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手記 後編
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しきりに、時計の針を追い続けていた。気がついた頃には、日をまたいでいた。研究者特有の根性なのだろう。まあ、今晩だけは褒めてあげようじゃないか。もう二度と、賞賛を浴びることはないのだから。そう考えると、可笑しくなった。仕方なく、私は空を見上げた。そうだ、七夕。でも、空はあまり楽しくなさそうだった。二人は結局会えなかったのだろうか。その雲は、悲しみのあまり、大粒の涙をやっとの思いで堪えていた。
早く帰って来い、と何度唱えただろうか。時は無造作に過ぎていった。ビルの合間から顔を覗かせた太陽を必死に拝む。そう、結局は単なる怖がりなんだ。なんとなく明るい所が好き。新たな一日が無事に終わることを祈る。夜は……、あまり好きじゃない。
手紙を読んでいる私が利口だったら、とっくに足を洗っている頃かな?二つの選択肢がある。このまま戦いを続けるか、それとも、稼いだ金で悠々自適な生活を送るか。
悪くはないね。いや、未来を考えると、後者の方が良いかも知れない。何故かって?私自身もその答えを知らない。長年の勘、ということにしておこう。
さて、話を戻そう。あの後、研究員の姿を見かけることはなかった。理事長と名乗る男にメールを送ったところ、焦る必要はない、ただし確実に、という返事を得た。私はひとまず、ホームに帰った。怠け者の性といったところだろうか。すぐさま、布団に身を鎮めることになった。
目が覚めたのは、正午を過ぎた頃だった。お世辞にも上手いとは言い難い焼きそばを頬張り、ベレッタの手入れをする。恋人、と言っては大いに語弊があるかもしれない。しかしながら、その優美なボディーを磨く度、間違いなく私の誇りを掻き立ててくれる。目覚めにペールギュント、といった具合だろうか。こればかりは、金で買える代物ではない。
日課を済ませると、すぐさまターゲットへ直行する。暑い。もはや、温暖化という言葉自体が死語になっている。科学技術のスピードを遥かに凌駕する天の怒り。とどのつまり、死を受け入れるしかない。ああ、これから私が実行する殺人は、神の意志に合う。汝人を殺すことなかれ、と何度も説教を受けた気がするが、今回ばかりは見逃してくれると信じたい。
再びあの別世界へ足を踏み入れる。何とも釈然としない。風が力強くヒューヒューと唸り声を上げているのに、涼しさを感じない。ビルの合間とは言え、振動を感じないはずがない。きっと空耳なのだろう。あるいは、頭が既に麻痺しているのか……。いや、百聞は一見にしかずだ。住所を書いておくから、足を運んでみると良い。最も存在の可否については、その答えを知らない。
結局のところ、その日も姿を現さなかった。この日の空は、生憎にも晴れていた。月が、これ見よがしに光っていた。私は空間の小さな点に過ぎなかった。
さて、この手紙を書いている私は、西暦2118年を生きている。この手紙は、最初、2117年を生きる私に届く。次に、2116年を生きる私に届く。次に2115年を生きる私に届く。もうお分かりだろう。つまり、1年ずつ過去へ遡っていくわけだ。今、この手紙を手にとっている私は、一体、西暦の何年を生きているのだろうか。紀元前?いや、そうだったら嬉しいが、現実的ではない。強いて言えば、西暦2082年かな。それよりも未来で途絶えてしまったのならば、Aは所詮、既成宇宙という、大河のうねりに飲み込まれて人生を終えることになるだろう。それよりも過去まで、この手紙が受け継がれているのだとすれば、実に素晴らしいことだ!
何れにしても、私は私に二つの選択肢を示す。一つ目は、理事長を名乗る男の言う通りに研究員を殺害する。二つ目は、男を裏切り、研究員を助ける。何故こんな選択を投げかけるのかって?それは、私自身、この問いの答えを見出せていないからだ。男は、幾ら時間をかけても良い、と言っている。しかしながら、限度というものがあるだろう。契約を解除すれば、私はこれ以上筆をとることができなくなる。しかし、このまま粘り、研究員を殺すことに成功した暁、一体何が起きるのか、考えてみたくないかね?
