妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

その1

ハルトマン公爵家には二人の娘がいて、その一方が王子の元に嫁ぐと決まっていた。

誰よりも貴族らしく、そして、誰よりも優しく、をモットーに生きている姉のソフィアは、正直、王子との婚約に最初は興味を示さなかった。そんな未来を望んでいたわけではなく、人生を単調に過ごせればよいと思っていた。

妹のマリーは、姉のソフィアとは対照的に、目立ちたがり屋であり、自分が常に一番であることを望んでいた。その内面はともかくとして、外見で例えるならば、神に仕える天使とでも言ったところだろうか。どこも過不足なく、ただ、神様が最も均衡のとれた美しい人間を作り出した、とでも言えばいいのだろう。社交界の中心にいるのは、常にマリーであり、ソフィアの存在感が、マリーのおかげで大部薄まっていたのは事実である。

さて、王子の婚約者を最終的に選ぶのは、時の皇帝の仕事だった。ソフィアか、あるいは、マリーか。ハルトマン公爵を始め、数多くの貴族たちが、この結果が出るのを待っていた。

「王子ストークスの婚約者に、私はソフィアを推薦しようと思う……」

皇帝の出した結論は、ソフィアだった。世間には動揺が広がった。あれほど美しいマリーではなく、どちらかと言えば地味なソフィアが婚約者に選ばれた。もちろん、一番驚いたのはソフィア本人であったし、一番納得がいかなかったのは、婚約者になれなかったマリーだった。

「本当に私で大丈夫なのでしょうか？？？？？？？」

ソフィアは、ハルトマン公爵に問うた。ハルトマン公爵は、

「皇帝陛下がお選びになったのだから、いまさら、仕方のないことだろう……」

と答えた。その後、マリーが、部屋に入ってきて、

「お父様！！！！！！！！」

と大声で怒鳴り散らした。

「どうしてですか？？？？？？どうして、私が婚約者になれないのですか？？？？？？」

マリーは、その答えが分からずに不満だった。

「私だって分からないよ。皇帝陛下のお決めになったことなのだから、仕方ないさ……」

ハルトマン公爵は、こう答えた。

「私は納得いきませんわ！！！！！！！！！！」


そう言って、マリーは、姉であるソフィアを睨み付けた。

「お姉様？？？？？？ひょっとして、皇帝陛下に何か頼んだのではありませんか？？？？？？？」

これには、流石のソフィアも怒らざるを得なかった。

「私が何をしたっていうの？？？？？？皇帝陛下がお決めになったことなのよ？？？？？？」

「本当ですか？？？？？私には信じられませんね！！！！！！！どうして、私じゃないんですか？？？？？？？」


「止めないか……マリー。みっともないぞ……」

ハルトマン公爵は、マリーを注意した。それでも、マリーは納得できないようで、

「私の何がいけないんですか！！！！！！！！」

と、相変わらず怒鳴り続けた。

「この話はもう終わったことだ。お前だって、婚約しなければならないからな。ほら、皇帝陛下のご提案によって、お前の婚約者候補が送られてきたんだ……」

そう言って、ハルトマン公爵は、婚約者候補の載ったアルバムを、マリーに手渡した。

「こんなもの、いりませんわ！！！！！！！！」

そう言いながらも、マリーは婚約者候補の写真やプロフィールをチラチラと目で追い始めた。