレポートとか出来そうだけど……。

 揺られること五分。正は講堂に到着した。これまた相当に古い建物で、地震でも来たら壊れてしまいそう。まあ、国立科学院に限ってそれはないか……。

 足を踏み入れた瞬間、思わず天井を見上げた。荘厳な中世の教会と言えばいいのか、それとも……。歴史的資料として鑑賞するだけなら、その素材はいくらでもある。そこには大抵、立ち入り禁止と書かれた大きなプラカードが添えられていて、ボルテージを下げてしまう。

「カメラ……。持ってくればよかった」
 正は思わず呟いた。古代アテネの学び舎を彷彿とさせる。確かに、国家の中枢を担う人材の選抜場所として不足はない、と思った。思いっきり深呼吸をしてみた。何ら変わらない空気のはずだが、正は、頭の中で一々理屈をこねた。講堂に関わる、ありとあらゆるものが、正の燃えたぎるプライドに拍車をかけた。

 正は所定の座席に着いた。その後やって来た受験生は、おおよそ百人くらいであった。全ての受験生が席に着いたことを、中央のロボットが確認すると、前方のドアが開き、四人の人間が現れた。
「試験監督者は、解答用紙と問題の確認をして下さい」
 講堂内に響いた指示を受けて、中央のロボットは、確認作業を開始した。正は、右手でペンを回しながら、ロボットの動きを観察した。
「特に問題ありません。配布してください」
 確認に要した時間は、およそ五分だった。四人は、それぞれのブロックに分かれ、問題冊子を配布し始めた。

「問題冊子と解答用紙を確認してください」
 正のブロックを受け持っていたのは、初老の痩せこけた男性だった。思いやりの籠った口調は、正の好感度を大きく上げた。きっと、どこかの部署の教授だ。入学した暁には、弟子にしてもらおう。正は勝手に胸を膨らませた。男性は、正の後ろに座っている受験生にも、同じ口調で説明した。


 時計の針が九時を刻んだ。
「試験を開始します!」
 ロボットの合図により、試験がスタートした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。

タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。

夜空に瞬く星に向かって

松由 実行
SF
 地球人が星間航行を手に入れて数百年。地球は否も応も無く、汎銀河戦争に巻き込まれていた。しかしそれは地球政府とその軍隊の話だ。銀河を股にかけて活躍する民間の船乗り達にはそんなことは関係ない。金を払ってくれるなら、非同盟国にだって荷物を運ぶ。しかし時にはヤバイ仕事が転がり込むこともある。  船を失くした地球人パイロット、マサシに怪しげな依頼が舞い込む。「私たちの星を救って欲しい。」  従軍経験も無ければ、ウデに覚えも無い、誰かから頼られるような英雄的行動をした覚えも無い。そもそも今、自分の船さえ無い。あまりに胡散臭い話だったが、報酬額に釣られてついついその話に乗ってしまった・・・ 第一章 危険に見合った報酬 第二章 インターミッション ~ Dancing with Moonlight 第三章 キュメルニア・ローレライ (Cjumelneer Loreley) 第四章 ベイシティ・ブルース (Bay City Blues) 第五章 インターミッション ~ミスラのだいぼうけん 第六章 泥沼のプリンセス ※本作品は「小説家になろう」にも投稿しております。

銀河英雄戦艦アトランテスノヴァ

マサノブ
SF
日本が地球の盟主となった世界に 宇宙から強力な侵略者が攻めてきた、 此は一隻の宇宙戦艦がやがて銀河の英雄戦艦と 呼ばれる迄の奇跡の物語である。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スペースランナー

晴間あお
SF
電子レンジで異世界転移したけどそこはファンタジーではなくSF世界で出会った美少女は借金まみれだった。 <掲載情報> この作品は 『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n5141gh/)』 『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/29807204/318383609)』 『エブリスタ(https://estar.jp/novels/25657313)』 『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054898475017)』 に掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

処理中です...