最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第6章 世界のピンチも救っちゃいます

第88話 敵

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 ■ ■ ■
 
 
 21階層。
 ここは、これまでの階層とは少し違った迷宮だ。平面的な迷路ではなく、上下にも道が入り乱れ、階層内での高低差も大きいフロアになっている。

『21階層のエリアボスは【イビルフェアリー】だね』

 結乃が、蓮とリスナー向けに解説する。

『小型で、決まったテリトリーもなくて。魔力が強くて逃げ足も速いから、討伐実績はかなり少ないよ』

・探すのに時間かかりそうだね
・ただでさえここって迷うからなぁ
・まず戦闘に持ち込むのが大変だ

 リスナーたちの憂慮も分かる。決められた時間内で上を目指す今回の企画にとって、最初の難関といえる。

 ――ただしそれは、普通の配信者ならば、だが。

『蓮くん、探索系のスキル覚えてるの?』
「あるよ。今日はさっさと進みたいから――」

 手の平をかざし、魔力を集中させる。
 用いるのは、土魔法、水魔法、風魔法、そして光魔法。

 まずは土魔法で核となる、小粒の鉱石をつくりだす。それを水魔法でコーティングしたものを、無数に生み出した。蓮の周囲に点々と浮遊する。

・なになに? どう使うんだ?
・なんか振動してない?
・1つ1つが震えてる、この効果は風魔法かな

『どう使うの?』
「ソナーにする」

 ひとつひとつの塊が風魔法で微弱な音波を発し、反響を受け取る。そうやって周囲を探るアンテナにもするのだ。

「このままだと孤立してるから――光魔法で繋ぐんだ」

 浮かんだ塊を光のネットワークで連携させ、最後には自分のところへ情報が集まるよう接続。

「【音架の旅神ヘルメス】」

 スキル名をつぶやくとともに、フロア中にばらまく。
 21階層の構造。ここに巣くうモンスターの種類、その位置。他の配信者や、彼らが扱うカメラまでを知覚する。

『情報量すごそうだね!?』
「まあね。だからあんまり戦闘には向かないんだけど――あ。いた」
『もう!?』

・イビルフェアリー見つけたってこと!?
・早ない!?w
・蓮くんもう走り出してる!w

音架の旅神ヘルメス】を経由して届けられる情報を頼りに、迷宮を駆け上がる。黒翼も駆使し、あっという間に黒い布をまとった小さな妖精を発見。接近し――

「――――――ッ!?」

 相手がこちらを見定めるより早く、居合抜きで瞬殺。

「次」

・クリア速度えぐいって!
・希少なイビルフェアリーの映像も一瞬で終わりw
・どっちが悪魔か分からんなもうww
・ヘルメスの便利さヤバない?探索系で最強なんじゃ?

 
 蓮の快進撃は続いた。


22階層:シャーマンウルフ。デバフをばらまく厄介な狼を、正面から物量で押し切って撃破。

23階層:エリアボス不在。

24階層:レッサーヴァンパイア。コアが不定形で『不死身』と呼ばれるヒト型のモンスター。極大の魔法を準備している隙に、【荒ぶる海神の槍ポセイドン】ですり潰して撃破。

25階層:双頭ガーゴイル。2種の魔法を同時に扱い鉄壁の防御力も持つ、攻守ともにすぐれた翼獣。相手を上回る4種類の魔法を同時に使用し、相殺・圧倒。接近戦に持ち込み、魔力をまとった刃でコアをひと突き。撃破。
  ・
  ・
  ・
32階層:グールクイーン。エリア中のグールを使役する女王。スタンピード並みの大群を一直線に斬り伏せていき、猛毒をもつ女王の爪をかすらせもせず、魔法の業火で滅却。
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  ・
54階層:金色の神馬。駆ける速度は、瞬間的に光速まで達する。強靱な肉体と獰猛な性格を持つが、蓮の拳にことごとくカウンターを決められ、精神崩壊。錯乱したところを重力魔法により撃破。

