最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第7章 ハーレム旅行ってマジですか?

第108話 ホテルの朝

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 ■ ■ ■


「…………暑い……」

 寝苦しさのせいで蓮の脳が半分覚醒した。

 ぼんやりと思い出す――
 そういえば旅行に来ていた。慣れない感触。ここは寮のベッドじゃない。

 そうだ、ホテルだ。
 昨日からみんなで旅行に来ていて、綺麗なホテルのスイートルームに泊まっていたんだった。

 布団を敷いて眠ったのは和室だ。
 和洋折衷のホテルということで、部屋のつくりは洋室なのに広い畳の寝室があって、そこに全員で眠ったのだ。

(全員……)

 蓮以外は女性ばかりの6人で雑魚寝。

 ……何だかいい匂いに包まれている気がするのは、女性の甘い香りのせいなんだろうか。

 ……それにしても空調も完璧なホテルのはずなのに寝苦しいほど暑いのはなぜなんだろう?

(息も苦しい……?)

 そして柔らかい。顔が。顔面が全部柔らかいものに埋められていて、そしてすこぶるいい匂いがする――。

「うーん……、蓮、くん……」
「…………っっ!?」

 結乃のむずがる声でようやく意識がはっきりとしてきた。まだ真っ暗な部屋の中で、布団の上で、浴衣の結乃に抱きしめられていた。

(ま、また…………!?)

 ――ぎゅむうっっ♡

「~~~~っっ!?!?」

 おそろしいことに結乃の胸元ははだけている。もっちりとした豊かな柔肉に抱きしめられて窒息させられそうになっている。

(力……っ、強い!?)

 甘やかな拘束から逃げようとしても、結乃の腕にがっちりと捕らえられていた。いや腕だけではない――彼女の右脚が蓮の腰をホールドしていた。お互いの下腹部が隙間のないほどみっちりと密着していて、逃れようと動くと余計に彼女の柔らかさを意識させられてしまう。

「うぐ、ぐっ……!?」

 以前にも抱きしめられたことはあるが、今日は浴衣だ。自分の裾もはだけてしまっていた。互いの汗ばんだ下着同士が擦れて、痺れるほどの快感が駆けめぐる。気持ち良さに腰がゾクゾク震え、頭の中がチカチカしてきて――

(い、いや、窒息するって……!)

 本気で死が近づいているのを認識して、蓮はスキルを総動員する。結乃の拘束する腕と脚をたくみに誘導し、隙間をつくり、スルリと脱出してのけた。

「ハァっ、ハァっ、ハァっっ……!?!?」

 ようやく酸素を取り込むことができた。
 辺りはまだシンと静まり帰っている。
 暗さに目が慣れてきて結乃の寝顔もうっすら見えてきた。

「やだぁ……、れんくん……、うぅん……っ、もっと……」

 甘い声でぐずる結乃の寝相。抱きしめていた『大事なもの』が無くなって、泣きそうな顔で布団を抱きしめていた。

「…………」

 惜しいことをしたような気分になって、無意識のうちに顔を近づける。少し乱れた綺麗な髪。長いまつげ。ぷるんとした唇。優しい寝息。彼女の甘いにおい。寝顔を見ているだけで情緒がかき乱されて、愛しさで理性が――

「レンレン……」
「(ひっ――!?)」

 すんでのところで踏みとどまり振り返る。

「レンレン……っ、つよすぎぃ……、負けちゃう、もう……いっかい……えへへ~」

 こっちも寝言だ。
 梨々香はなにか幸せな夢でも見ているのか、子どものような安らかな寝顔をしている。その傍らでシイナは、仰向けになってピクリとも動かずに寝入っていた。生きてるのか不安になるくらいの大人しさだ。

 衛藤も寝相はいい。
 すぅすぅと心地いいリズムで寝息が聞こえてくる。

(――ほんとに女の人ばっかだ)

 改めて実感し、ゆうべは大変だったことを思い返す。
 夕食後に部屋に帰って、まったりとして眠るだけだと思っていたのに。

 はしゃぐ梨々香に付き合わされ、夜行性のシイナまで積極的に絡んできて、結乃ともいっぱい密着して、衛藤や修羅にも優しく攻められて――

(……あれ? 修羅さんは?)

 そういえば彼女の姿が見えない。
 衛藤の隣に敷いてあった布団はもぬけの殻だ。



 みんなを起こさないよう静かに部屋を出て、気配のするリビングのほうへ歩いていくと、

「どうもマスター遠野。お早いお目覚めで」

 まだ月光のふりそそぐ窓際のイスに、浴衣のままで座っていた修羅がこちらに視線を向けてきた。
 窓からは月明かりを反射する蒼い海が見渡せ、静かにほほ笑む修羅によく似合って見える。

「マスター遠野、よければこちらへ」

 修羅に促されて、対面のイスに座る。

「修羅さん、寝てないの?」

 確かに一緒に就寝したはずだが。

「いいえ。久しぶりに睡眠はたっぷりと、60分ほど取れました」
「……ショートスリーパーにもほどがあるね」
「職業病みたいなものですよ」
「暗殺者――」
「警備員です」

