最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第6章 世界のピンチも救っちゃいます

第94話 騒乱①

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 クエスト参加者たちは転移魔法陣を使って20階層以上へと移動した。

 ちなみに、それ未満の階層は参加していない配信者たちが協力してしらみつぶしにしていく――もしも低層階に荒巾木が潜んでいた場合に備えて、1階層には高レベルな配信者が待機している。


 そんな配置の中、クエスト参加者の中でも選りすぐりのメンバーはより上の階層を担当していて、蓮は60階層スタートだ。

『始まったね。……例の作戦、いいよね?』

 イヤホンに伝わってくる結乃の声は、配信に乗らない設定にしてある。
 ゆうべ、突然訪問してきたアーカーシャから情報を仕入れる中、3人で話し合ったことがある。

 関係者以外には伝えていない作戦――

「やっぱりやめたほうが――」

 蓮はまだそれに否定的だった。
 けれど結乃の声には強い意志が宿っていた。

『信じてるから』
「……分かった」

 小さくつぶやいて蓮は、【音架の旅神ヘルメス】を発動させ荒巾木(姉)の探索を開始した。


 ■ ■ ■


 今回のクエストはまず、彼女を見つけ出す必要があった。
 ゆえに、蓮のようにどちらも完璧にこなしてしまえる者以外は、即席パーティーを組んで任務に当たっている。

 戦闘タイプの配信者が、探索タイプの配信者を守りながら各エリアをくまなく調べていく。

 そんな中、クエスト開始から1時間ほどが経った。
 参加していた【りりさく】の2人は――

「うぉおおおっ……!?」
「朔、やっぱビビってるー」

 40階層からクエストを開始していた。梨々香にはともかく朔にとってはオーバーレベルの階層だから、モンスターとの戦闘で尻込みしてしまうのは仕方ない。

 しかし、

「――きゃっ!?」
「! おっと、大丈夫かい?」

 一緒に組んだ探索スキル持ちの女性配信者がピンチに陥ると、急に勢いづいて彼女をかばう。

「全部俺に任せておけば大丈夫だよ」
「は、はあ」

 女性のほうは梨々香の目もあって困惑気味で、梨々香としては逆に申し訳なかったりする。

「気にしなくていーよ☆ 朔はいつもそんなんだから~。……それはそうと、朔はさいてーだけど!」

・朔さいてー!
・いつもの朔だ
・つまりいつも最低ってことだなw
・梨々香ちゃんの器が大きすぎるんよ

「い、いやいや!? 俺たち戦闘タイプが守らないと、な? な?」
「梨々香が守ってるんですけどー?」

 と、いつも通りのノリで配信を続ける。
 それにしても、

(ほんとに見つかるかな?)

 パーティーを組んだ彼女は優秀なうえに真面目。露払いは梨々香が、配信の盛り上げは朔が担当しているので、効率よく探索は進められてはいる。

 それでも、この広大なダンジョンでどこに潜んでいるか分からない人間(?)を1人探し出すのは困難だ。

 今日1日では終わらないかもしれない。それはある程度覚悟していることだが、ダンジョンの状況が不安定なままだと配信にも色々と制限がかけられそうだ。

(それは困るんだよねぇ)

 明るく楽しく配信する。それが梨々香のモチベーションなのだから、面倒ごとはさっさと終わらせてしまいたいのだ。


「ナイス梨々香!」
「梨々香さんの魔法、鮮やかですね……!」
「だろ?」

・朔が自慢することじゃないが?w
・ドヤ顔やめいw

「いいじゃん【りりさく】は2人で1人――」

 パートナーの軽口にツッコミでも入れようかと思ったそのとき、梨々香は異変を察知した。

「朔っっ!」
「えっ!? ご、ごめんなさい!?」
「別に怒ってないし! ヤバイかも、マジで本気出す準備して!」
「え?」

 梨々香が見据える向こうで、モンスターたちの咆哮がした。1体や2体ではない。しかも1種類の声でもない。


「な、なんだ?」
「――お、おびただしい数のモンスターがあちらで暴れてます!」

 探索タイプの彼女も声を硬くした。
 
「これって、まさか……」
「うん。そのまさかみたい――」

 さすがの梨々香も苦笑した。

「――スタンピード、だね」

 恐慌状態に陥ったモンスターたちが猛り狂って暴れ回る。その激しさは、2階層のそれでも十分に脅威だ。

 なのにこれは――40スタンピード。

「ま、マジかよっっ!?」
「っっ! 2人とも伏せてっ【ルミナス・アロー】!」

 光の矢を放って、背後の空中から急降下してきたワイバーンを撃ち倒す。
 悲鳴をあげる翼竜の巨体が地面に落ちてもんどり打った。

(てかタイミング良すぎ……悪すぎじゃない?)