 
 ……そして。
 59階層で魔剣を自在に操るキングオウガを剣術で打ち負かしてから、
 
「次は60階層――で合ってるかな?」

 ひさしぶりに立ち止まって、たずねた。
 イヤホンからは上ずった結乃の声。

『う、うん……! い、一気に40階層分……進んじゃったね?』

・なにを見せられたんだ俺たちは(震
・トラウマもののガチヤバボスたちを、流れ作業で倒す映像
・A:神の戯れ
・このあいだナイトライセンス取ったばかりの新人なんだぜ、この人……
・え待って、これでもまだ速度抑えてるの?
・まあカメラでギリ追える速度ではあったけども

『リスナーさんたちも戸惑ってるね……あっ!? 同接が20万超えてる!?』

・マジか!?
・カウンター見る余裕もなかったわ
・凄すぎw何人見とんねんw
・うちの市より人口多いとかw
・そうか、もはや街か

『時間は――あと10分だよ。もうすぐ9時』
「じゃあ、急げばあと2ついけるかな」

・60階層を通りがかりで制覇する気だw
・10階層で詰まってる俺、泣いていいかな…
・ソロでここまで来るだけで偉業なんだが?
・はよ!トークしてないで行っちゃえ!w

「――そうだね」

 それは、つま先に体重をかけ、再び走りだそうとした瞬間だった。
 背後。

音架の旅神ヘルメス】の探知をかいくぐった人影が迫っていた。刹那、蓮の居合い斬りと、人影の武器とが金属音とともに打ち合った。

・えっ?
・なんや!?
『蓮くん!?』

 目で追えたのは蓮だけだったようだ。そして、蓮もひとつ見誤っていた点がある。相手は――黒い着物の少女は、武器など持っていなかった。白い肌の手刀。それでこちらの剣撃を防いでいた。

「なに、アンタは――」

 配信者のようには見えない。
 外見は確かに人間なのだが、放たれる冷たい気配は人間のではなかった。モンスターの野生とも違う。敵からの機械的な殺意と、蓮の毅然とした視線とが交差する。

「……どうして」

 相手も疑問をぶつけてきた。
 暗く、沈むような声音の少女。

「私に気づけたの? いつ? おかしい。あり得ない」
「…………」

 コミュニケーションを取る機能はある。苛立った口調。やはりモンスターとは異なる存在だ。
 素直に答えるべきか逡巡したが、
 
「ずっと。【音架の旅神ヘルメス】の探知を躱してる、不審な気配があった。レッドコカトリスを倒したあとから、誰かが僕を尾けていた――だからずっと警戒してたよ」
「――――!?」

 黒い瞳の血走った両眼が剥かれる。

「化け物め――ッ」
「どっちが」
 
・なんだこの子!?
・プレイヤーキルやってんのか?
・相手を誰だと思ってんだこの配信者w
・蓮くんの配信見ていっちょ噛みしにきたか
・いやいやここ59階層だぞ!? 蓮くんぐらいの歳じゃね、こいつ!?
・てことはモンスター?
 
 得体の知れない少女は飛びすさり、再度手刀を繰り出してきた。感触は金属。――ここまで倒してきたエリアボスたちより、そして接近戦ならあのシイナより強い。

 だがとにかく、敵意を剥き出しにしてくれるのは助かる。人間であろうとモンスターであろうと、そのほかの何者であろうとも。敵であるなら容赦など必要ない。しかし――

 ――ガギィンッ

 激戦に、蓮の日本刀が耐えられなかった。
 黒衣の少女の手刀が巧みに軌道を変えて、刃を横腹から叩き折ったのだ。

『蓮くん危ない!』

 結乃はこの戦闘を目で追えているようだ。やはり目がいい――なんて、余計なことを考えながら。蓮は、宙を舞う折れた刀身を左手で掴んだ。痛みが走るが、そんなものはどうでもいい。強く握り込み、少女の手刀を躱しながら胸部に突き刺す。

 そして刃を伝えて、雷の一撃。

「ぎィッ――!?」

 少女の身体が跳ねる。心臓やコアがその位置にあるのか、それとも何もないのか。

「ア、ァアアアッッ――!!」
「そう。これじゃダメか」

 牙を剥きだし、髪を振り乱し、人外の化け物は蓮に食らいついてくる。黒翼での迎撃にも対応する適応力がある、未知の相手。

「アンタが何者か――【音架の旅神ヘルメス】」
「!?」

 拡散させていた【音架の旅神ヘルメス】の粒を、すでに呼び戻していた。少女の周囲に集まる無数のカケラから、最大出力の音波を発する。

 ――ギィイイイイイイインッッ!

