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その1
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その日、私は第一王子であられるマルタイ様の部屋に呼ばれました。そして、私は途端に言葉を失いました。
「お姉様?御機嫌よう」
マルタイ様の隣には、なんと、義理の妹であるローラがいたのです。
「マルタイ様?これは一体どういうことでございますか?」
「どういうことって……それは私が聞きたいよ……」
マルタイ様は明らかに苛立っていました。
「エリーナ……君は自分の妹であるローラを虐めていたんだって?」
私は、マルタイ様が何を言っているのか分かりませんでした。
虐め?その文脈で言うと、ローラが私を虐めていたということになるでしょう。ローラは私よりも全ての面において優れていました。容姿はさることながら、学業、音楽、そして、舞踏作法など令嬢の中ではトップクラスでした。一方の私はと言うと、由緒正しいグリニッジ公爵家の長女として産まれたことくらいしか、自慢できる要素がありませんでした。第一王子であられるマルタイ様との婚約は、十年も前から決まっていたことであり、私は第一王子の妃として恥をかかぬよう、努力してまいりました。
それなのに、これは一体どういうことなのでしょうか。私がローラを虐めた?とんでもありません。そんなことは天に誓ってあり得ないのです。ですから、私はひたすら反論し続けました。
「しかし……ローラが私の元に泣いて飛びついてきたんだ。君がものすごく虐めるものだからってね」
マルタイ様は、私の話ではなく、ローラの話を一方的に受け入れていました。婚約者の話を全く聞かず、ローラの話を聞く……私は勘づきました。
つまり、マルタイ様は私との婚約をなかったことにして、本当はローラと婚約したいのだと。しかしながら、一度決まった婚約を破棄することは難しいので、私に非があることにしてしまえば、全て上手くいくと、こういうことなのでしょう。
確かに、第一王子の妃はローラの方が向いていると思いました。私よりも格段に華やかな令嬢でありますから、社交界の真ん中に立っても問題ないと思いました。そして、なんだかバカらしくなってきました。バカはバカなりに、王子の妃となるため、寝る間も惜しんで努力してきた十年間が、天才的な腹違いの妹の出現により、意味をなさなくなりました。
ああっ、どうしてもっと早くに気が付かなかったのでしょう。そうすれば、無駄な努力をしなくてすんだはずです。私は……全てがバカらしくなりました。
「エリーナ……これ以上君に尋ねることはない。私の言いたいことが分かるかね?」
私は大きく首を縦に振りました。
「よろしい。諸般の事情を鑑みて、私はエリーナとの婚約を破棄することをここに表明する」
その場に居合わせた文書官が、マルタイ様の言葉を確認し、白紙に大きく、婚約破棄、と刻みました。
「お姉様?御機嫌よう」
マルタイ様の隣には、なんと、義理の妹であるローラがいたのです。
「マルタイ様?これは一体どういうことでございますか?」
「どういうことって……それは私が聞きたいよ……」
マルタイ様は明らかに苛立っていました。
「エリーナ……君は自分の妹であるローラを虐めていたんだって?」
私は、マルタイ様が何を言っているのか分かりませんでした。
虐め?その文脈で言うと、ローラが私を虐めていたということになるでしょう。ローラは私よりも全ての面において優れていました。容姿はさることながら、学業、音楽、そして、舞踏作法など令嬢の中ではトップクラスでした。一方の私はと言うと、由緒正しいグリニッジ公爵家の長女として産まれたことくらいしか、自慢できる要素がありませんでした。第一王子であられるマルタイ様との婚約は、十年も前から決まっていたことであり、私は第一王子の妃として恥をかかぬよう、努力してまいりました。
それなのに、これは一体どういうことなのでしょうか。私がローラを虐めた?とんでもありません。そんなことは天に誓ってあり得ないのです。ですから、私はひたすら反論し続けました。
「しかし……ローラが私の元に泣いて飛びついてきたんだ。君がものすごく虐めるものだからってね」
マルタイ様は、私の話ではなく、ローラの話を一方的に受け入れていました。婚約者の話を全く聞かず、ローラの話を聞く……私は勘づきました。
つまり、マルタイ様は私との婚約をなかったことにして、本当はローラと婚約したいのだと。しかしながら、一度決まった婚約を破棄することは難しいので、私に非があることにしてしまえば、全て上手くいくと、こういうことなのでしょう。
確かに、第一王子の妃はローラの方が向いていると思いました。私よりも格段に華やかな令嬢でありますから、社交界の真ん中に立っても問題ないと思いました。そして、なんだかバカらしくなってきました。バカはバカなりに、王子の妃となるため、寝る間も惜しんで努力してきた十年間が、天才的な腹違いの妹の出現により、意味をなさなくなりました。
ああっ、どうしてもっと早くに気が付かなかったのでしょう。そうすれば、無駄な努力をしなくてすんだはずです。私は……全てがバカらしくなりました。
「エリーナ……これ以上君に尋ねることはない。私の言いたいことが分かるかね?」
私は大きく首を縦に振りました。
「よろしい。諸般の事情を鑑みて、私はエリーナとの婚約を破棄することをここに表明する」
その場に居合わせた文書官が、マルタイ様の言葉を確認し、白紙に大きく、婚約破棄、と刻みました。
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