 そういえば敬語に戻っている――リラックスしているように見えて、これでも仕事モードというわけだ。普段もこうして結乃の警護にあたってくれているのだろう。

 そのことについて感謝を口にしようとするが、

「やめてください。感謝しているのはこっちですから」
「?」
「面白い――なんて、こんな感情を抱くのは久しぶりです。マスター柊とマスター遠野、あなたたちを見ているとまったく飽きない」

 ふふ、と軽く笑う修羅。

「それ、褒めてる?」
「もちろん。特にあなたは興味深い。その小さな体で、しかし精神も技能も熟達している。ボクが――私が畏れを抱くほどには。そうだ、まだ早いですがもう寝付けそうにないですよね? コーヒーでも淹れましょうか? 飲めますか、コーヒー」

 サイドテーブルには彼女が飲んでいたらしいカップが置かれてある。ちょっと対抗したくなって無言でうなずく。コーヒーくらい飲めるに決まっている。

「承知しました。少々お待ちを」

 ゆっくり立ち上がるとミニキッチンのほうへ行ってケトルで湯を沸かし、なんと持参していたらしいコーヒーセットを慣れた手つきで準備している。

 興味深いというなら、こちらこそだ。
 ひとつひとつが隙のない動作――
 先日のクエストでは彼女も戦闘に参加してくれた。衛藤が推薦するだけあって、修羅の戦闘能力はズバ抜けていた。魔力の強さではなく、身に染みついた挙動が恐ろしく静かで、恐ろしく的確だった。

 ダンジョン内での戦闘なら負ける気はしないが、魔力を使えないこの現実世界ではさすがに敵わないだろう。そもそも体格の問題がある。

(――僕も背が伸びれば)

 これから成長期を迎える……はず。
 そうすれば結乃とも背が並んで、修羅にも負けないくらいになって。

「お待たせしました」

 ややあってコーヒーを運んで来た修羅が向かいに腰をおろす。長い足を組むせいで浴衣の裾から膝までが見えてしまうが、いやらしさはまったくなく、

 彼女の凜々しい視線に見守られながら、カップに口をつける。

「……にがっ!?」
「おっと。ミルクをたっぷりと入れるべきでしたか? ふふ」
「の、飲めるし――っ」

 勢いでグイッとあおると、苦みと熱さで蒸せてしまい、また修羅に笑われる。誘導されている――悔しいがずっと手の平のうえで泳がされている気分だ。 

 もともと中性的だけれども――もしかして『兄』がいたらこんな感じなんだろうかと蓮は思う。

「男きょうだいみたいだ……って言ったら、怒る?」

 未明に起き出してコーヒーなんて飲んでいるからテンションがおかしくなっているんだろうか、変なことを聞いてしまう。

 修羅は驚いたように目を見開いて、それから破顔する。

「ふふ、まさか。光栄ですよマスター遠野に兄弟扱いされるなんて、くくくっ」
「……やっぱりからかってるよね?」
「いいえ――」

 そうして、修羅は急に居住まいを正してまっすぐ見つめてくる。

「これも本心です。あなたの来歴はサキから聞いていましたが――先日あなたの戦闘をこの目で見て、ますます畏敬の念は深まりました。そこに至るまでどれだけのものを積み重ねなければならないか――至らないながらも私も知っているつもりです」

 修羅は心地のいい声を響かせながらおもむろにイスから立つと、蓮の足下にひざまづいた。

「しゅ、修羅さん……!?」
「私は、戦いたい相手と仕えたい相手――その2つを同時に見つけました。あなたです、マスター遠野」
「僕は……ダンジョンの外では敵わないし」
「だとしても――」

 ほとんど王を敬う騎士かのような大げさな所作だが、それでも絵になっているのが修羅の憎いところだ。

「本気で戦えば私も無事で済まないでしょうね。それに――」
「?」
「あり得ないことですが、私がマスター柊の命を狙いでもしようものなら――きっと、あなたは私を殺す。殺せるでしょう――」
「そんなことは――」

 ない、とは言い切れない。
 たとえばここで寝入っている結乃を修羅が狙おうものなら……どんな手を使ってでも、この身がどうなってでも修羅を殺して止めるだろう。

 思考が顔に表れてしまったのだろう、修羅は不敵に笑む。

「――ふふ、自覚なさいましたか? そういうことですよマスター遠野。そこまでの振り切れた獰猛さは私も持ち得ない――他の誰にも。仕事など抜きで、私が膝を屈するに値するあるじです」
「そこまで言われるとむず痒いんだけど……」

 本気だと伝わってくるだけに恥ずかしくなるが――これほどの相手に認められるのは悪い心地はしなかった。

「まあ、ブラックコーヒーくらいは飲めるようになって欲しいですけれどね」
「…………ッ!? ふ、ふん、だからこれくらい……!」

 カップに残ったものを飲み干して、蓮は涙目で修羅をにらみ返した。
 

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