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17 彼女たちのデート模様 ☆

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 水族館を出たキリエと涼介は昼食をとってから、キリエの水着を選ぶために駅に併設されたデパートを訪れていた。

 ランチのあいだもキリエは抵抗を続けていたが、結局はいつものように押し負けてしまった。

「絶対、セクハラだと思う……」

 特設会場のあるフロアに着いても、キリエは唇を尖らせて、

「私の水着を選ぶのなんか、何が楽しいの?」
「それは楽しいに決まってるけど。それに、せっかく海に行くんだし」
「だから! それもまだ決めたワケじゃないし――」

 クラスメイトたちとの1泊での旅行。
 返事は保留にしたままだが――

「まあ断るならそれでもいいよ。そのときは2人だけで海に行こう。プールでもいいけど」
「そんなの、親が許してくれるわけ――」
「ん? いや、日帰りだけど。それならセーフじゃない?」
「えっ――あ、う、うん。友達と行くって言えば……それは」

 泊まりがけだと早とちりしたこと、そして一瞬だけでも2人きりの宿泊旅行を想像してしまったことに恥ずかしくなり、キリエは慌てて取り繕う。


 そんなことをしているあいだに、水着売り場に到着してしまう。

「涼くんは、自分の水着探してて」
「いや、俺買ったばっかりだし」
「嘘」
「嘘じゃないって」
「――本当に付いてくるの?」
「大丈夫、さすがに水着の試着室までは行かないから」
「でも……」
「あ、これキリエに似合いそうじゃない?」
「…………」

 女性用の売り場でも物怖じしない涼介に、キリエはため息をついて、

「やっぱり、お姉さんとか真凛ちゃんで慣れてるわけ?」
「まあね。このくらいで意識してたら、女子2人と生活できないし」

 ふと、あの義妹の姿を思い出す。

 謎めいたところのある年下の美少女。血は繋がっていないはずなのに、涼介に似たまなざしを持った女の子。
 彼女の血縁であればきっと、真南可(まなか)という名の義理の姉も相当な美貌の持ち主に違いない。

 ――途端に、不安になる。
 そんな美人姉妹に囲まれて暮らしてきた涼介が、どうして自分を選んだのか、と。どこまで本気なのか。遊びのつもりなのか、それとも――。

 と同時に。
 姉妹に対する、ささやかな嫉妬の感情を抱いていることも自覚した。

 誰よりも涼介の近くにいた2人。
 もしも家族になってなかったなら――彼女たちこそ、こうして涼介の隣にいるのが相応しかったかもしれない。


「……キリエ?」
「ん、ううん、何でもない」
「悪い、やっぱ気分乗らなかった?」

 滅多に見せない不安げな涼介の表情に、不意にキリエの鼓動が早まった。

「そ、そんなことないから――どれがいいかなって、迷ってて」

 慌てて、ハンガーラックに並ぶ水着を漁る。
 勝手に涼介と義姉妹との不謹慎な姿を妄想していた、その罪悪感も手伝って、必要以上にあたふたして、ハンガーに掛かった水着を落としそうになってしまう。

「あ――」
「っと」

 すぐさま、横から涼介が手を出してくれたおかげで、商品を床に落とさずに済んだ。

「あ、ありがと――」

 振り向いたそのすぐ横に、涼介の顔。心臓が跳ねる。
 そんなキリエの動揺を知ってか知らずか、涼介は優しげに苦笑して、

「本当、キリエって見てて飽きないよな」
「な、なによそれ……! 馬鹿にしてる?」
「うん。ちょっとだけ」
「むかつく――!」

 怒ってみせると、涼介はまた楽しそうに笑う――その表情に、偽りはなさそうだった。
 そのささやかなやり取りだけで、いつもの調子を取り戻せた。

 そう、いつもの――

「…………」

 なんだか、妙な気分だった。
 涼介と本格的に話すようになったのは、つい最近だ。なのに、彼と過ごしているときが、一番自然体で居られる気がする。

 涼介にからかわれて、キリエがそれに怒って、噛みついても涼介はさらりと流してしまって。

「お、これ可愛いんじゃない?」

 そして姉妹がいる影響なのか、時々趣味がいいのも、またムカつく。

「――うん。でもこれ、友達のと柄が被るかも」
「そっか。じゃあこっちのタイプは? ちょっと奇抜だけど」
「あ、それ今年の流行りだって。……こんなの、着こなせるかな?」

