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その35
しおりを挟むマリエル護衛をもっと安全に行うため、『マリエルになるべき気がつかれない道具』が完成した。
「よし、ドルトンさんで実験してみよう!」
新しい道具を実戦で使う前には、必ず実験が必須。
事前に設定の準備をして、道具を装着。ドルトンさんを驚かせにいくことにした。
奥のドルトンさんの作業場に移動する。
「ドルトンさん、ちょっといいですか?」
「ん? なんだ、“サラの嬢ちゃん”か? ハルクなら奴の作業場にいるぞ」
「いえ、私はサラでないですよ、ドルトンさん」
「ん? 何かの冗談か? その声も、どこから、どう見てもサラの嬢ちゃんだろ?」
真面目なサラは冗談を言わない。だからドルトンさんは首を傾げながら、不思議そうにこっちを見てくる。
よし、実験は成功だ。
これ以上騙すのは問題ななりそうだから、種明かしをする。
新しい道具の機能を解除だ。
ポワ――――ン
「ん? なっ⁉ ハ、ハルクだと⁉ どうして、サラの嬢ちゃんが、ハルクになったのだ⁉ これはどういうことじゃ……まさか魔族がワシを化かしにきたのか⁉」
まさかの現象にドルトンさんは目を見開き、言葉を失っている。
作業場あった魔戦斧を手にとり、こちらを威嚇してきた。
あっ……これはマズイ状況だ。
「間違いなくボクですよ! ハルクです! この新しい道具で、姿と声を変えていたんです!」
自分が本当にハルクあることを、慌てて証明する。
でも言ってから、ふと気がつく。こんな道具を見せたところで、魔族じゃないことの証明はできないのだ。
「むっ……その道具は⁉ そんな精密な鍛冶仕事をできるのは、ヤツだけだ。ふう……そうか、本物のハルクか。まったく驚かせやがって」
だがドルトンさんは信じてくれた。魔戦斧を置いて、深い息を吐き出す。
よく分からないけど誤解が解けて、本当によかった。
「すみません、驚かせて。まさか、そんなに信じるとは思わないで。ボクの予想では“少しだけ”サラに似ていた予定だったんですが」
「いや、いや。さっきの姿は、どこからどう見ても“サラの嬢ちゃんそのもの”だったぞ。いったい、その道具はなんだ⁉」
ドルトンさんはこちらに近づき、新しい道具をマジマジと見てきた。今度はちゃんと説明をしないと。
「えーと、これは魔道具を応用して作った鍛冶道具です。機能は『使用者の姿を、他人に似せる』です!」
マルキン魔道具店に『風景を一枚の紙に写す魔道具』と『絵を壁に透写する魔道具』が売ってあった。
ボクはその部品を使い、新たな道具を製造。事前に撮影した人物の容姿に、使用者を見せかける道具を作ったのだ。
さっきサラの顔と格好を、こっそりボクは撮影してきた。そのデータを使い、サラの格好に変身したのだ。
ちなみに声も同じように『音を少しだけ録音する魔道具』と『録音した音を再生する魔道具』を組みわせて、ボクの声をサラの声に変質させたのだ。
「……という訳です。機能は全部、市販の魔道具をそのまま応用しました」
今回の製造はそれほど難しい作業はしていない。
売り物の魔道具を分解して、パーツを取り出し少しだけ改造。
ミスリル・マジックミラーで変身できるように改造。あと超小型ミスリルモーターで声も変質にも改造しておいた。
ちなみにミスリル金属の保護のお蔭で、魔法による妨害や探知も受けつけない仕様だ。
他人の姿と声に変身できる道具……
――――その名も《怪盗百面相》だ!
どうですか、ドルトンさん。今の説明で分かってくれましたか?
