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第6章 世界のピンチも救っちゃいます
第92話 試作品
しおりを挟む特別討伐クエストの当日。
蓮は工房の片良に呼び出しを受けていた。
「武器の話かな?」
「たぶんね」
急にメッセージが届いたうえに、職人の片良は蓮以上にぶっきらぼうなので「来てくれ」としか書かれていなかった。
結乃はクエストには参加しないが冒険者服姿で同行してくれていた。
工房に着くと、いつも以上にブスッとした顔の片良がカウンターにいた。
「よお、来たか」
「大丈夫ですか? 寝不足みたいな――」
「……分かっちまうか?」
結乃はほとんど面識がないにも関わらず片良の不機嫌の原因を言い当てた。
だがそれだけではなかったようで、
「昨日、変な女に絡まれてな」
ジロッとこちらを見る。
変な女? まさか……。
「あの姉ちゃん、坊主の母親だとかふかしてやがったな」
「……やっぱり」
結乃と顔を見合わせる。彼女も苦笑していた。
「息子が世話になってるだの、いかに凄い男かだのと、熱く語られてな」
「それはなんと言うか――」
「ま、手土産ももらっちまったが。とびきりの名酒だ」
片良の視線を追うと、カウンター奥の棚に何やら日本酒らしき一升瓶が置かれてあった。
「坊主たちの反応を見ると本当に母親なんだな。……とんでもねぇヤツだ」
「ごめんなさい……」
「いや。そういう意味じゃねぇよ」
「?」
「俺の悩みをあっさり解決していきやがった。武器づくりのな」
片良によると、半ば強引に仕事の内容を問われたそうだ。
蓮のユニークスキル【創造の炎】に耐えうる剣の製作。
「あのスキルを可能にするには魔力伝導率の高さと、魔法の威力に耐えられる強靱な素材……と思い込んでたんだがな。――あの姉ちゃんは魔法のプロなのか?」
「魔術師っていうより、研究者だけどね」
「なるほどな」
片良は得心がいったように、
「ヤツのアドバイスは単純明快だった。コアになる部分に魔力反射の素材を埋め込め、だとよ」
それは通常防具に用いられる鋼鉄素材だ。魔法を反射する性質があるが、かなり高価で加工の難しい部類に入るという。
防具……といっても鎧のような広い面積に使うにはあまりに非効率で、物理防御は下がってしまうのが弱点。また、魔法を頻繁に使うモンスターは少数で、しかも上層階にしか出没しないので、魔力反射の需要はあまり多くない。
「【創造の炎】は坊主の強力すぎる重力魔法で刀身を打ち固めるスキルだ。普通の金属じゃその疲労に耐えられない――だから魔力そのものを反射させろってよ。……ったく、こんな簡単なことに気づかない俺も俺なんだが」
ガシガシと頭をかく片良。
「僕はタダで提供してもらってるんだし――」
「んで」
カウンターの下へかがむと、片良は一振りの剣を取り出してみせた。
日本刀と西洋剣をミックスしたような外見。
滑らかで吸い込まれそうな美しい刀身。
「作ってみた」
「もう!?」
「早いですね!?」
荒巾木からアドバイスを受けたのが昨夜。寝不足の理由はコレを作っていたから――
「つっても、まだ試作品の域を出ねぇ。今日は特別討伐クエストなんだろう? こいつを使ってみてくれ」
「……いいの?」
「当たり前だろうが。坊主のために打った――この剣の真価を引き出せるのも坊主しかいねぇよ。いつも通り、感想も頼むぜ」
「――うん」
手に取ると、ずっしりと頼りになる重みと、掌に吸いつくような感触があった。蓮のためにいくつか武器を作ってきた結果、より適合するよう素材や質量を調整してくれているようだ。
「いつもありがとう、片良さん」
「私からも……ありがとうございます」
「おう。いいってことよ。祝いの品としては色気がねぇがな」
「祝い? なんの?」
「オマエさんら、婚約するんだろ」
「「っっっ!?!?」」
「言ってたぜ、あの姉ちゃんが」
結乃との関係を喜んでいた荒巾木だ、また適当なことを吹聴してるんだろう。
「この酒も『幸せのお裾分け』って言ってたぜ。孫の顔もすぐに見られそうだとも」
「ちょ! それは――!」
「ああ、ノロケは今度にしてくれ。俺は眠い、今日は弟子たちに任せて早じまいだ。もらった酒でも飲みながら、坊主たちのクエストを見物させてもらうよ」
誤解をとく前に片良は、日本酒を片手に奥へと引っ込んでいってしまった。
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