 普通に女友達と買い物に来ているような錯覚を覚えることもあって、でも振り向くと、しっかり男の子で。

(……どうしよう、これ。なんで、こんなに楽しいの――)

 涼介に背を向けたタイミングで、キリエは、思わず頬が緩んでしまうのを止められなかった。




 ■ ■ ■



 カラン、と音を立ててバランスを崩すカフェオレの氷を、志乃原愛花はうろんげな瞳で見つめた。

 が、すぐに気を取り直して、対面に座る〝恋人〟に視線を移し、

「そうなんだ、凄いね」

 にっこり微笑んで相槌を打つ。
 とはいえ、前後の話をよく聞いていたわけではない。

 相手は、中学生の頃のエピソードをさも楽しげに語ってくれるが、愛花の興味はそそられなかった。
 記憶は曖昧だが、たぶんこの話を聞くのは2度目だ――と思う。

 それにも気づかずこの交際相手は、「だからあいつはダメなんだ」「僕ならこんなふうに行動していたのに」「普段から何も考えていないんだと思うなぁ」……といった具合に、かつての同級生たちを思慮の浅い人間だと断じて、愛花に力説してくる。

 ――真実は不確かだが、愛花にはどっちでも良かった。
 知らない人間と興味のない人間のエピソードなど、傾注しても仕方がない。

(今ごろ、涼介くん何してるかな……)

 微笑は絶やさずにいながらも、頭の中ではまったく別のことに思いを巡らせていた。

 ――もしかしたら、他の女の子と過ごしているかもしれない。

 愛花は、彼の恋人ではない。
 だから咎める資格などないし、愛花にはその気もなかった。

 ただ2人で居るときに、思い切り可愛がってもらえれば、それで良かった。

 あの目で見据えられて、あの視線で恥ずかしいところを嬲られて。あの手で、指で、愛花の悪いところを責め立てられて――そうしてもらえるだけで、幸せだった。

 愛してもらえなくても、快楽さえ共有できれば。
 そう、もっと厳しく。もっと恥ずかしく――


 そのためにも、この目の前の相手との〝交際〟は続けていたかった。
 この空虚な時間が、あの蜜月の悦びを増幅してくれるのなら。これくらいの退屈なんて、どうということはない。

 ――男がいるくせに、そんなに腰を振って。

 あの嘲笑うような声が、脳裏にこびりついて離れない。
 彼は嫉妬すらしてくれないけれど、蔑んではくれる。

(涼介くん、涼介くん……っ)

 今ごろは、他の誰かと笑いあっているかもしれない。
 愛花のことなんて、これっぽっちも考えてくれていないかもしれない。

 でもそれでも良かった。
 今度会ったときに、とびきり強く責め立ててもらえるなら――


「ごめんね」

 愛花は溢れる感情を抑えることが出来なくなり、相手の話を遮って、お手洗いへと立った。彼の話は、彼なりにクライマックスだったようで、それは少しだけ気の毒だったが。

 しかし、それよりも愛花は自分の衝動を優先した。


 カフェのトイレには、個室が3つ。
 そのうち一番奥を選び、下着を膝まで下ろし、ワンピースの裾をたくし上げて腰かける。

(やっぱり……こんなに……)

 ほんの短い時間、涼介との交わりを思い描いただけで、彼女の女陰は蜜に濡れていた。

 自分のはしたない部位を情けなく思いつつも、一方で背筋が震えるほどの快感も実感していた。
 
 指で裂け目をなぞって、にちにちと柔肉をこねる。途端、腰が勝手に痙攣して高い声が漏れそうになる。

「ッ――――!」

 すんでのところで、左手の甲を口元に押し当て、事なきを得る。

(だめ、だめ……こんな場所で、だめなのに……)

