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その77 クリスの父
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世界の民が跪く対象というのは、例えば神である。皇帝も人である以上、時には嫌われ、時には殺されることがある。
フランツはクリスの昼寝に付き合っていた。クリスはフランツの膝下がすっかり気に入った。子猫のように丸まって、すうすうと寝息を立てるのが可愛くて、フランツは世界よりもクリスを選んだ。
「私が必ず君の命の盾になるから。死ぬのは私だけで十分だ……」
さて、フランツの元に新たな旅人が現れた。旅人はフランツを見つけると、毒虫を睨みつけるようにフランツを見た。フランツは帝都からの刺客だと思い、剣を構えた。内心では、この旅人に勝てる気がしなかった。戦いのオーラとでも言えばいいのだろうか、フランツは全ての力を行使しても、全てはね返されてしまうと思った。旅人の狙いはクリスであると想像した。彼の目は女を探していたのだ。
もう終わりがやってきたのか、とフランツは思った。早すぎる。せっかく、この世界で最も大切な人を見つけたかと思えば、神様も残酷である。それが運命と言うならば仕方がない。戦って負けるので有れば、後悔しない。クリスを守る騎士として、この場は捨て身の戦いを選択しなければならなかった。
旅人はフランツの剣を見て、
「君の剣は王家に伝わる魂の剣か?」
と問いかけた。フランツは確信した。間違いなく、帝都の刺客である、と。
「だとすればなんだ!」
フランツの瞳には涙が灯っていた。
「もうこれで十分だろう。私が死ねばそれで十分であろう。クリスを連れていくな。私が終わらせれば、クリスは助かるんだ」
「クリス、だと?」
「貴様の狙いはクリスなのだろう?そんなことは分かっているんだ!」
旅人はフランツの側にいるクリスを見つめた。
「そうか、昨晩の暗示は君だったのか。悪いが、別れてもらうよ」
「そうはさせない!私を倒してからにしろ!」
旅人ははあっとため息をついて、
「君の聖剣は所詮はりぼてだろう?」
と言った。
若者というのは、戦いの作法を心得ていない。先に手を出した者が負ける世界で一番肝要なのは、ただ待つことである。フランツが血気盛んに襲いかかった。旅人は微動だにもせず、フランツの突進をただ見ていた。
フランツはこの時、勝利を確信した。剣が、確かに旅人の胸元を貫いたと感じた。運命の前哨戦は勝利に終わる……はずだった。
「あまいな、若者よ」
死んだはずの人間から、声が聞こえた。フランツは、額に冷や汗を浮かべた。
「クリスに与えられた運命を、君が背負うことはできない……」
フランツの意識はどんどん遠くへ飛んでいった。
フランツはクリスの昼寝に付き合っていた。クリスはフランツの膝下がすっかり気に入った。子猫のように丸まって、すうすうと寝息を立てるのが可愛くて、フランツは世界よりもクリスを選んだ。
「私が必ず君の命の盾になるから。死ぬのは私だけで十分だ……」
さて、フランツの元に新たな旅人が現れた。旅人はフランツを見つけると、毒虫を睨みつけるようにフランツを見た。フランツは帝都からの刺客だと思い、剣を構えた。内心では、この旅人に勝てる気がしなかった。戦いのオーラとでも言えばいいのだろうか、フランツは全ての力を行使しても、全てはね返されてしまうと思った。旅人の狙いはクリスであると想像した。彼の目は女を探していたのだ。
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旅人はフランツの剣を見て、
「君の剣は王家に伝わる魂の剣か?」
と問いかけた。フランツは確信した。間違いなく、帝都の刺客である、と。
「だとすればなんだ!」
フランツの瞳には涙が灯っていた。
「もうこれで十分だろう。私が死ねばそれで十分であろう。クリスを連れていくな。私が終わらせれば、クリスは助かるんだ」
「クリス、だと?」
「貴様の狙いはクリスなのだろう?そんなことは分かっているんだ!」
旅人はフランツの側にいるクリスを見つめた。
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「そうはさせない!私を倒してからにしろ!」
旅人ははあっとため息をついて、
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と言った。
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「あまいな、若者よ」
死んだはずの人間から、声が聞こえた。フランツは、額に冷や汗を浮かべた。
「クリスに与えられた運命を、君が背負うことはできない……」
フランツの意識はどんどん遠くへ飛んでいった。
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