「ギャァっ!?」

 攻撃と同時に、【音架の旅神ヘルメス】を通じて内部構造を知覚する――やはり、人間でもモンスターでもない。
 致命的なダメージを負いながらも、凄まじい形相のまま襲いかかってくる黒衣の少女。おそらく、首を切り落としても止まりはしないだろう。

「黒翼――」

 両手と、黒翼の6枚羽に魔力を込める。重力魔法を。発動させるのは接近戦にて無類の威力を誇るスキル――

「【百の拳の巨鬼神ヘカトンケイル】」
「!!!!」

 黒翼のサポートを得て文字どおり破壊力を倍増させた暴力の嵐が少女を襲う。鈍い音、激しい音。腕が折れ肋骨が砕け、足も、肩も、額も砕け――少女の姿をしていたその体は、ダンジョンの壁に叩きつけられ、動かなくなった。
 
「……しまった」

 蓮は、折られた刀を鞘に収めながら、

「配信時間がなくなった。ごめん結乃」
『そんなこと! それより平気だった? 手とか――』
「ああ、うん。それより、もうエリアボスと戦う時間はないかも。次はちょうど60階層だし、転移魔法陣で戻るよ」
『包帯準備しておくね!』

・やっぱモンスターだったんか!?
・あんなの居たか?
・新種だろ
・日本語しゃべってたぞ?

 リスナーたちもおおいに戸惑っている。

「…………」

 蓮は、動かなくなった塊を一瞥する。やはり消える気配はない。配信者用のリスポーンもなく、ダンジョンのリスポーンにも巻き込まれない。

 そしてとある一点を確認してから――60階層へと向かい、配信を終えた。


 ■ ■ ■ 
 
 
「思ったより派手にやられたね、鬼姫キキ」 

 蓮が去ったあと。
 壁から沁み出すように荒巾木は姿を現す。

「あら……ハバキ、さま――」

 がらくたになった鬼姫キキが、かろうじて残った声帯を震わせる。

「アップグレードを……要求、します――」
「はは。悔しかったのかい? いいけど……どうやってもキミじゃ彼には敵わないよ」
「…………」
「フフ、さすがは可愛い甥っ子。まったく底が見えない。恐ろしいね」

 コツコツと靴音を鳴らしながら、悠然と鬼姫キキの残骸に歩み寄る。手を伸ばし、

「今回は彼の戦いを観察できただけでも成果だよ。鬼姫キキも役に――、んっ?」

 違和感。
 荒巾木は、着物の襟元をまさぐり、小さな石粒をひとつ摘まみ出した。

「コレは、さっきの……!?」

音架の旅神ヘルメス】の一片。
 先ほどの戦闘で蓮は、探索用のこのスキルを戦闘に応用してみせた。それだけでも目を見張ったのだが――しかし、本当の狙いはそちらではなかったのだ。

「トドメを刺さなかったのは……あえてか」
 
 たとえば、魔法で跡形もなくなるほど吹き飛ばすこともできたろう。
 けれど彼は、鬼姫キキの素性を疑ってトラップを仕込んでいた。【音架の旅神ヘルメス】を忍ばせ、鬼姫キキの行方を探ろうとしたのだ。

 それに――
 この石粒が放つ音波で、荒巾木の姿形も把握しただろう。光魔法のラインが上の階層へと伸びている。遠野蓮は、まだ60階層にいるのだ。罠を張り、そこからこちらを見定めようとしていた。

「…………これは、可愛くないね」

 こちらの想像を超えられるのは不愉快だ。荒巾木はギリッと奥歯を噛み、指先の【音架の旅神ヘルメス】を押し潰す。

「行くよ鬼姫キキ。すぐにアイツが駆けつけてくるかもしれない」

 残骸を掴んで、壁の中へと潜っていく。そして彼の気配がするほうへと視線を送りながら、

「遠野蓮。規格外の人間、ダンジョンが育てたホンモノの化け物……か」

 つぶやき、消えた。
 
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