最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第6章 世界のピンチも救っちゃいます

第97話 騒乱④

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 ■ ■ ■


「ここの問題じゃねーよ」

 リスポーン装置の隔壁を開こうとしていた管理人たちに向かってアーカーシャは、

「一種の通信妨害みたいなもんだ。電波塔に異常があるんじゃなくて電波が邪魔されてるっつーかな」
「で、では……?」
「装置を壊されたんじゃなく、ダンジョンのあちこちにリスポーン魔力を阻害する何かがある――こりゃあアタシの予測に過ぎねーが、例の『鬼姫キキ』とかいうガキに仕込んでるんじゃねーかな」

 あの姉のことだ。単に戦闘用にだけで済ませるとは思えない。そして彼女が狙うとすればやはり――

「――やれやれ。余計なコトをしてくれるよね、私の可愛い妹は」
「あ、あの女っ!?」

 悠然と現れたのは騒動の元凶、荒巾木だ。

 姉妹だけあって顔はアーカーシャと似ているが、こちらが牙獣ならあちらは猛禽類といったところだろうか。威嚇などせず、淡々と獲物を狙う生態系の上位者。

「久しぶりだね、た――」
「アタシの名前はアーカーシャだ! 前にそう言っただろ。つーか、余計なことしてるのはお姉ちゃんだ」

 再会は3年ぶりだ。
 尊敬する姉だが、思想にはまったく同意できない。

「優等なお姉ちゃんでも、やっぱこの壁は通り抜けられないみてーだな」

 金属製の壁を拳でコンコンと叩く。
 もとから魔力を通さないようになっていることが、結果的に荒巾木対策に貢献していた。

「リスポーンを妨害することでここを開けさせようってか。意外と姑息だなお姉ちゃん」
「効率的と言って欲しいね。そこを壊すのには骨が折れる。あんまり時間を掛けていると怖い連中が集まってくるだろ?」
「怖い、ねぇ……」

 この姉に怖いものなんてないだろうけれど。
 
「怖いものを世の中に振りまこうとしてるのはお姉ちゃんだろ? 昔からブッ飛んでたけど、それはさすがにやり過ぎだぜ」
「いいじゃないか。絶対に楽しいことになるよ、蹂躙したり、蹂躙されたり――」

 おそらく人生で初めて、薄ら笑いを浮かべる姉に対して本気の怒りを覚えた。

「そんな地獄に放り込まれた子だっているんだ。あんなものを許容するわけにはいかねぇ、あの子のためにも」
「実の姉より義理の息子を取るのか?」
「あたりめーだろ。今のお姉ちゃんには協力できねーよ」

 即答すると、荒巾木は肩を揺らしてくくっと笑った。

「じゃあ私も妹離れしないとね――スキル【奈落冥獄の光剣タルタロス】」

 無造作に伸ばした右手の先に大量の魔力が集中し、高出力の刃が現れる。

「ううっ……!」
「アンタらは下がってろ」

 2人の管理人をかばって立ち、アーカーシャも臨戦態勢に入る。戦闘スタイルは魔術師。

「戦闘はあんま得意じゃねーんだけど、なッッ!」

 先手必勝。複数の魔法を同時発動させ荒巾木をリスポーン装置の前から追いやる。

 あの光る剣――【奈落冥獄の光剣タルタロス】は厄介だ。こちらの魔法は切り裂くし、あんなものに一撃でも斬られれば敗北確定だ。アーカーシャも配信者と同様の措置を受けているが、リスポーンが機能しない今、行動不能になるのは避けたい。

