39 / 68
本編
34 2人と1匹での捜査
しおりを挟むその可愛らしい仔犬が役に立つかどうかはさておき、そのままというのもはぐれそうで怖いし、とりあえず地属性魔法で首輪とリードを作りはめてあげた。
このファンタジーな世界で私の能力により生まれたのだから、もしかして言葉を喋れたりするのか・・・?とも思い話しかけてみたが、熱心に顔を見つめたり嬉しそうにワンと吠えたりするだけで言葉を発したりすることはなかった。
しかし言葉の意味などは分かっているらしく、向こうに置いた物を拾ってきてと言ったら頑張って拾ってきたりしていた。
「若~頑張って犯人を見つけるのですよ~」
そしてこの犬の名前をわかばと名付けたのだが、カリーン先生が省略して『若』と呼ぶもんだからネーミングに少々後悔を覚えた。
女の子なのに・・・
「早速ですが、わかばにユディの匂いを嗅がせて探させてみます。わかばの鼻を頼りに聴き込みしつつ行方を追いましょう」
カリーン先生に頼んで先程こっそり手に入れてきたユディの私物をわかばに嗅がせる。が、持ってこられたものに少し疑問を持つ。
「これって・・・テディベアよね・・・匂いってついてるの?」
「使用人の者に聞いたのですが、なんと毎晩このぬいぐるみを抱いて寝るそうなのです。ナイショよと恥ずかしそうにしている姿がとてもとても可愛いとも言っていましたねえ」
オォウ・・・これ多分だけどローゼンミュラー邸では周知の事実と化しているよね・・・
それにしてもユディはぬいぐるみを抱いて寝るのか。やっぱり可愛いなユディ。
匂いを確認したわかばは、ワン!と一声吠え、こっちだと言わんばかりにグイグイとリードを引っ張る。
本当に分かっているのか不安に思いながらついて行くことにした。
しばらく歩いて行くと、王都の外れの小さな広場に辿り着いた。
どうやら子供の遊び場となっているようで、私と同じくらいの子供たちが鬼ごっこをだとか人形遊びだとかをやっているようだ。
ふとわかばを見やると、その子供たちをキラキラとした目で見つめ、尻尾をフリフリとさせ広場へと走って行きたいという素振りをしていた。
まさか・・・遊べそうな相手のいるところに連れて言ったのかコイツ・・・
やはり仔犬、まだ捜査はできなかったか・・・
私はダメ元で、お人形遊びをしていた子達の元へと行き、ユディの特徴を伝え、その子を見てはいないだろうか、怪しい人はいなかったかなどを聞いてみた。
「みてないよーわぁぁ、かわいいわんちゃん!ふわふわ!」
「ねーねー、あなた地属性魔法つかえる?一緒にお人形遊びしようよ!」
「耳の所に変な物をつけた人ならさっきまでいたよ!これ作ってくれたの!」
お人形遊びに誘われてしまった。どうやらユディは見ていないようだな・・・
エッ、何この精巧な美少女フィギュア。この西洋風ファンタジー世界に似つかわしく無い異彩を放つ物体は何!?
作ってくれた!?誰だそいつ、もしかして私たちと同じ転生者がこの近くにいる・・・!?
「すごい・・・スカート埋まって無いですよこれ、パンツまで精巧に作られてますよ!」
カリーン先生はフィギュアを貸してもらったようでひっくり返して中を見ている。
私はカリーン先生からフィギュアを取り返し女の子に返し、その変な人について聴き込みを行う。
「それはいつ頃の話で、どんな変な人だったの?男の人か女の人かとか、身長はどのくらいだとか髪の長さだとか色とか。分かる事でいいから話してくれない?遊びには加わる事はできないけどお礼にこれをあげる」
私は地属性魔法で創造し、ふわふわもこもこ!手触り抜群!1/1スケールわかばちゃんを創り出す。
創り終えると他の子達にもじーっと見つめられてしまい、もう何体か創って渡す。
「うわぁ、ありがとう!えっとね、ついさっきだよ。多分男の人で、身長はね、えーっと、お父さんよりちょっと小さいくらいだよ!髪は長くて、あなたみたいな珍しい髪の色をしてたの!」
ふむふむ、男性でお父さんより小さいという事は普通の男性より少し背が低い感じか。髪は長くて私みたいな緑色の髪・・・
ん?私みたいな髪色って緑系統の髪って事!?
緑系統の髪の人間はいないのでは・・・?緑系統の髪と赤系統の瞳を持つ者だけが繁栄の加護を持つはずで、王族にしか現れなくて・・・
もしかして片方の色だけなら当てはまらないからセーフとか?
そういやヒロインちゃんも目はピンクだったし、そういう人もいるのだろう。
「まあそれはいいや、その人がどこに行ったか分かる?」
「えっとね、あっちの方!」
そう言って、フィギュアを持っていた子は路地裏を指差す。
怪しい、超怪しい。絶対そいつ黒でしょ。
捜査開始1日目で怪しい奴の手がかりを掴めるなんてもしかして能力が作用してるのだろうか。
「色々教えてくれてありがとうね。よし、カリーン先生、わかば、行くよ!」
「了解です!捕らえる事はお任せを!」
カリーン先生は何だか暴れられるのが嬉しいのか、興奮した表情を浮かべている。
そしてあれ?わかばが全然動かない・・・なんだか尻尾も揺れていないし瞬きもしていないような・・・?
「こ、こいつは・・・!さっき私が創り出した1/1スケールわかばちゃん・・・だとッ!」
いつからすり替わっていたッ!
そういや私今リードを持っていない!
まさかさっきカリーン先生からフィギュアを取り返した時に離しちゃった!?
うわー、そんなー!どこ行っちゃったの~
「うゔ~~~!がうがうがうっ!!!」
「おわあああああ!何?なんなんじゃあああ!!!」
目を離してはいけないのに怪我とかしたらどうしようだとかマイナスな事ばかり考えていると、路地裏の方向からわかばの唸り声となんだか頼りなさげな叫び声が聞こえてくる。
居なくなったと思ったら何でそんな場所に入って行っちゃってるの!
しかも聞こえてきた声的に人様に吠えているようだし・・・
「トルーデ様!若は警察犬だと言っていましたよね?匂いを追ってここまで来て、路地裏に行き誰かに唸っている・・・これはもしかするとそいつが犯人の可能性があります。急ぎましょう!」
もしそうだとすると、わかばはきちんとユディの匂いを追ってここまで来たという事だ。
仔犬だし愛くるしい見た目だしと勝手に無理と決めつけてごめんなさいと心で謝りながら、犯人らしき人物に勇敢にも立ち向かっているであろうわかばの元へと急いで向かった。
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる