最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第6章 世界のピンチも救っちゃいます

第98話 騒乱⑤

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 突きつけられた魔法の剣には、結乃の魔力では防ぎようもないほどの威力が込められているのをひしひしと感じる。それでも、結乃は毅然とにらみ付ける。

「へぇ。意外と肝が据わっている。そんな目ができるんだね。……まあ怖がる必要もないさ。ここでは殺さない。ただ――きみの身柄には価値がある」

 満足げに彼女は笑う。

「あの最高の甥っ子。彼を私が使うために、役に立ってもらう」
「……私を人質に、蓮くんに言うことを聞かせようっていうんですか?」

 今はリスポーンが機能しない。
 このまま荒巾木に連れ去られてしまえば、逃げようがなくなる。

「あの子の力があればリスポーン装置だって壊せる。……誰が邪魔をしようと、彼ならなぎ倒して成功させるだろう。私と2人ならダンジョンそのものさえも――迷宮世界と人間世界が1つになる」
「そんなこと……!」

 絶対にさせるわけにはいかない。

「貴女は、なんでそんなことを? なんのために」
「なぜ? 楽しいからさ。混沌の中でしか人間は進化しない。――その好例があの子だろう? だ」
「――ふざけないで」

 蓮は、望んで混沌の中に飛び込んだのではない。否応なく巻き込まれただけだ。 
 
「そんなことにはなりません。蓮くんはそんなことはしない」
「なるさ。『世界か女か』……選択を迫られれば彼はきみを取る」
「そういう意味じゃありません」
「…………?」

 結乃のきっぱりとした口調に、荒巾木は眉根を寄せる。

「私は……蓮くんの足手まといになるって分かっています。蓮くんは優しいから、私が弱点になってしまう――うぬぼれかもしれませんけど」
「いいや。客観的な見立てだと思うよ。現実的だ。変に謙遜するヤツよりずっとマシさ」
「――でも、だから」

 結乃はさらに強くにらみつける。

「利用させてもらいました。私の存在を――貴女を倒すために」
「……なに? ッ、まさか!?」

 ハッとして荒巾木が振り返るが、


「――遅いよ」


 黒い疾風が荒巾木を吹き飛ばした。

「蓮くん……!」
「これ、心臓に悪いよ」

 結乃のほうを見て、蓮はため息をついた。


 ■ ■ ■


「読んでいたのか……!」

 荒巾木は歯ぎしりをして、その最年少ダンジョン配信者をにらみつけた。

「――そういうことだよ、お姉ちゃん」

 白衣を着た妹――荒巾木アーカーシャが、双子の助手を引き連れて合流してきた。

「……立案はおまえか」
「おいおい、それは違うぜお姉ちゃん」

 アーカーシャは小さく首を振り、

「アタシはお姉ちゃんの性格を教えただけだ。大胆なのに慎重で、それでいて手段は選ばない性格だ、ってな。作戦を考えたのは蓮だ。上層階で行方をくらます……配信カメラをモンスターに壊させてから、爆速で帰ってくるってな」

