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第6章 世界のピンチも救っちゃいます
第95話 騒乱②
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「みんな! 固まって戦うんだ!」
64階層で戦っていたアイビス配信者・堂間が叫ぶ。
「モンスターは俺たちを狙ってるんじゃない! まずは凌いで体勢を立て直すぞ――これだけの配信者が集まってればやれる!
鼓舞と指揮を同時に行う。
もともとバラバラに活動している約20名の配信者が、堂間のリーダーシップに素直に従った。
探索どころではない、危機的状況にいることを全員が理解している。
それでも怒濤のように襲いかかってくるモンスターを捌ききるには限界があった。
「クソッ、こんな形で妨害してくるとか正気かよ!」
各階層で同時にスタンピードが発生していることは聞き及んでいる。誰かが人為的に仕組んだ事態であることは間違いないだろう。
しかし、問題はそれだけではなかった。
「堂間さんっ……!」
そばで戦っていた顔見知りの配信者が、震える声で訴えかけてきた。
「どうした!?」
「お、俺の仲間が……仲間が……」
モンスターにやられたらしい。地面に倒れ込んで動かない――そう、動かない。動かずにそこにいる。
――リスポーンせずに。
「……おいおい」
事態を把握する堂間の顔から血の気が失せる。
リスポーン機能はダンジョン配信者の命綱だ。
上層階で倒れても、1階層に自動転送されるからこそ無茶ができる。それが――どんな理由か発動せずにいる。
もしもリスポーンできなければ倒れた配信者はどうなる?
(これは……ヤバすぎるだろ!)
たまたまこの配信者だけが、何らかの不具合でリスポーンしないのかもしれない。そういう事故は国内でもゼロではない。
だが、もしも1階層のリスポーン装置が機能していなかったら――
想像するだけで背筋がゾッと凍った。
さいわい、周囲はまだ戦闘に必死で、この異変にまでは気づけないでいる。これ以上の混乱は避けたい。騒ぎが広がらないうちにみんなを誘導しなければ。
訴えかけてきた1人とともに、ぐったりした配信者を担いで堂間は、
「早く転移魔法陣に向かうんだ!」
大声で叫ぶ。
ここから最も近いのは4階層下の60階層の魔法陣だ。そこまでたどり着けば一旦撤退できる――
「堂間! ダメだ、魔法陣が壊されたらしい!」
「っっ!? どういうことだよ!?」
「例の黒髪の着物女が壊したらしい、自爆して!」
「~~~~ッ!」
パーティーメンバーの報告を裏付けるように、堂間のリスナーたちからも次々と同様の証言が集まってくる。少なくとも20階層、40階層、60階層の魔法陣はすでに使い物にならない、と。
(妨害どころか逃がさない気か? 何を企んでる!?)
堂間の足が止まる。
こんな状態で1階層まで帰り着くなんて無理だ。即席パティーメンバーたちにも動揺と混乱が広がる。
このままではチームが瓦解する。そうなればもうおしまいだ――
――ドンッッッ!!
「っっ!? 今度はなんだ!?」
向こうで何かの破壊音。その破壊を巻き起こした主は、すぐに堂間たちへと接近してきた。
絶望に立ち尽くす堂間たちの周囲で、黒い嵐が巻き起こる。
スタンピード状態のモンスターたちが、その一端に触れただけで次々に消し飛んでいく。それはもう、文字どおりに。肉片になり、塵になり――光る粒子になって消えていった。
モンスターは正常にリスポーンするのか――
と、堂間はいやに冷静に思案してしまったが、すぐに首を振って、
「……――っ、蓮くん!?」
かつて彼を一躍有名にしたのもスタンピードのライブストリームだった。
だがあれは2階層だ。
こことはレベルが違い過ぎる。
だというのに――
最年少ダンジョン配信者は、堂間の目でも追えないほどの速度でモンスターを処理していく。
手にするのは破壊と創造の炎剣。
斬ったものを吸収し、鍛錬し、みずからの刃としてさらなる破壊を生み出す――あれを必殺技と呼ばずに何をそう呼ぶのかと思わせるほどのスキルだ。
専用装備【黒翼】で姿勢制御と、多対一の戦闘をむしろ有利に運びながら、この階層を丸ごと綺麗に片づけていく。
「や、ヤベーよ蓮くん……」
・速ぇえええええ!?
・あれって人間なの!?
リスナーたちも騒ぐが、堂間も彼の戦いを生で見るのは初めてだ。想像以上の強さに――堂間の目が知らず輝いていく。
「あんなスキル使っておいて、なんで太刀筋が乱れないんだよ……! しかもあの挙動、敵の動きを先読みしてる? この乱戦で――、って、解説してる場合じゃなかった!」
ついリスナーと一緒に蓮の配信を『同時視聴』でもしているかのような気分になってしまったが、
「蓮くん!」
接近したのを見計らって、最年少にして最強の少年に呼びかける。向こうも気づいてくれた。
「蓮くん、『攻め』は任せてもいいか!? こっちは負傷者がいて――守りながら撤退したいんだ!」
先輩としては情けないことこの上ないが、今はメンツを気にしている場合ではない。
「堂間先輩――」
息を切らしていないのは当たり前としても、ヒートアップすらしていない、冷静で冷徹な表情のままで蓮が口を動かす。
「うん。『守り』は任せる」
「おう! 助かる!」
堂間は拳をふりあげ、
「まとまって下を目指すぞ! モンスターは蓮くんが倒してくれる! 背後は気にするな!」
「僕も助かるよ――」
「ん?」
蓮の言葉に振り返った堂間は、次の瞬間、自分の耳がおかしくなったのかと疑った。
「堂間先輩がみんなを連れて行ってくれるなら――本気でやれる」
「……えっ」
地を蹴った蓮の速度が、誰の目にも明らかに倍増した。もはや堂間にも解説どころか実況すら許さない戦闘挙動だ。
「ま、まさか……さっきまではまだ俺たちに遠慮してたってのか?」
さすがに声が震える。
スタンピードが怖い? リスポーンできないのが怖い?……そんなものよりよっぽど恐ろしくて頼りになる存在が、すぐ目の前にいるじゃないか。
「は、はは……っ」
ほうけているパーティーメンバーに引きつった笑みを向けて、堂間は言った。
「……みんな知ってる? あれ、俺の後輩なんだぜ?」
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