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その1

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「さようなら……私の愛しきマリー……」

「コークス様……私が勘違いしておりました。どうぞ、私のことは忘れて……あなた様が望む世界へ旅立ってくださいませ!」

「マリー……これほど嬉しくて悲しい日は生まれて初めてだな……ほら、新しい朝が始まろうとしている……夜はもう終わったんだ……さようなら……愛しのマリー……」

「コークス様に最大の祝福を!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



私が住むストレプトという国は、他の国とは比べ物にならないくらい平和で豊かでした。それと言うのも、全て王子様でいらっしゃるコークス様のおかげでした。一般的に王家の人々は非常に独裁的で暴君というイメージが強いでしょう。しかしながら、コークス様はその真逆でした。広く国民を愛することがモットーで、その分非常に距離の近い存在でした。そのお陰で、本来殺伐としている貴族階級の方々も、爵位を捨てて、平民と一緒に畑仕事を愉しむようになりました。私のお父様も例外ではありませんでした。元は王家に代々仕える側近だったのですが、あの王子様ならば何も心配することなどないのでした。交戦書を認めるよりも、身体を使う方がよっぽど人間らしい生活と言うものでしょう。私も令嬢という肩書を捨てて、地元の子供たちと朝から晩まで畑仕事に精を出しました。

「マリーお姉様っ……見て、野菜がこんなにとれましたよ!」

自慢ではありませんが、私が子供を好きな分、子供たちもよく懐いてくれました。だからこそ、嘗て私のお庭だった土地を分け与えるのも、抵抗はありませんでした。

「まあ、すごいわね!」

子供たちも、そして、私も一日働いて非常に満足しました。

「さあ、みんなお家に帰りましょう。野菜はみんなで分けてね」

子供たちの笑顔を守るのが、私の使命でした。これほど満ち足りた人生を与えてくれた神様とコークス様に感謝……毎日そうしていました。

そんな日常に新たなスパイスが加わろうとしていました。私とコークス様が初めて出会った日のことです。あれは、いつもと変わらない夜のひと時でした。


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