 鬼姫キキが彼のカメラを壊したのは知っていた。
 ……確かに、その後は配信で蓮の動きを追うことはできなくなっていた。

 しかし、

「――転移魔法陣なしに、この速度で?」
「この前、一気に上まで攻略したからね」

 蓮が答える。

「道順は覚えてたし」

 それにしても、力技にもほどがある。各階でスタンピードが起きているのに、ほぼ足を止めずに全速力で駆け下りてきたというのか。

「アタシの息子はヤベーだろ? そんで、自分を囮に使うってのは結乃ちゃんの案だ」
「蓮くんには最後まで反対されましたけど」

 スタンピードを物ともしない蓮がゲッソリしているのは、そういう事情らしい。

「あっ。修羅さん、もういいですよ」

 結乃の声に、向こうで斬撃音が上がる。

「…………っ!?」

 見ると、結乃の警備員――修羅と呼ばれた女が、群がっていた鬼姫キキをナイフで切り刻み、何事もなかったように立ち上がった。

「――まったく。マスター柊もマスター遠野も。2人そろって無茶をする」

 彼女も演技か。
 さすがにボロボロになっているが、修羅は、まるでそんなことは日常茶飯事だとでもいう顔で平然と微笑を浮かべている。

 保険はちゃんと掛けていたのだ。結乃を守るための。

「僕はともかく……」

 しかし、蓮はそれでもムスッとしている。

「結乃が囮にならなくても……」
「そうだ、蓮くんこれ」

 結乃がポーチから予備の配信カメラを取り出し、蓮へと放ってみせた。そのまま宙に浮き、蓮を中心に周囲の撮影をはじめた。

 途切れた蓮の配信の代わりに、結乃のほうで配信を引き継いでいたのだろう。

 カメラがこちらをズームしている。
 ――顔を晒すのはもうどうでもいい。
 ただ、

「もう勝った気でいるようだが――」

 1階層に残る鬼姫キキを呼び寄せる。アーカーシャたちが身構え、迎撃に入っていく。

「遠野蓮」

 荒巾木は、魔法の光剣を握り直して甥っ子へと問いかける。

「きみにはあるのかい? 私を、人を殺す覚悟が。――私は配信者のようにリスポーンはできないし、痛覚遮断もないよ? そのカメラの前で、私を殺せるか――、ッッッ!?」

 言い終わる前に蓮が斬りかかってきた。
 燃える刃の凄まじい一撃。かろうじて【奈落冥獄の光剣タルタロス】で受け止めるが、体ごと吹き飛ばされた。

「――――くッッ!?」
「当然でしょ。『止める覚悟』はとっくにできてる。誰にも、僕と同じ目に遭わせるわけにはいかないんだ。……それとも」

 この中学生の配信者は、【創造の炎プロメテウス】の切っ先をこちらに向け、不敵に笑った。

「僕が手加減できないほど、実力が拮抗していると思っているの? の相手を殺さずに捕らえるなんて、簡単なんだけど?」
「~~~~ッ、……ガキめっ!」

 2人の衝突は、魔法剣同士での切り結びになった。
 魔力を凝縮し、すべてを拒絶する荒巾木の【奈落冥獄の光剣タルタロス】。
 破壊と創造を繰り返す蓮の【創造の炎プロメテウス】。

 ――ギィンッ! ガイィンッッ!!

 単なる金属接触ではない異音が何度も響く。

「くっ、このッ――……!」

 ジワジワと追い詰められていく。この小柄な少年から繰り出される攻撃に――次第に恐怖を覚えていく。

 どんな凶暴なモンスター相手にも感じたことのない感覚だ。絶対的な破壊力を湛えた斬撃が、すぐそばを何度もかすめる。そのたびに魂が削られるような感覚が、身を震わせる。

「――終わりだよ」

 高い跳躍から振り下ろされる【創造の炎プロメテウス】を、【奈落冥獄の光剣タルタロス】で受け止める。

 だまし合いをしてきた2人だが、最後は純粋な力比べになった。
 
「う、ぐぅっ……!?」

 荒巾木の全力を込めたはずの刃に、蓮の刃が食い込んでくる。

(斬られる――ッ!?)

 ――ガギィイインっっ!

「こ、これだけの力があって、もっと振るってみたいとは思わないのか!?」

 荒巾木は声を振り絞る。

「この力をダンジョンだけじゃなく、世界中で振るえれば……! 配信者どころじゃない、人類の英雄になることだってできるはずだ! ダンジョン配信なんてお遊びで収まる器じゃないだろう!?」

 荒巾木にとっては壊すのも救うのも等価値だ。世界を変えられるほどの力を有しておきながら、それを娯楽などに浪費するのが信じられない。

「おまえが英雄になる、そのお膳立てを私がしてやるのさ……! 協力し合おうじゃないか! 私たちなら――」
「必要ないよ」

 冷たい声で蓮が切って捨てる。

「僕にはもう居るから……英雄になんてならなくたって、配信を応援してくれるリスナーと、支えてくれる人たちが。一緒に戦ってくれるパートナーだっている。あんたの目指すクソったれな世界なんか、僕にはいらない――!」
「……ッ、理解不能だ、鬼姫キキっ!」

 もう数体しか残っていない着物少女を呼び寄せ、また自爆させ、その隙に外壁へ向かって走る。

 逃げるしかない。この化け物相手にこれ以上は戦えない。勧誘も失敗した今、ここは逃げて体勢を整え直すべきだ。

 当然、蓮は追ってくるが、こちらのほうが少し早い。

 伸ばした右手からダンジョンの壁に同化していき、全身が埋まる。

「逃がさないよ――」

 恐怖が追ってくる。少年の形をした怪物が、剣を納めて拳を振りかぶる。

「う、うぁああああああっ!?」
「【百の拳の巨鬼神ヘカトンケイル】――ッ!!」

 重力魔法の百烈殴打。
 壊せないはずの外壁を削り、荒巾木の体をしたたかに打ちのめした。

「が、ガハ――――ッ!?!?」

(野望が、こんなところで私の野望が……っ!?)

 荒巾木は血反吐を吐いて、蓮の足下に転がった。


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