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第7章 ハーレム旅行ってマジですか?
第106話 温水プール(後編)
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そして。
「水の中では私が教えるね」
プールサイドで待っていたのは結乃だ。
白いビキニ姿がやっぱりまぶしい。
「ゆ、結乃は泳ぎうまいの……?」
「いっつも蓮くんに教えてもらってばっかりだからね。今日は恩返しだよ」
そんな結乃に手を引かれて入水。
「これが流れるプール……」
「初めて?」
「うん」
「実は私も初めて」
結乃ははにかんで、
「はい、両手持って? バタ足しよ」
蓮の手をそっと握った結乃は、流れに逆らって後ろ向きに歩き始める。体が自然と浮いて楽にバタ足ができるけれど、
(けっこう恥ずかしい……、それに……!)
顔を前に向けると、結乃の笑顔。そして水面に浮かぶのは結乃の豊かな胸元。白ビキニに包まれたバストが、ちゃぷちゃぷとプールの波に撫でられている。
「あっ、蓮くん横向いちゃだめだよ、バランス崩れちゃうから。前見て? 大丈夫だからね」
(大丈夫じゃないんだよ……っ!!)
これは新手の拷問なのかもしれない。
「そうだよ、すっごい上手いね蓮くん。やっぱりあっという間に泳げちゃうね。――こういうセンス、戦闘で磨かれてるのかな?」
蓮が泳げないのはその機会を逃していただけで、泳いでいる人間の真似をするのはそう難しいことではなかった。
「みんな分かってて蓮くんをからかってたんだろうね」
「……結乃もね」
「うっ。バレた? あはは……だって、こういうときでもないとお姉さんっぽいことできないし」
バツが悪そうに笑う。
「……そんなことない」
「え」
「そんなことないよ、結乃にはいつも助けられてる」
「私も早く強くならないと。蓮くんに追いつけるように――は、無理でも。付いていけるようにはなりたいな」
先日のクエストがあってから、結乃は特にそう痛感しているようだった。
結乃のレベルアップといえば――
「そうだ。あの人から聞いておいたよ」
「あの人?」
「水魔法のこと」
「ああ、お義母さ……アーカーシャさん?」
魔法のスペシャリストである荒巾木アーカーシャ。彼女に言わせると結乃は水魔法の才能に秀でているという。
「あの人が言うには、水魔法の本質は『同調』なんだってさ。――結乃を見てると、それは僕も同感だって思う」
「『同調』……」
「他人に共感して、歩調を合わせられる――」
それこそ蓮が身をもって知っていることだ。結乃といると心地いいし、自分の考えとは違っても彼女の価値観をすんなり受け入れられる。
今も、握った手で繋がっているような感覚がある。
「僕が個人的に好…………、個人的に好感を持ってるってのはあるけど、それだけじゃないと思う。魔法って、使い手の性格っていうか、本質みたいなのが関係してるらしいんだ」
まだ理論立てて立証されているわけではないが、最先端の研究に携わるアーカーシャも支持している意見だ。
「私の場合、水魔法で、『同調』で……ってこと?」
「うん」
蓮の場合は重力魔法と炎魔法。
得意魔法を活かしたスキル【創造の炎】にも代表されるように、壊し尽くして燃やし尽くして、そのくせすべてを自分に取り込んでしまう。
たとえば梨々香なら光魔法、底抜けに明るい彼女の性格そのままだ。
シイナは風魔法で、誰も寄せつけない孤高の強さを持っている。
「それで考えたんだ……結乃、【魔獣使い】を目指してみない?」
「えっ、それって――」
ゲームのように明快な『ジョブ』みたいなものはないものの、ダンジョン配信者は得意分野であるていど分類できる。梨々香は魔術師、シイナは銃手。蓮はオールラウンダーだが、あえて分類するなら魔法剣士だろう。
【魔獣使い】、それはモンスターを手懐け使役する種類の人間を指す。