「――――っ⁉」
説明を聞いて、ドルトンさんは固まっている。いったいどうしたんだろう。
「い、いや、どうしたのだろう、じゃないぞ、小僧⁉ オヌシはとんでもない性能の魔道具を、新たに作りだしたんじゃぞ! 自覚はあるのか?」
「えっ、『とんでもない性能の魔道具』をですか? “少しだけ”他人に変装できるだけの道具ですよ、これは?」
どうしてドルトンさんはここまで興奮しているのだろう。もしかしたら何か問題もあるのだろうか。
「ふう……本人とまったく同じ姿と声に変装でき、魔法による探知も不可能。そんな恐ろしい道具があったら、そんな城やお宝のある場所にも、当人は潜入可能なのじゃぞ!」
「あっ……そうか。でも、安心してください。使うには、特殊な認証取得機能があるので、悪用はできないです!」
買ってきた魔道具の中に『人を認識できる魔道具』があった。
今回はそれを組み込んでいるから、悪用される心配はないのだ。
「なるほど、それならひと安心じゃ。だが、とにかく、とんでもない魔道具を、いや……魔道具を超えた“超魔具”を作り出したモノだな、オヌシは」
ドルトンさんの言う“超魔具”とは魔道具と、鍛冶技術を組み合わせ名称なのであろう。呼び方が格好いいから、ボクも今度から使うことにしよう。
「ところで、その超道具《怪盗百面相》は、どう使うのじゃ?」
「とりあえず、マリエルが王都で行く先に出入りしている人物を、今後は撮影と録音してきます。明日以降は《怪盗百面相》を装備して、何気ない顔でマリエルに近辺にいる予定です!」
マリエルの王都でのスケジュールは把握済み。その利点を最大限に使い、先回りして準備をしていく。
彼女の護衛騎士や侍女。王城の騎士兵。王都の商館の関係者。色んな人物を、撮影していく予定だ。
ちなみに《怪盗百面相》は百人分の姿と声を記録可能。今後は常にマリエルの近くで、密かに護衛ができるのだ。
「ふむ、なるほど、そういう使い方か。気を付けて準備するのだぞ」
「たしかに、そうですね。それじゃ明日の分の準備に、行ってきます!」
ボクは工房を出発。向かう先は王都の“ある場所”だ。
こっそり撮影と録音をして、ついで情報も収集。変装してもバレないように、メモにとって整理しておく。
陽が落ちてから工房に帰宅。
夕食後は《怪盗百面相》を更に改造して、使いやすく調整する。
明日から絶対に失敗はできない。
集中して作業していると、あっとう間に夜はふけていく。
◇
翌朝になる。
今日はマリエルにとって大事な日。
彼女がミカエル城に登城して、現ミカエル国王に謁見する日なのだ。
ボクも朝から気合が入りまくり。
早朝から護衛の準備をして、朝食もしっかり食べておく。
執事セバスチャンさんには『今日は徒歩で外出するので、お構いなく』と伝えて、こっそりと庭の工房に向かう。
「サラ、ドルトンさん。それじゃ、マリエルの後を追いましょう!」
「はい、ハルク君。いよいよ王城に潜入するのですね。また秘密の通路を使うのですか?」
「ん、今日は違うよ。“ボクたち三人”は城の正門から、正々堂々と登城するよ」
「ん? “ボクたち三人”? ハルク、キサマ……まさか。ワシらも正面から行くのか⁉」
「はい、ドルトンさん。二人の分の《怪盗百面相》も作って、調整しておきました! さぁ、変装して三人でミカエル城に行きましょう!」
こうして王都でも最大の警備が厳しいミカエル城に、ボクたちは超魔具で潜入に挑むのであった。
「よし、ドルトンさんで実験してみよう!」
新しい道具を実戦で使う前には、必ず実験が必須。
事前に設定の準備をして、道具を装着。ドルトンさんを驚かせにいくことにした。
奥のドルトンさんの作業場に移動する。
「ドルトンさん、ちょっといいですか?」
「ん? なんだ、“サラの嬢ちゃん”か? ハルクなら奴の作業場にいるぞ」
「いえ、私はサラでないですよ、ドルトンさん」
「ん? 何かの冗談か? その声も、どこから、どう見てもサラの嬢ちゃんだろ?」
真面目なサラは冗談を言わない。だからドルトンさんは首を傾げながら、不思議そうにこっちを見てくる。
よし、実験は成功だ。
これ以上騙すのは問題ななりそうだから、種明かしをする。
新しい道具の機能を解除だ。
ポワ――――ン
「ん? なっ⁉ ハ、ハルクだと⁉ どうして、サラの嬢ちゃんが、ハルクになったのだ⁉ これはどういうことじゃ……まさか魔族がワシを化かしにきたのか⁉」
まさかの現象にドルトンさんは目を見開き、言葉を失っている。
作業場あった魔戦斧を手にとり、こちらを威嚇してきた。
あっ……これはマズイ状況だ。
「間違いなくボクですよ! ハルクです! この新しい道具で、姿と声を変えていたんです!」
自分が本当にハルクあることを、慌てて証明する。
でも言ってから、ふと気がつく。こんな道具を見せたところで、魔族じゃないことの証明はできないのだ。
「むっ……その道具は⁉ そんな精密な鍛冶仕事をできるのは、ヤツだけだ。ふう……そうか、本物のハルクか。まったく驚かせやがって」
だがドルトンさんは信じてくれた。魔戦斧を置いて、深い息を吐き出す。
よく分からないけど誤解が解けて、本当によかった。
「すみません、驚かせて。まさか、そんなに信じるとは思わないで。ボクの予想では“少しだけ”サラに似ていた予定だったんですが」
「いや、いや。さっきの姿は、どこからどう見ても“サラの嬢ちゃんそのもの”だったぞ。いったい、その道具はなんだ⁉」
ドルトンさんはこちらに近づき、新しい道具をマジマジと見てきた。今度はちゃんと説明をしないと。
「えーと、これは魔道具を応用して作った鍛冶道具です。機能は『使用者の姿を、他人に似せる』です!」
マルキン魔道具店に『風景を一枚の紙に写す魔道具』と『絵を壁に透写する魔道具』が売ってあった。
ボクはその部品を使い、新たな道具を製造。事前に撮影した人物の容姿に、使用者を見せかける道具を作ったのだ。
さっきサラの顔と格好を、こっそりボクは撮影してきた。そのデータを使い、サラの格好に変身したのだ。
ちなみに声も同じように『音を少しだけ録音する魔道具』と『録音した音を再生する魔道具』を組みわせて、ボクの声をサラの声に変質させたのだ。
「……という訳です。機能は全部、市販の魔道具をそのまま応用しました」
今回の製造はそれほど難しい作業はしていない。
売り物の魔道具を分解して、パーツを取り出し少しだけ改造。
ミスリル・マジックミラーで変身できるように改造。あと超小型ミスリルモーターで声も変質にも改造しておいた。
ちなみにミスリル金属の保護のお蔭で、魔法による妨害や探知も受けつけない仕様だ。
他人の姿と声に変身できる道具……
――――その名も《怪盗百面相》だ!
