最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第6章 世界のピンチも救っちゃいます

第90話 邂逅

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 ■ ■ ■


 蓮が事務所で新田と会っていたころ、結乃はカナミと一緒に下校する最中だった。

「中1くん、平気そ?」

 歩きながらカナミがたずねてくる。

「動画見たけど、ヤバそうなやつだったよね」
「それが……」

 先日の襲撃事件は結乃にとってもショッキングだった。モンスターとは違う存在が、明らかに蓮を狙ってきた。しかも、生半可な強さではない。ただ――

「蓮くん、まったく普通だよ」
「強がってるとか?」
「うーん。それはないかな」

 あのあと、1階層に戻ってきたときもいつもと変わらなかったし、夜も普段の蓮だった。

 かつての彼にとっては、あれが日常だったのだ。
 結乃は、蓮が過酷な経歴をたどって来たことを知っている。常に強敵から命を狙われる日々。その中で彼は生きて来た。

 でペースを乱されることはない。瞬間的に警戒はしても、それを引きずらない。

 そうしなければ生き残れなかったのだと考えると――辛い話だ。あの年齢で、まるで老練した戦士のような精神性を持っているなんて。

(どうにか力になりたいけど……)

 ただ着いていくだけでは蓮の助けにはなれない。むしろ足を引っ張ってしまう。彼の邪魔はしたくない――

 自分に出来ることは何だろうか。
 そんなことを考えて歩いていると、 

「なんだ、あれ」

 カナミが、駅のほうを見て言った。

「なんか揉めてる」
「?」

 改札を出た辺りで、男女が言い合っていた。
 1人はスーツ姿のサラリーマンで、相手はパンツスタイルの女性だ。

 特に女性のほうは目を引いた。女性にしては背が高く、170cmは軽く超えているだろう。ボサボサの赤髪で、声を荒げているのも主に彼女だ。

 一見、20代の女性が40代くらいのサラリーマンをカツアゲしているような、それはそれで異常な光景だったのだが、

「だからよぉ、謝れっつってんだ、簡単なことだろうが!?」
「し、知らないって言ってるだろ……!」

 会話を聞くと、ちょっと事情が混み合っているようだった。

「そっちのお嬢さんにぶつかっただろ!? わざとだったよなァ!?」
「そ、そんなことして俺に何の得があるんだ……!」
「知らねぇよ! てめぇの精神性なんざ知ったこっちゃねぇ!」
「あの……、も、もういいですから……」

 よくよく見ると、女性の奥にもう1人、小柄な女子大学生らしき人物が立っていて、相当に恐縮している様子だった。

「なんかヤバそうじゃん」
「だね……」

 気になって、自然と近づいていくと、

「ケガをしてるわけじゃないですし……」
「ほ、ほら! そっちの女もそう言ってるだろう!?」
「んだと!? ぶつかったあと、鼻で笑ったところまで見てんだぜコッチは!」

 赤髪の女性は、特徴的な犬歯を剥き出しにして、本当に噛みつきそうな勢いで迫っている。 

「正義の味方をやろうってんじゃねぇ、アタシが気にくわねぇって言ってんだ!」
「それこそ知ったことじゃないよ……! も、もういいだろ」

 男のほうは逃げたがっているが、女性のプレッシャーがそれを許そうとしない。背を向けたら襲われる――野生の獣を前にしたら、みんなああなってしまうのかも。

 しかし、ヒートアップするのに耐えられなかったのか、女子大生はそそくさと去っていってしまう。

「ん――? 行っちまったか。まあいいけどよ――」

 女性は、振り向いて女子大生の背中を目で追い、後頭部をかく。あの子を助けるためというより、本当に自分のために怒っていたようだ。

 ――そんな彼女の頭に向けて。
 サラリーマンが、ビジネスバッグを振りかぶった。無防備になった相手に打撃を加えようとして。

「あっ、――って結乃?」

 そのとき、すでに結乃は駆けだして2人のあいだに割って入っていた。

 振り下ろされるビジネスバッグの右腕。その手首を手の甲で受け止め、勢いに逆らわずに受け流す。

 そして、呆気にとられる男性に向かって――ほほ笑んだ。

「危ないですよ?」
「うぅッ……!?」

 通りがかりの女子高生に、難なく制されてしまった。そのことに対する羞恥と恐怖が、男の顔を青くさせた。

「あん?」

 赤髪の女性が振り返った。

「なんだお嬢ちゃん?――ああ、アタシを守ってくれたのか。。そしたら容赦なくブッ殺せたしなァ?」
「う、ううっ……! うわぁあっ!」

 恐慌状態に陥ったサラリーマンは、バッグを胸に抱えるようにして逃走してしまった。

「ちッ。一発ぐらいぶん殴らせろよ」
「それも危ないです」
「ゆ、結乃。ヤバそーだからここは……」

 カナミが心配するのも分かるが、言うほど危険人物だと結乃は思わなかった。

(……私も図太くなってるのかな。蓮くんのおかげで)

