最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

文字の大きさ
上 下
91 / 116
第6章 世界のピンチも救っちゃいます

第91話 外堀

しおりを挟む

 ■ ■ ■


(どうしてこんなことに……)

 寮母の沙和子さんに貸してもらった管理人室で、蓮はため息をついた。

 沙和子さんが使っている木製のデスクと簡単な応接セットが置かれた8畳ほどの洋室。結乃と並んでソファに座り、ローテーブルを挟んだ対面には長身の女性がどっかりと腰を下ろす――蓮の里親である荒巾木アーカーシャだ。

 親とは言ってもビジネスライクな関係に過ぎない。ダンジョン孤児だった蓮には書類上だけでも親が必要だったし、D財団も蓮をつなぎ留めておく理由を欲していた。

 そこで白羽の矢が立ったのが彼女だった。
 飛び級で高等教育を修めた天才。ダンジョン研究の最先端で腕をふるう第一人者――御殿場ダンジョンを生き抜いた『遠野蓮』を分析するのに打ってつけの人材というわけだ。

 ただし、当時23歳で独身と里親になるにはまったく適さない条件だったが、そこは財団がいろいろと手を回したらしい。

 蓮自身としては誰でも良かった。
 当時は特に、本来の家族のことですら遠くに感じるほど擦り切れていたのだから。誰が『親』になろうと構わなかった。

 のだが――

「いやぁ元気そうで安心したぜ最愛の息子!!」

 ソファで身を乗り出し犬歯を剥き出しにして獰猛に笑う荒巾木。

(これ、喜んでるんだよね……)

 血も涙もない研究者だと聞かされていたのだが、なぜだか蓮には愛着を持ってしまったようで、今もニコニコの上機嫌だ――笑い方が凶暴すぎてこれを好意の証だと理解できる人間はごく少数なのだが。

 荒巾木は仕事が忙しく、また蓮は実際には施設で育ったので日常生活での接点は少なかったが、会えばこんなふうに絡んでくる。

 ――親というより大型犬にでも好かれたような、そんな気分。

「しかも……アタシの知らないところで成長しやがって……」
「? ああ、身長も――」
「そっちじゃねぇよ」
「…………。じゃあなに?」
「あん? 決まってるだろ。そりゃあビビるぜ、こんな美人のお嬢ちゃんを射止めてるなんてよぉ!」
「「っっっ!?」」

 驚くことに寮まで荒巾木を案内したのは結乃だという話だった。 

「い、射止めたって……結乃は、別に……」

 言いながらふと横を見ると、結乃はちょっとむくれているように見えた。

「…………。結乃には仲良くしてもらってるけど」

 控えめながらも言い直すと結乃の機嫌はなおったようだった。
 しかし、

「『結乃』って呼び捨てにしてんのか!? すまねぇなお嬢ちゃん、ウチの息子が無礼でよ!」

 不作法が白衣を着て歩いているような女性に言われたくはなかった。

「い、いいえ! 私がお願いしたんです。それより挨拶が遅れちゃって本当にすみません……そ、その、一緒のお部屋で蓮くんにお世話になってます」
「部屋ァ!?」

 シチュエーションだけ見れば『蓮の母親に同棲していることを結乃から告白した』状況だ。考えてみると色々ヤバい。

「あっ、でもまだ清い関係で――」
「マジか……マジかよ……」

 さすがにショックを受けたのかうつむいて肩を震わせる荒巾木が……ガバッとあげた顔は泣いていた。

「んで! 孫の顔はいつ見れるんだ!?」
「そういうのセクハラだからね?」

 本当に疲れる母親だ。
 しかし頼りの結乃は耳まで赤くして固まっている。

「っていうか、僕の配信見てない? 結乃とコンビでやってるんだけど」
「それが初配信しか見れてねぇんだ」

 今度はガッカリと肩を落とす。

「助手が見せてくれねぇ……研究が手に着かなくなるからって。ん? そうか、あの初配信に出てたのが結乃ちゃんか!?」
「やっと気づいた?」
「アタシが人の顔覚えねぇの知ってんだろ! いやしかし、そうか――」

 改めて結乃の顔を眺める。

「マジで可愛いな。……結乃ちゃんよぉ」
「な、なんでしょう?」
「アタシのこと『お義母さん』って呼んでいいからな?」
「えっ」
「ちょっと!?」
「娘もできるなんて最高じゃねぇか」

 さすがに10歳も違わない年齢差でそれは厳しいと思うが。

「結乃だってそんなの言われても――」
「お、おかあさん……」
「結乃?」
「あっ。蓮くんの『お母さん』って意味だよ!?」

 凄いスピードで外堀が埋まっているような気がする。
 気恥ずかしくなって来たので話題を逸らす。いや、こっちが本題か。

「それより、なんでこっちに来たわけ?」

 急に現れた荒巾木。
 ただ一応は見当が付いている。あにはからんや、

「蓮が『お姉ちゃん』に目を付けられたって聞いてな。新田の野郎に呼び出されたんだよ」
「ああ、ダンジョン庁の」
「お、知ってんのか?」
「さっき会ってた」

 アイビスの事務所で打ち合わせたダンジョン庁の新田は荒巾木とも接点があると言っていたが、招集をかけているとは聞いていない。

「始まるんだ、特別討伐クエストが」

 事務所で聞かされた内容を2人に話す。荒巾木のためというより結乃に説明するためだ。配信者が多く駆り出されるであろうこと。通常のモンスター討伐ではないのでイレギュラーな危険もあり得ること。それから――

「……ただ、参加条件はナイトライセンスなんだ」

 だから結乃は参加できない。
 これは蓮にとっては安心できる要素だった。通常の探索や討伐ならともかく、今回は何が起きるかわからない。結乃には申し訳ないが――

「うん。どっちにしても私のレベルじゃ足手まといになっちゃうしね。その代わり全力でフォローするよ」
「そっか、ありがとう」
「蓮が……、ありが……、とう?」
「?」

 荒巾木が見たことのない顔をして驚いている。

「せいぜい『ども』くらいしか言わなかった蓮が、アタシみてーのが親だったからさらにひねくれた蓮が……普通に言いやがったぜ、ありがとうを……」
「そ、そんな言う? 別に普通だし――」
「結乃ちゃんよぉ!!!」

 ローテーブルを大股でまたいで結乃の手をとる。

「えぇっ!?」
「あんたの影響だな!? 蓮がこんなに素直になったのは! 末永くよろしく頼むぜ、最高の娘!!!」
「は、はい……っ!」

 まったく予想しなかった意気投合に、蓮は苦笑いするしかなかった。


 ――そしてこの翌日。
 特別討伐クエストは開始された。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...