どうですか、ドルトンさん。今の説明で分かってくれましたか?
「――――っ⁉」
説明を聞いて、ドルトンさんは固まっている。いったいどうしたんだろう。
「い、いや、どうしたのだろう、じゃないぞ、小僧⁉ オヌシはとんでもない性能の魔道具を、新たに作りだしたんじゃぞ! 自覚はあるのか?」
「えっ、『とんでもない性能の魔道具』をですか? “少しだけ”他人に変装できるだけの道具ですよ、これは?」
どうしてドルトンさんはここまで興奮しているのだろう。もしかしたら何か問題もあるのだろうか。
「ふう……本人とまったく同じ姿と声に変装でき、魔法による探知も不可能。そんな恐ろしい道具があったら、そんな城やお宝のある場所にも、当人は潜入可能なのじゃぞ!」
「あっ……そうか。でも、安心してください。使うには、特殊な認証取得機能があるので、悪用はできないです!」
買ってきた魔道具の中に『人を認識できる魔道具』があった。
今回はそれを組み込んでいるから、悪用される心配はないのだ。
「なるほど、それならひと安心じゃ。だが、とにかく、とんでもない魔道具を、いや……魔道具を超えた“超魔具”を作り出したモノだな、オヌシは」
ドルトンさんの言う“超魔具”とは魔道具と、鍛冶技術を組み合わせ名称なのであろう。呼び方が格好いいから、ボクも今度から使うことにしよう。
「ところで、その超道具《怪盗百面相》は、どう使うのじゃ?」
「とりあえず、マリエルが王都で行く先に出入りしている人物を、今後は撮影と録音してきます。明日以降は《怪盗百面相》を装備して、何気ない顔でマリエルに近辺にいる予定です!」
マリエルの王都でのスケジュールは把握済み。その利点を最大限に使い、先回りして準備をしていく。
彼女の護衛騎士や侍女。王城の騎士兵。王都の商館の関係者。色んな人物を、撮影していく予定だ。
ちなみに《怪盗百面相》は百人分の姿と声を記録可能。今後は常にマリエルの近くで、密かに護衛ができるのだ。
「ふむ、なるほど、そういう使い方か。気を付けて準備するのだぞ」
「たしかに、そうですね。それじゃ明日の分の準備に、行ってきます!」
ボクは工房を出発。向かう先は王都の“ある場所”だ。
こっそり撮影と録音をして、ついで情報も収集。変装してもバレないように、メモにとって整理しておく。
陽が落ちてから工房に帰宅。
夕食後は《怪盗百面相》を更に改造して、使いやすく調整する。
明日から絶対に失敗はできない。
集中して作業していると、あっとう間に夜はふけていく。
◇
翌朝になる。
今日はマリエルにとって大事な日。
彼女がミカエル城に登城して、現ミカエル国王に謁見する日なのだ。
ボクも朝から気合が入りまくり。
早朝から護衛の準備をして、朝食もしっかり食べておく。
執事セバスチャンさんには『今日は徒歩で外出するので、お構いなく』と伝えて、こっそりと庭の工房に向かう。
「サラ、ドルトンさん。それじゃ、マリエルの後を追いましょう!」
「はい、ハルク君。いよいよ王城に潜入するのですね。また秘密の通路を使うのですか?」
「ん、今日は違うよ。“ボクたち三人”は城の正門から、正々堂々と登城するよ」
「ん? “ボクたち三人”? ハルク、キサマ……まさか。ワシらも正面から行くのか⁉」
「はい、ドルトンさん。二人の分の《怪盗百面相》も作って、調整しておきました! さぁ、変装して三人でミカエル城に行きましょう!」
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