 危険人物の捜索を始めたとたんにスタンピードが発生する。そんな偶然が果たしてあるだろうか? 誰かが――あの女が仕組んだことだろうか? しかし、スタンピードを?

 いや、考えても仕方がない。
 巻き込まれてしまった以上、この嵐のようなモンスターの騒乱を突破するしかない。

「はい朔、さっさと立つ! 女の子守るんでしょ?」
「お、おう! 2人とも俺が守るさ――!」
「朔のそういう調子のいいところ……嫌いじゃないよ☆」
「普通に好きって言ってくれ、普通に!」

 ようやく本腰の入った朔を隣に、梨々香は構え直した。


 ■ ■ ■



 その頃、蓮は68階層にいた。
 雑魚モンスターは蓮の敵ではない。しかし――

・うっそだろ!?ここでスタンピード!?
・えぐいって!

 ここでもモンスターたちの暴走が巻き起こっていた。

「偶然――じゃないよね」

 黒翼を駆使してモンスターをあしらいながらつぶやく。

『蓮くん! この階だけじゃなくて20階層以上のほとんどでスタンピードが起きてるみたい!』
「……全部で?」

・えええっっ!?
・いやマジだ、他の配信者も戦ってる!
・ちょっと待ってこんなの初めて見たんだけど!?

 迫り来る巨漢オークの腹を切り裂いたとき、蓮はその視界に異変の一端を捉えた。

「――レッドドラゴン」

 それはこの階層にいるはずのないモンスターだった。

・本当だレッドドラゴンじゃね!?
・あれって80階層レベルのはずだよね?
・少なくとも60階層代で目撃情報はないよ、他モンスターの擬態じゃないか?

 ――グォオオオオオオッッ!!

 地を振るわすレッドドラゴンの咆哮がモンスターの群れを震え上がらせる。恐怖により混乱に拍車がかかった獣たちは、我先にとドラゴンから逃げだし、途中で遭遇した配信者をなぎ倒した。

「アイツがスタンピードを生み出したんだ」

 通常、ダンジョンは1つの階層で1つの生態系を成している。無秩序のようでいてしっかりと秩序が保たれているのだ。

 ……そこに、生態系を大きく乱す化け物が現れたことで、この階層のモンスターはパニックに陥ったらしい。

・スタンピードってこうやって発生するの!?
・そんな話は聞いたことないぞ
・スタンピード中に別階層のモンスターが目撃された例はないはず
・まだ原因不明なんだよスタンピードって
・でもいま起きてるじゃん!

『ちがうエリアのモンスターが出現する……』
 
 結乃も蓮と同じことを連想しているようだ。
 2人が出会ったときのこと――2階層にいるはずのないモンスターが現れたときのことを。

「やっぱりあの人の仕業か」

 ダンジョン内を自由に行き来する荒巾木の能力。別の階層からモンスターを運搬してくることも可能かもしれない。

 だとしたらこれは。
 言うなれば『人為的《じんいてき》スタンピード』――。


「うわぁああああっっ!?」「ぐぁあああッッ!?」


 向こうでスタンピードに巻き込まれた配信者たちが危機に陥っていた。いくら適正レベルの強者とはいえ、スタンピードとなると話は別だ。

 暴走状態のモンスターで埋め尽くされたエリアは、一気に難易度が跳ね上がる。

 地獄を思い出す。
 人間が生き残るのを許さない、凄惨な空間を。

「悪趣味だ――」

 冷たい声を発っし、配信カメラも置き去りに、一蹴りで配信者たちのもとへと蓮は駆けつけた。

「【創造の炎プロメテウス】……っ!」

 スキルを発動させ、全身甲冑のグールをまとめてぶった切った。片良から授かった新装備は蓮のスキルにも耐えうる出来映えだった。スキルは十全に効果を発揮している。

「え、あ……遠野蓮……」

 突然のことに目を白黒させる配信者たち。

「あ、ありがとう。助かったよ――」
「っっっっ!? うしろっ!?」

 ――ゴァアアアアアアッ!!

 巨大なアギト、喉の奥からせり上がってくる業火。
 配信者たちを襲っていたグールは、このレッドドラゴンの接近を察知していたのだ。

「【荒ぶる海神の槍ポセイドン】――」

 ドラゴンの口内へと、ノータイムで蓮は水魔法の槍を叩き込む。竜の大口にも負けないサイズの必殺魔法。

 ――オゴォオオッッ!? ゴガッ!?!?

 今はゆっくりと狩りを見せているときではない。

「悪いけど墜ちてもらうよ」

 炎剣瞬斬。
 黒翼で舞い、【創造の炎プロメテウス】で竜の首を切断する。

「う、うっそだろ……」
「遠野蓮って、適正レベルいくつなんだよ……」

 唖然とする配信者たちを尻目に、蓮はすでに駆けだしていた。

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