最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第6章 世界のピンチも救っちゃいます

第93話 スピーチ

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 片良から新しく【創造の炎プロメテウス】用の剣を受け取った蓮と結乃は、1階層のイベント会場へと到着した。

 今回もいつものクエストと同様ここでオープニングイベントを経たあとで2階層へと上がっていく。
 事案の内容は深刻でも、これはあくまで『ダンジョン配信』で、挑むのは配信者たちなのだ。

 クエスト主催者はダンジョン庁で、だから賞品などもないが広場には要請を受けた配信者たちがひしめいていた。
 参加条件はナイトライセンスを有すること。
 平均より高い戦闘能力の配信者ばかりが集まっている。

 その中でも蓮はやはり目立っていた。
 もともとの注目度に加え、今回のクエストのきっかけ――荒巾木(姉)との邂逅を果たしたのも蓮だからだ。

 だから中には、

「……おいアイツだぜ」
「いいよね、いつも話題をかっさらって」
「自作自演なんじゃないのか? あの女も仕込みで――」

 なんて不満を漏らす輩もいる。わざわざこちらにも聞こえるように離しているらしい。
 居心地が悪い……

 と、普通なら感じるんだろう。しかし蓮にその手の誹謗中傷は通じない。それに――

(関係者なのは事実だしね)

 あの白衣の女は戸籍だけを追えば蓮の伯母にあたる。仕込みなどでは一切ないが、無関係とも言い切れない。だからこそ、やはり蓮は彼女を止めなければならない。

「あー、レンレン☆ やっほー!」

 陰口をたたいていた集団のうしろから梨々香が大きく手を振る。今日は朔も一緒だ。2人でクエストに参加するらしい。連中は気まずくなって、そそくさと逃げていってしまった。

 梨々香はわざとだろう。蓮への陰口を退治する目的であえて大声をあげたようだ。

「結乃ちゃんもおひさ~。今日は参加できないんだよね?」
「はい、音声でフォローだけ」

 女子トークの隙にひょいと見ると、梨々香のうしろで朔は顔面蒼白になっていた。

「……どうしたの先輩」
「朔ってばビビっちゃってさー」
「び、ビビってないし!? いやちょっと危険かもだし? 梨々香に何かあると悪いから不参加のほうがいいんじゃないかって……!」
「とかいって」

 梨々香はジト目で、

「怖いんでしょ」
「……ち、ちげーし! ちげーし!?」

 明らかに狼狽えている。

「梨々香先輩なら大丈夫でしょ」

 彼女の実力は知っている。朔の戦闘は見たことがないが。

「お、俺は大丈夫かな……?」
「さあ」
「ううっ……!?」
「ほら朔ー、もう覚悟決めなよー」

 梨々香に叱咤される朔を尻目に、広場のステージにはMCが登壇した。マイクを片手に、

『さあ皆さん! もう全員お集まりですね!? それではお待ちかねの特別討伐クエストです――!!』

 こちらもいつも通りのハイテンションだ。
 ふと周囲を見ると、カメラを浮かべてライブストリームを開始している参加者が多かった。MCの説明からリスナーに聞かせようとしているらしい。

 自分も始めるべきか迷っていると、 

「遅くなりました……!」

 マネージャーの衛藤が合流してきた。半袖の白ブラウスにタイトなスラックス。走ってズレた眼鏡の位置を整えて、

「間に合って良かったです」

 広場に設けられた大型スピーカーからMCの説明が響く。
 
『――ということで今回は、ダンジョンに潜む謎の女性の捕縛! 人か!? はたまたモンスターか!? それとも都市伝説……ダンジョンマスターか!?』

 いまだ、世界中のダンジョンでそれらしき存在は確認されていない。この人間世界に突如として現れたダンジョンにはまだまだ謎が多い。

『手下には少女の姿をした危険な化け物まで……! 一流配信者ばかりが集まっていますが、気を抜いたら即死もあり得るヤバいクエストだ!』

「……人間だっていう情報は伝わってるんだよね?」

 声をひそめて隣の衛藤に問う。

「はい。クエストの運営陣は知っているはずです。ただ一般公開はしていないのでああいう言いぶりになってるんでしょう。……イベントを煽るにもちょうどいいですしね」

 あくまでエンタメ。そのスタイルはダンジョン庁も一貫させるつもりらしい。

『さて……クエスト参加者や、そのリスナーさんの中には不安な方もいますよね? 何しろ未知の敵ですし……』

 MCのテンションが変わる。
 会場を見渡す彼と、蓮は目が合う。

「――?」

 にかっと笑うMC。いったん息を吸って、

『しかぁし! すでにその謎の敵と接触し、撃退した人物がいます! そこで……クエスト開始にあたって、景気づけにその配信者にあいさつしてもらいましょう!』
「……っ!?!?」
 
 完全にこっちを見ている。
 そして周囲も、MCの言葉に改めて蓮のことを認識し顔を向けてくる。

「――衛藤さん、これ知ってたの?」
「いいえ初耳です! というかコレ、MCのアドリブじゃないでしょうか!? ほら運営スタッフも慌ててるみたいです」

 ステージ袖のスタッフたちが慌ただしくなっている。しかし彼らが制止するより早くMCが叫ぶ。

『みなさんご存じ! アイビスのルーキー……、いや、もうルーキーなどと呼ぶのは失礼でしょう! 言うなれば希望の星! 最年少ダンジョン配信者・遠野蓮くんにひと言、お願いしたいと思います!』

