転生後の婚約破棄

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転生

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 前世の記憶……。

 そんなものはない。でもなぜか、私は転生したことを知っている。それも令嬢に!いや、いくら記憶がないと言っても、こんなに豪勢で煌びやかな服を着ていなかったことだけは分かる。専属の執事がいて、身の回りのことをしてくれるだなんて……ちょっと贅沢すぎる。

 これは夢なのかもしれない。でも、こうして冷静に考えることが出来るし、身体を動かすのだって自由自在。まるで、物語に吸い込まれてしまったような感じ。でも、これはリアルなんだ。

 贅沢と言えば、私の前に素敵な男性がいることも含めた方がいいだろう。

 ひょっとして……。

 いや、ひょっとしなくても、彼は私の婚約者なんです、みたいな展開になるのだろう。何から何まで至れり尽くせりだ。私の役回りは……令嬢なんだから当然かな?

 ちょっと待って?

 男性は何だか機嫌が悪そうですね。ひょっとして、ありがちな展開と言えば……。

「君との婚約を破棄しに来たんだ」

 やっぱりそうか。なんかそんな気がしていた。ここまで上手く行き過ぎっていうか……それにしても、どうして?

「私の愛しき妹に……ローズに手を出したんだってな!」

 なるほど、シスコン野郎ってわけですか……。

 大方想像はつきました。妹は妹で筋金入りのブラコンなのでしょう?私との婚約に納得がいかないんですね。それにしても……婚約者のことなんかお構いなしなんですか?貴族を名乗る割には、平民以下の頭しか持っていないようですね?

「君の仕業だということは分かっているんだ!」

 ああっ……いちいちうるさいなぁ……。

 早く出て行って下さいよ……。

「何とか言ったらどうなんだ?」

「お前……黙れ!」

 女性が男性を叱ることなんて、貴族の世界ではありえないのだろう。男性は大層驚いて部屋から出て行った。こんなおバカさん、こっちから願い下げだ!

「可哀想なお嬢様……婚約破棄されるだなんて」

 召使たちがひそひそと囁いている。みんな、私のことを心配してくれているみたい。嬉しいんだけど、元はと言えば、原因は私にあるみたいだし……。

「エリー……エリーはいるか?」

 また別の声が聞こえてきた。どうやら家主のようだ。つまり……私のお父様?私の名前はエリーというのだろうか?


「エリー……。無事か、怪我はないか?」

 お父様と思しき男性が私のことを優しく抱きしめてくれた。これが、親の温もりってやつか?

「あの不届き者は……私が処分する。エリー、すまなかった。私のミスだ、許してくれ!」

 不届き者って言うのは、あのバカ貴族のことだろうか?処分って……この世界から抹殺するってこと?

「国中に通達を出した!あいつを見つけ次第、即刻殺すようにとな!」

 国中……ひょっとしてこの人……。

「あの……お父様?」

「なんだ?」

「お父様って……皇帝か何か?」

「何を馬鹿なことを言うんだ?エリー、皇女は君じゃないか?」

 私が……皇女様?

「と言うことは……私がこの国のトップ?」

「エリー、あいつのせいで頭がおかしくなったのか?ああっ、可哀想に……。少し休みなさい。私が君の代理になろう」

 ふふふっ………………。

 そうか、私が皇女か……。

「お父様?私は大丈夫ですわ」

「そうか、それならいいんだが。ほら、これが執行書だ……」

 お父様から手渡された、死刑執行書に力強くサインした。


 それにしても……。

 平民から皇女になるなんて……。

 世の中、意外と悪くないね。
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