「運動不足じゃないかい?」
「うっせぇ!」
「そんなに弱くちゃ――殺しちゃうよ?」
「っっ!?」

 光刃がアーカーシャに迫る。――ここだ。

「ッ、来い、グリとグラぁ!」

 はためいた白衣の背後から、双子の助手が身を躍らせる。

「グリとグラではありません、博士」
「ですが迎撃します、アーカーシャ博士」

 戦時にも通常と変わらぬ平坦な声で、小柄な2人は得意武器である戦斧バトルアックスを手に左右対称の斬撃を繰り出し、アーカーシャも同時に魔法を放つ。

「くッ――!?」

 不意を突かれて三方からの同時攻撃を受けた荒巾木は、それでも斧の一本を破壊し魔法を凌いだが――代償に、助手によって左腕を切り落とされた。

「うぐっ……!?」

 その場に膝を突く荒巾木に、アーカーシャは右手を突きつけ、

「観念しろお姉ちゃん……、んっ?」

 しかし見ると、切断された左腕の断面は人間のものではなかった。金属だ。これはあの鬼姫キキと同じ素材――

「――――っ、ダミーか!?」
「正解だよ、可愛い妹……」

 姉の能力と性格を考えてみると、単に人造モンスターを作って満足するような研究に留まらず、自身のコピーを移植するくらいのことはやってのけるだろう。

 ――つまりこっちは、囮か?

「お姉ちゃん、アンタの狙いは――」
「ふふ。確かにこの忌々しいリスポーン装置も邪魔だったさ。せっかくの地獄をぬるくするなんて無粋だ。だが――」

 静かに笑って荒巾木は、

「私の狙いは最高の甥っ子……遠野蓮さ」
 
 

 ■ ■ ■



 1階層は混乱に見舞われていた。
 大量のモンスター……鬼姫キキの襲撃を受けていたのだ。

 予備戦力として残っていた配信者たちが応戦しているが旗色は悪い。

 クエストとは無関係の配信者もいるし、商店の人々も戦闘ができる者が多く自衛に努めているが、相手が鬼姫キキでは逃げ惑うので精一杯といった有り様だ。

 そして結乃も――
 
「出口はこっちです! 立てますか!?」

 逃げ遅れた一般人の女性を助け、誘導する。
 ただ、鬼姫キキを相手に結乃1人で立ち回るのは無理だ。だから――

 ――ザシュッ!

 『彼女』は鬼姫キキの手刀をナイフで打ち払い、そのままコアをひと突きにした。

「まったく、マスター柊も人づかいが荒い」

 結乃の守護に当たっている修羅だ。細身のスーツ姿の、中性的な顔立ち。こんな状況でも至って平静。先ほどから結乃に協力して対応に当たってくれている。

「人々の避難誘導……私の契約外ではありますが」
「お願いします。修羅さんが助けてくれないと、私もっと無茶しますよ?」

 結果、修羅が率先して他人を救うことで結乃の安全も確保される――契約を盾に脅しているようなもので、卑怯だとは思うが今は気にしている状況ではない。

「仕方ありません」

 修羅は肩をすくめてみせて、

「……さすが、サキのお眼鏡に適っただけの図太さはあるね」
「?」
「なんでもありません」

 外でも無類の強さを誇るらしい修羅は、ダンジョン内でも頼りになる仲間だ。鬼姫キキとも互角以上に渡り合い、むしろ圧倒する。

 何の変哲もないナイフで、淡々と、そして無駄なく敵を切り刻む姿は蓮にも重なるものがあった。

 しかし振り返った修羅は、ハッと目を見開き、

「マスター柊っ!」
「えっ」

 修羅に突き飛ばされる。
 上から鬼姫キキの群れが。それも、ただ襲いかかってくるだけではない。全員がすでに自爆体勢に入っている。

「修羅さんっ!?」

 轟音。結乃もとっさに両腕で顔をかばい、水魔法を展開して爆風を防いだが、それでも凄まじい衝撃で後方へと吹き飛ばされる。

 修羅のダメージは深刻だ。ダンジョン用のキズ薬は持っている。早く治療しないと――

「来てはダメだ、マスター柊!」

 叫ぶ修羅へと、さらに3体の鬼姫キキが飛びかかり彼女の身を押さえ込んだ。修羅の抵抗が弱まればすぐにでもトドメを刺されてしまうだろう。

 放ってなどおけない。
 しかし結乃の行く手を阻むように、

「なかなかいいボディーガードを付けてはいたが――」
「貴女は……!」

 アーカーシャの姉、今回の元凶。

「これでオールクリアだ 」
「な、なんでここに……?」
「欲しいものを手に入れるためさ。遠野蓮を――」

 右手に魔法の刃を生成し、その切っ先を結乃へと向ける。

「…………ッ!」
「さて。仲良くしようか、柊結乃」

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