 冗談じゃない。
 こんな大勢の前で直接、準備もなしにスピーチなどできるはずがない。

「蓮さん、これはさすがに断っていいと思います! 私が事務所NG出しますから――」

 衛藤はそう言ってくれるし、もちろん心情的には断りたい。

 ――だが。
 自分は配信者だ。MCの言うとおりいつまでも初心者だなどとも言っていられない。

 結乃のほうを見る。
 彼女は信じ切った眼差しでこちらを見つめていた。蓮の判断に任せるということなんだろう。優しいが力強い瞳。

「…………」

 わずかな逡巡のあと、蓮は衛藤を振り返り、

「衛藤さん。これって配信者としては『美味しい話』だと思う?」
「……っ!?」

 衛藤は驚いた顔をするが、すぐに蓮の意図を察し、落ち着きを取り戻した声で答える。

「ええ。確かに。ここの参加者は通常のクエストとは違ってナイトライセンス持ちばかり。リスナーの数も桁違いです。それに加えてこの事案は日本中――世界中からも注目を集めています。ここでのアピール効果は絶大でしょう」
「わかった」
 
 蓮は決心する。

「行ってくるよ」

 一歩前に出ると、参加者たちの列が動いてステージまでの道を空けた。

(配信……始めるか)

 進みながら、迷っていた配信を開始する。
 運営の公式中継を見ていた蓮のリスナーたちはそれに気づき、すぐさまチャット欄に集まってきた。


・蓮くんここで!?
・スピーチだいじょぶなん?
・いきなり始まってビビった


 空中ウィンドウに流れるコメントを横目で見ながら壇上にあがると、MCが、

『さあひと言! ビシッとみんなに気合いが入るヤツよろしくお願いしま~~っす!』

 とマイクを渡してきた。右手に持って群衆を向く。参加者たちの後ろにはギャラリーの姿も大勢いる。蓮を注視するたくさんの目。たくさんのカメラ。あの向こうからは、合わせると何百万人もがこちらを注視しているのだ。

 心臓が早鐘を打つ。
 喉がキュッと締めつけられるほど緊張する。
 このマイクが剣だったらどれほど楽だろうと思う。敵をなぎ倒すだけなら何百体が相手だろうと――


・蓮くんがんばれ~!!
・やべ、こっちまで緊張してきた
・俺こういう空気で話す自信ないわ


 見渡す顔の中には、見覚えのあるものもあった。【夜嵐】を纏ったシイナは、小さくサムズアップして激励していた。同じ事務所の堂間は、拳を握ってエールを送ってくる。

 そして梨々香と朔、衛藤、結乃――

(そういえば)

 初配信を思い出す。第一声のあいさつに失敗して、結乃に背中を押してもらって何とかリカバリーできたことを。

(あのときとは違う……)

 結乃と一緒に配信を重ねて、成長してきたはずだ。敵と戦うだけが配信じゃないと思い知った。彼女も見ていてくれている。ここで情けない姿を見せるなんて――いやだ。

 それに今回の件で不安に思っているのは、さっきの朔みたいな参加者だけじゃない。イレギュラーな事案にはダンジョン外の住民たちも大きな不安を抱えることになる。

 戦って、倒す。
 自分が生き残るためじゃなくて、誰かを助けるために。


・深呼吸して蓮くん!
・いける、蓮くんならいけるぞ!


 リスナーも応援してくれている。
 蓮は数瞬、目を閉じてからゆっくり開く。

『僕たちは配信者だ――』

 自分でも驚くほどまっすぐに声が出た。震えていない。
 会場は静まり返って耳を傾けている。

『ダンジョンにコソコソ隠れて悪事を働くやつなんて、見つけ出して全世界にさらしてやろう』

 蓮を知る面々は、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。

『敵なら僕が倒す。全部倒す。誰が現れようと倒す。……みんなも、着いて来られるなら来てもいいよ?』


・蓮くんさん!?!?
・煽っとる煽っとるww
・いいぞもっとやれw
・え、めっちゃ声いいよ蓮くん


 会場もざわつく。分かりやすいこの挑発に、乗るべきか乗らざるべきか困惑しているようだ。

『あれ? 自信ない感じ? いいよ、じゃあ僕がこのクエスト、一人でクリアしてくるから。そこで指をくわえて待っててよ』

「――――――っっ!?!?」


 配信者たちがそろって息を飲む。

「レンレン! 生意気だぞ~☆」

 梨々香が元気な声でレスポンスする。

「梨々香たちだって負けないんだから! ね、朔?」
「お、おう! もちろんだし!」


「俺たちもいくぞー!!」
 アイビスの先輩・堂間も、体育会らしくよく通る声で気勢を上げる。


「……舐めてる。絶対私が先に倒す――」
 声は聞こえなかったが、シイナの唇はそうつぶやいていた。

 結乃が、ずっと変わらない笑顔で拍手をすると、その輪が一気に広がっていった。隣では衛藤がなぜかボロ泣きしている。

 蓮は再び深呼吸して、会場中に声を響かせた。

『じゃあ行こう……特別討伐クエスト!!』




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