 愛花の指は、自制などとは無縁だった。たっぷりと掬(すく)った愛の証を陰核になすりつけ、早いテンポでイジメ抜く。

「ッッ、――ッ、っっっ!」

 電流で貫かれるような快感に、涙が滲んだ。
 彼のことを思って自慰に耽った回数と、その深さならば、誰にも負けない自信がある――

 いや。
 もし例外がいるとしたら。

 愛花は、涼介の家に巣くう、あの年下の少女を想起していた。
 彼女ならば、もしかしたら愛花よりもっと激しく、自分自身を責め抜いているかもしれなかった。

 たぶん、どの面を取っても愛花は涼介の一番にはなれない。それは自覚している。

(それでもっ……)

 初めて快楽を教えてくれた人。
 自分が、こんなにも淫らだと気づかせてくれた人。

 愛花は、その容姿と控えめな態度のおかげで、特に男性からの扱いという面では、他人より恵まれた境遇にあったと言えるだろう。

 下心の有無にかかわらず、優しくしてもらえたし、意志を尊重してもらえた。
 同性からは嫉妬の感情を向けられることはあっても、おおむね、幸せと呼べる人間関係の中で生きてきた。

 けれどその穏やかな日常を、どこか物足りなくも思っていた。


 ――そんな贅沢すぎる悩みなんて、誰かに吐露するわけにはいかない。
 恵まれた立場にいるくせにと、叱られるだろう。

 だから愛花は、自分は幸せなのだと、これ以外を望んではいけないのだと諦めていた。

 でも彼は。
 涼介は、そんな愛花の愚かしい葛藤を見抜いてくれた。
 愛花が何も言わなくても、愛花の弱くて愚かな部分を看破して、強く強く責め立ててくれた。

 ――ああ、やっぱり怒られた。

 そう思いながらも愛花は、家族にすら気づかれていない感情に気づいてもらえたことに――そして、いびつながらもそれを受け止めてもらえたことに、歓喜した。


 そうなるともう、体を差し出すのなんて、ワケはなかった。
 むしろ、悦びしかなかった。

 大事になんてしてくれない。
 でもそれでもいい。
 それがいい――


(涼介くんっ、だめっ、だめっ――こんなとこで挿れるのっ? あ、あっ――)

 気づけば、折り曲げた中指と薬指が蜜穴の中に埋まっていた。

 愛花の世界では、トイレの個室ブースに侵入して襲ってきたのは本日のデート相手などではなく、涼介だった。

 はしたない自分の姿を叱るや否や、その逞しいものを愛花の膣に突き立ててきた。

(あっ、あッ……、涼介くんの、わたしのナカで暴れてるよっ? あっ、だめだよ、そこっ、弱いの知ってるでしょ? やん、やんッッ! 上のほう、ぐりぐりしないでッ――)

 2本の指が膣内を何度も往復する。その指に、蜜で濡れそぼった牝の肉がねとねとと絡みついてきて、動かすたび、聞くに堪えない淫らな音を奏でる。

(もっと、もっとしてっ――涼介くんなら、どんな酷いコトでもいいからっ――私のこと、好きにしてッ……! う、ううん、あの人は、ちがうのっ、――ごめんなさい、他の人と会ったりしてっ!――怒って、もっと怒って! 私の悪いトコ、いっぱいイジメてっ!!……私もっ、がんばって、いっぱい気持ち良くするからっ――!)

 際限なく高まる快感に、指の動きは加速度的に早まり、愛花を一気に高いところまで連れて行く。

(いくいくっ、いくのっ、涼介くんっ――わたし、いくからねっ!)

 ガタガタっと便器の座面を揺らし、下劣な快感と感情が爆発させたその瞬間、トイレに誰かが入ってきた。

 入室してきたのは2人組らしく、その同世代の若い弾んだ声が愛花の耳に届いた。

「ッッッッ――――!!?」

 反射的に指を止めるが、絶頂痙攣はもう始まっていた。

「~~~~~ッッッ、……ッッ!!」

 腰をビクビクと震わせ、目の端から涙を落としながらも、愛花は嬌声だけは何とか呑み込んで、絶頂の波が通り過ぎていくのをひたすら耐えた。

 ――これは罰だ。

 こんな場所で、それも、男の子とのデートの最中に。
 恥ずべき行為に耽溺していた自分への、罰。

 ――ごめんなさい、ごめんなさいッ。

 喉の奥で嗚咽しつつも愛花は、つま先まで痙攣させて、思いがけない性悦を味わい尽くし、歓喜の涙に頬を濡らした。


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