 女性の鋭い眼光で見下ろされると確かに圧迫感はあるけれど、それだけだ。

「――お嬢ちゃんよぉ。あんた何者だ。その度胸と身のこなし、ダンジョン配信者か?」
「はい。学校ではダンジョン探索科で。配信者としては見習いですけど」
「それにしたって、生身なのに良くやるじゃねぇか」

 腕を組み、ふん、と鼻を鳴らす。
 なんというか、『女傑』という言葉がよく似合う人だと思った。

「格闘術、教えてくれてる男の子がいて。そのおかげです」
「へぇ?」

 結乃の顔をマジマジと見つめると彼女は、

「お嬢ちゃんにそんな顔させるってことは、その彼氏、いい男なんだろうなぁ?」
「えっ? 格好良いし、尊敬してますけど――か、彼氏ってワケじゃ、まだ」
「…………。なあそっちのお嬢ちゃん、この子は惚気のろけの下手か? いや上手いのか?」

 指をさして、カナミに問いかける。

「あー、天然です。ガチ惚気です」
「参ったな、顔もアタシ好みなのによ」

 また、ジロジロと無遠慮な視線が向けられる。

「え、えっと――?」
「残念だぜ。男がいなけりゃ、アタシの息子のとこに嫁に来て欲しかったぜ」

 息子――彼女は20代半ばに見えるし、まだ幼稚園生くらいだろうか?

「可愛いんですか?」
「おう。世界一可愛い息子だぜ。お嬢ちゃんとも釣り合いが取れるくらいのな」

 険しい顔のままそう言うのが不器用な性格を表しているようで、なんだか微笑ましく感じる。

「お、そうだお嬢ちゃんたちよぉ。世話になったついでで悪いんだが。道を教えてくれないか?」
「道ですか?」
「おぅ。今日ひさしぶりに上京してきたんだが、いまデバイスを持ってなくてな。優秀な助手に預けてたのに、アイツら迷子になりやがってよぉ」
「それって貴女が迷子になったんじゃないっすか?」

 カナミが指摘するが、それには構わず、

「つーわけで、良ければ教えてくれねぇか?」
「いいですよ。どちらに?」
「ああ」

 女性はうなずいて言った。

「聖華女子校の生徒寮――って場所なんだが」

 結乃は、カナミと顔を見合わせた。


  + + +


「まさかお嬢ちゃんたちがここの生徒とはなァ?」

 赤髪の女性の目的地は、まさに結乃たちが帰宅しようとしている学生寮だった。

 女性は、荒巾木と名乗った。
 下の名前はアーカーシャというらしい。何とも珍しい名前だ。

「ここです」

 女子寮に帰ると、寮母の沙和子さんが迎えてくれた。

「あらぁ。そちらの方、まさか荒巾木さん?」
「おう。荒巾木アーカーシャだ」
「沙和子さんご存じなんですか?」
「私もさっき聞いたのよ~」

 エプロン姿の、いつもほんわかしている沙和子さんは、

「ちょうど連絡しようとしてたんですけど~、ごめんなさいね、いま出かけてるの」

 この荒巾木は、誰か生徒の関係者なんだろうか。
 年齢からすると、やや歳の離れた姉といったところか。しかし、他の学年にも荒巾木という名字の寮生はいただろうか……?

「悪ぃが、待たせてもらっていいか?」
「ええ。もちろんですよ~。……って、あら」

 ちょうどそのとき、両開きの玄関ドアから蓮が帰ってきた。

「あ。おかえり蓮くん」
「うん。ただい――……ま……?」

 蓮が立ち尽くして目を見開いた。

「蓮くん?」
「――あん? おお!? 蓮じゃねーか!」

 荒巾木は蓮の姿を見定めると、ガバッと長い両腕を広げて、

「最愛の息子ぉ!! アタシに会いたかっただろう!?」
「っっっ! そういうの、いちいちやめて欲しいんだけど!?」

 全力で回避する蓮と、それに負けじとハグしようとする荒巾木。
 ……息子?

「え、えっと。おふたりは――」
「親子に決まってるだろうがよォ!」
「残念ながらね……っ!」

 2人は寮の広い玄関で暴れながら、叫んで答えた。 

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