こう見えても、神を肯定する私に言わせれば、どちらの言い分を支持しても、地獄行きだ。しかしながら、男は嘗て、国家の中枢にいた人間。これ程野暮な殺人屋に頼まなくても、事足りるはず。報酬も、常識の範疇を超えている。私は、男を黒と見た。所詮は勘であるが。
私は野暮な探偵となり、男と研究員のことについて調べることにした。別に、研究員の殺害をやめたわけでは無い。これなら契約を破ったことにはならない。男は頷くしかないだろう。
私は、出来ることなら、この手紙を手にとっている、各年代の私と話がしたいと思っている。特に、2082年に生きる私の返事を期待することにしよう。
本当に素晴らしいことが起きる。それは、嘗ての既成宇宙を捻じ曲げる力だ。他でもない、この私に、その力は宿るだろう。
早く帰って来い、と何度唱えただろうか。時は無造作に過ぎていった。ビルの合間から顔を覗かせた太陽を必死に拝む。そう、結局は単なる怖がりなんだ。なんとなく明るい所が好き。新たな一日が無事に終わることを祈る。夜は……、あまり好きじゃない。
手紙を読んでいる私が利口だったら、とっくに足を洗っている頃かな?二つの選択肢がある。このまま戦いを続けるか、それとも、稼いだ金で悠々自適な生活を送るか。
悪くはないね。いや、未来を考えると、後者の方が良いかも知れない。何故かって?私自身もその答えを知らない。長年の勘、ということにしておこう。
さて、話を戻そう。あの後、研究員の姿を見かけることはなかった。理事長と名乗る男にメールを送ったところ、焦る必要はない、ただし確実に、という返事を得た。私はひとまず、ホームに帰った。怠け者の性といったところだろうか。すぐさま、布団に身を鎮めることになった。
目が覚めたのは、正午を過ぎた頃だった。お世辞にも上手いとは言い難い焼きそばを頬張り、ベレッタの手入れをする。恋人、と言っては大いに語弊があるかもしれない。しかしながら、その優美なボディーを磨く度、間違いなく私の誇りを掻き立ててくれる。目覚めにペールギュント、といった具合だろうか。こればかりは、金で買える代物ではない。
日課を済ませると、すぐさまターゲットへ直行する。暑い。もはや、温暖化という言葉自体が死語になっている。科学技術のスピードを遥かに凌駕する天の怒り。とどのつまり、死を受け入れるしかない。ああ、これから私が実行する殺人は、神の意志に合う。汝人を殺すことなかれ、と何度も説教を受けた気がするが、今回ばかりは見逃してくれると信じたい。
再びあの別世界へ足を踏み入れる。何とも釈然としない。風が力強くヒューヒューと唸り声を上げているのに、涼しさを感じない。ビルの合間とは言え、振動を感じないはずがない。きっと空耳なのだろう。あるいは、頭が既に麻痺しているのか……。いや、百聞は一見にしかずだ。住所を書いておくから、足を運んでみると良い。最も存在の可否については、その答えを知らない。
結局のところ、その日も姿を現さなかった。この日の空は、生憎にも晴れていた。月が、これ見よがしに光っていた。私は空間の小さな点に過ぎなかった。
さて、この手紙を書いている私は、西暦2118年を生きている。この手紙は、最初、2117年を生きる私に届く。次に、2116年を生きる私に届く。次に2115年を生きる私に届く。もうお分かりだろう。つまり、1年ずつ過去へ遡っていくわけだ。今、この手紙を手にとっている私は、一体、西暦の何年を生きているのだろうか。紀元前?いや、そうだったら嬉しいが、現実的ではない。強いて言えば、西暦2082年かな。それよりも未来で途絶えてしまったのならば、Aは所詮、既成宇宙という、大河のうねりに飲み込まれて人生を終えることになるだろう。それよりも過去まで、この手紙が受け継がれているのだとすれば、実に素晴らしいことだ!
何れにしても、私は私に二つの選択肢を示す。一つ目は、理事長を名乗る男の言う通りに研究員を殺害する。二つ目は、男を裏切り、研究員を助ける。何故こんな選択を投げかけるのかって?それは、私自身、この問いの答えを見出せていないからだ。男は、幾ら時間をかけても良い、と言っている。しかしながら、限度というものがあるだろう。契約を解除すれば、私はこれ以上筆をとることができなくなる。しかし、このまま粘り、研究員を殺すことに成功した暁、一体何が起きるのか、考えてみたくないかね?
こう見えても、神を肯定する私に言わせれば、どちらの言い分を支持しても、地獄行きだ。しかしながら、男は嘗て、国家の中枢にいた人間。これ程野暮な殺人屋に頼まなくても、事足りるはず。報酬も、常識の範疇を超えている。私は、男を黒と見た。所詮は勘であるが。
私は野暮な探偵となり、男と研究員のことについて調べることにした。別に、研究員の殺害をやめたわけでは無い。これなら契約を破ったことにはならない。男は頷くしかないだろう。
私は、出来ることなら、この手紙を手にとっている、各年代の私と話がしたいと思っている。特に、2082年に生きる私の返事を期待することにしよう。
本当に素晴らしいことが起きる。それは、嘗ての既成宇宙を捻じ曲げる力だ。他でもない、この私に、その力は宿るだろう。
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