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本編
42 パーティの日になりました
しおりを挟む事件が解決したその日部屋に戻るとヒルデから無事で良かったです~と強く抱きしめられた。
ヒルデにエルムの事を伝え、会わせると驚きの余り精神が宇宙の彼方へと飛んでいってしまった。
肩を揺らして上げるまで宇宙旅行をしていたみたいだが、その後すぐに打ち解け?たようで色々興味を示していた様だった。
しまいにはトルーデ殿下の事だから仕方ないですね!と片付けられてしまった。
なんか解せない・・・
そのエルムの事だが、カリーン先生のとこの家の養子として籍を手に入れたらしい。
私と一緒に学院へと入学する為に一緒に勉強や鍛錬を行なっていたのだが、勉強はやれば一度で覚えられるし鍛錬は強すぎて加減の練習をするくらいだし機械ズルイ。
そしてわかばは結局元に戻す方法がわからなかった上、私と離れたくないらしくあの手この手で脱走しいつのまにか私の頭上か肩に乗る様になってしまった。
その為私は光属性魔法の光の屈折を利用した幻影魔法の様なものを編み出し、人前に出るときにはその魔法でわかばの姿が見えなくなる様にしている。
そんなこんなでまた平和な日常を過ごしていたのだが、ついにあの日がやってきてしまった。
そう、お披露目パーティーの日が。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
この国に住む貴族達は、人前に一切現れたことのない深窓の姫君について各々想いを馳せていた。
この国の時期王となる姫君だ。結婚し伴侶となる事を夢見る者、補佐や直属の臣下になろうと画策する者など、下心や欲望渦巻く者達も数多く居る。
まず最初に入場したのはイグナーツ王子殿下と王子殿下にエスコートされるローゼンミュラー公爵令嬢であった。
その後2人の婚約発表がなされ、多くの令嬢方は悲しみと悔しさで嘆いている様に見受けられた。
イグナーツ王子殿下はまさに本から飛び出した様な王子様そのものである為、令嬢方からの憧れなども強いのだろう。
ローゼンミュラー公爵令嬢も、魔法属性が無属性という事以外は非の打ち所がない所謂完璧令嬢であり、令息たちにも人気があった為令息達も心の中では大層悔しがっているであろう。
婚約発表も終わり一息ついたところであたりはシンと静まり返り、中央に設置されて居るドアが開く。
陛下に手をとられ大広間に現れたその小さな姫君に人々の目は釘付けになった。
純真さを表すかのような純白のプリンセスラインドレスは、ふんだんにレースがあしらわれ、何処か幻想的な雰囲気をだしている。
王女殿下自身の若葉色の髪につけられた淡い色合いの花のヘッドドレスのお陰で、妖精と見紛う姿をしていた。
美丈夫である陛下によく似た顔立ちをしているが、美姫と言われた亡き王妃の面影も残しており、美しく育つだろうと誰もが思ったであろう。
ローゼンミュラー公爵令嬢の婚約で意気消沈していた令息達はみるみるうちに元気を取り戻していった。
我こそが婚約者にと既に燃えているようだった。
「皆さま、私の為に今日この場にお集まりいただきありがとうございます。今宵はどうぞお楽しみください」
王女殿下のまだ幼さの残る鈴の様な声が大広間に響き渡る。
そうして王女殿下のお披露目パーティーが始まったのであった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
飽きた。私も立食パーティーしたいと言ったら、各貴族の挨拶が終わってからではないとダメだと父上に言われてしまった。
後もう少しだ耐えろ私~!しかしこんなに下心丸出しで近づいてきて好かれると思っているのか。
カリーン先生の様にいっそ曝け出してくれた方がまだ良いし、この値踏みされる様な視線やねっとりとした視線とかいい加減うんざりだよ~
そういや今日の格好、はっきり言ってメチャクチャ可愛い。
父上も美形だからその父上に良く似ていると言われる私もまあ美少女だよねとは思っていたのだけど、花をモチーフにしたヘッドドレスとドレスに包まれた私はなんというか、妖精さんの様だった。
髪はハーフアップの編み込みというシンプルなものだったが、自前のくるくるふわふわな髪のせいでさらに妖精の様な雰囲気になっていた。
母上のセンス○だわ。
一通り挨拶が終わり、父上とローゼンミュラー公爵が話し出したのを見計らいサッと人混みに紛れ抜け出すことに成功する。
しばらく食べ物を求めうろついていると、聞きなれた声が耳に入る。
「やっほー姫さん~なんかまともな服着てると本当に姫さんって感じだな!」
「うわぁ、妖精さんが現れたみたいでとっても可愛いです!」
そこにはいつもの平民と見紛う適当コーデなどではなく、キッチリとしたスーツを少し着崩した姿のライムントと、紺色から濃紺へとグラーデーションがあしらわれたシンプルながらも清楚なAラインのドレスを身に纏ったエルンストが居た。
「ライムント様こそ馬子にも衣装なのではないですか?エルンスト様、とてもお似合いです!ドレス、着れたのですね!」
「そういうよそよそしい喋り方はよしてくれよ、俺たちの仲だろ?ライで良いぜ?というかなんか姫さん怒ってないか?イライラはお肌の敵だってねーちゃんも言ってたぜ。ほらコレやるからよ」