「すごくレアな技能だよね、モンスターを飼い慣らすって」
結乃が言うとおりダンジョン配信者の中でも特に希少な人種だ。
「結乃ならできると思う。水魔法で同調してモンスターと意志を通わせて、味方にするんだ」
「ええ、出来たらいいな……! 難しそうだけど」
実際、難易度は高いだろう。
そして人によってその方法論は異なるはずだ。例えば蓮がやろうとすれば、力尽くで従えることになる。重力魔法で動きを封じて炎魔法で脅して屈服させる――まあ、そんな単純な方法かはともかく、そういう方向性になるだろう。
でも結乃の場合はもっと穏便に、水魔法を介して心を通わせることができるに違いない。そう、今のように――
「…………猛獣を飼い慣らしてるくらいだから、簡単だよきっと」
「ん?」
「なんでもない」
荒みきっていた蓮の心を潤わせてくれるのは結乃だ。
「こうやって誰かと旅行に来るなんて……配信始める前の僕だったら考えられなかったし。結乃がここまで連れてきてくれたんだよ」
「蓮くん……。そんなことないよ。全部蓮くんが頑張ったからだよ。でも――蓮くんが言ってくれるんだし、私やってみようかな」
「僕ももちろんフォローするよ」
「うん、頼りにしてる!……あれ?」
結乃は小首をかしげる。
「泳ぎを教えるつもりだったのに、何だかいつも通り『蓮くん師匠』だね。ふふっ」
伸ばした腕の先で屈託なく笑う結乃を見ると、胸の底からじんわりと幸せが広がるようだ。
絶対に守るし、頑張ってくれるのなら彼女の強さを引き上げたいと思う。
「結乃、ずっと一緒にいよう」
「ふぇっ?」
つい漏れた本音を聞いて、結乃が目をぱちくりさせる。
「あっ!? いやダンジョンでも一緒にって意味で……! いやそれ以外もだけど!」
「れ、蓮くん――」
しゃべるほどドツボにはまっている気がする。結乃も口をパクパクさせて動揺しているのが、それこそ水魔法なんて介さなくてもバッチリ伝わってきてしまう。
「か、体熱くなっちゃうよ私っ――、わっ!?」
と、結乃が足を滑らせる。
流れるプールに後ろ向きで歩いていたせいで、そのままズルッと水の中に落ち込んでしまう。
「結乃っ――!?」
咄嗟に蓮は潜水し、流れに逆らって水をかき分ける。彼女の背後に回り込んで抱きかかえ、水面まで引き上げてプールサイドに泳ぎ着く。
「あ、ありがとっ……、また助けられたっていうか、蓮くんプロ並みだね!? ライフセーバーさんにもなれるよ!?」
確かにもう苦手意識はまったく無くなっていた。
結乃を助けないとと思った瞬間、過去のトラウマなんて一瞬で吹き飛んでしまっていた。
水着の彼女に、背後からいつまでも抱きついていたはマズいと思って腕を解こうとするが、結乃の手がそれをそっと制する。
「……待って。もうちょっと、このまましてて……いいかな?」
「えっ、う、うん……」
「ありがと。蓮くんにギュッとされるの、幸せ……」
こっちこそ、と、小声でつぶやき返すのが精一杯だった。
■ ■ ■
「あー、レンレンたち帰ってきた! どうだった?」
結乃のレッスンも終わりみんなと合流する。
しかし梨々香は蓮たちの姿を確かめると、目を見開く。
「……――って。なになに!? 2人とも、距離さらに近くなってない!?」
「「えっ?」」
そういえばプールから上がっても手を繋いだままだった。腕と腕、肌もぴったり密着していて。
梨々香はバッとメンバーを振り返って、
「結婚だよこれもう! みんな聞いて! レンレンと結乃ちゃん、目を離した隙に結婚してた! 水着でイチャイチャ婚してたーっ!」
「「してないっっ――!?」」
なんて叫びながらも2人は手を離せずにしばらくそのままでいたし、プール客たちからはもちろん『死ぬほど仲の良い年の差カップル』『はよ結婚しろ』なんて認識されていたりした。
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