そこには大量のスイーツが盛られた皿があった。手を付けてないということはもしや私が抜け出してここへ来る事を予期して用意してくれていたのか・・・そうなると結構侮れない男だなこやつ・・・
「エルがトルーデ様が来るかもしれないし好きそうなの取っとこうって言うから取っておいてやったぞ」
「そうだったの、ありがとう」
コイツがそんなこと考えるわけがなかったか。まあ取っておいてくれたことだし今回は大目に見てやろう。
私は受け取り、その盛られたスイーツの1つを口に運ぶ。甘酸っぱいベリー系のソーストムースに甘くてしっとりとしたスポンジのハーモニーが口いっぱいに広がる。
これはフランボワーズ的なやつかな?隣はスフレチーズケーキだろうか、チーズの濃厚な味わいがありながらもふわしゅわで軽い口どけであり大変美味だ。
「先程までいかにも天花の妖精姫といった所作振る舞いでしたのに、今は妖精というより小動物のようですよトルーデ様」
「コレは美味というものデスね。覚えました」
もぐもぐと夢中でスイーツを食べていると、背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「お久しぶりですねお二方。本日は紹介しておきたい者がおりまして・・・」
「スメラギ家の養子になりました、エルム・スメラギと申しマス。以後お見知り置きヲ」
キッチリとした所作でカーテシーを行うエルム。完璧過ぎる。
「この子の親とうちの家が親戚のようなものでしてね。両親がお亡くなりになったのでうちで引き取ったのです。歳はトルーデ様と同じである為、トルーデ様と一緒に学院へ行かせようと思いまして。なので紹介をしておこうと思いましてこちらに連れてきたというわけです」
「わあ、よろしくお願いします!お人形さんみたいに綺麗ですね。羨ましいです」
「新たな犠牲者が増えたのか・・・よろしくな!」
どうやら温かく迎え入れられたようだ。
私達は勉強の進み具合だとか、鍛錬はどんな事をやっているのかなど、料理やスイーツを食べながら雑談をする。
ふと、ユディと兄貴のことが気になり辺りを見回す。兄貴は令息と令嬢方に囲まれてなんだかヨイショして貰ってるようで、最近ズタボロにされがちだったプライドを回復しているようだった。
兄貴1人しか居ないな。ユディはどこへ行ったのだろうか。
「何であんたなんかがイグナーツ王子の婚約者なのよ!」
「無属性魔法にしか適性がない欠陥品のくせに!」
このガヤガヤとした空気の中、聞こえるか聞こえないかの声であったが、確かにそんな事が聞こえてきた気がした。
「あれ、どこ行くんだ姫さん」
私は声が聞こえてきたであろう方向へと足を進める。
「この婚約は王家と私の家との政略的な婚約です。私の意思ではありませんわ。それに無属性魔法の事を欠陥品と呼ぶのは差別的表現です。それに私以外の無属性魔法を持つ方が此処におられないとは限りませんわ。即刻お辞めになられた方が良いかと」
「どうせそんな事を言って貴女が父親にでも我儘を言って強制的に婚約をしたに決まっていますわ!貴女と違って優秀で国に貢献している父親なら簡単にできるでしょうしね」
「魔法を使えないんだから欠陥品と言って何が悪いのよ」
ユディを取り囲む令嬢達は息を荒げユディを責め立てる。
ユディは以前兄貴に欠陥品と言われた時とは違い、凛とした表情で令嬢達に力強い眼差しを向けている。
「いつ私が魔法を使用できないと言いましたか?それに先程欠陥品という言葉を使用するのはお辞めになった方が良いと言いましたよね?それとも小さな子供のように何度も注意しないと学ぶ事ができないのでしょうか?」
「そう、それならこれもその魔法で防げるんでしょうね!」
令嬢の1人が手に持っている葡萄ジュースだろうか、濃い紫色の液体をユディへと向ける。
ユディの今日のドレスは淡い水色のドレスだ。液体がかかってしまったならばひとたまりもないだろう。
ユディは防ごうとするがこの密集した中でユディの魔法を発動したら騒ぎになってしまう。
そう考えたのか一瞬ユディは躊躇ってしまった。
ユディに液体がかかってしまおうとする瞬間私は時空魔法を発動させる。
対象を選択しグラスと液体を同時に収納する。同時に2つ以上のものを収納するのは初めてだったが何とか成功した。
良かった。私はほっと胸をなでおろす。
「な、消えた・・・」
「まさかこれが無属性魔法なの?」
「物を消すだなんて、恐ろしいわ!触れたら私達までも消されてしまうのではなくて?」
「きゃあ、欠陥品どころでは無いわ。これは話に聞く魔族では無いのかしら!」
令嬢達はきゃあきゃあと甲高い声を上げながら騒ぎ出す。
これには周囲も気づいたのか、何だろうとギャラリーが増え始める。
「ちょっと近寄らないでくれるかしら?」
「ますます貴女はイグナーツ王子にふさわしくなくてよ」
なんかこんな中出て行くのは気がひけるなあ、でもなんかユディが少し困惑した表情をしているしあのまま令嬢達を調子に乗らせると収拾がつかなくなりそうな感じだし仕方ないか。
「先程グラスとその中身を消したのは私です。文句なら私が受け付けますよ?」
私は入場した時の深窓の王女らしいはにかみ笑顔ではなく、生意気そうな小娘スマイルを浮かべ、令嬢達へと近づいた。
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