上 下
84 / 116
第6章 世界のピンチも救っちゃいます

第84話 成長(後半)

しおりを挟む

 朝が来た。
 枕元にある目覚まし時計のアラームで蓮は目を覚ます。おそらく何度目かのアラームだ。

 薄ぼんやりとした記憶をたどってそう感じた蓮は、枕元へと手を伸ばそうとするが――

「…………??」

 頭の中がだんだん鮮明になってくる。
 腕が動かないのは、結乃に抱きしめられているからだ。

「――――っっ!」

 思い出した。
 昨夜はあのあと、いつの間にか意識を失って、そのまま眠っていたのだ。

「う、んん……っ」

 アラームの音に結乃もモゾモゾとし出した。彼女が動くと、柔らかなものが背中に押しつけられて、

(だめだ……!)

 結乃の腕の中で身をよじって、なんとか手を伸ばしてアラームを止める。
 が、その動作のせいで、ちょうど結乃と対面する体勢になってしまう。

 カーテンの隙間からの朝日。
 すぐ目の前に結乃の顔。長いまつげ。小さく整った鼻に、柔らかそうな頬。薄桃色の唇。

(…………)

 目覚ましには十分過ぎるほど刺激的な光景だった。いっそ、このまま時が止まって欲しいと渇望するほど。

 けれど無情にも、結乃の閉じられたまぶたが少し動いて、

「ん、んぅ、ふぁ……っ」
「――――!?!?」

 脱出のタイミングを逃した蓮が、今さら慌ててももう遅い。

「……あれ? ん、蓮くん……?」
「いやこれは――っ」

 布団に潜り込んできたのは結乃なのだが、やましい気持ちに苛まれる。だって、そのきっかけを作ったのは自分のほうだから。

 結乃はボーッとした目で見つめてくる。

「蓮くん、だ……。んっ」
「えっ?」

 まだ寝ぼけているらしい。
 結乃はむしろ、蓮のことをギュッと強くハグしてきた。

(ま、また――!?)

 今度は顔から結乃の胸に抱かれてしまう。その柔らかさと甘さを、思いっきり味わうはめに。

「ゆ、結乃っ……!」

 さすがにこれは抵抗しなければ。
 さもないと、蓮の理性が今度こそ持たない。

 しかし胸に埋まっているせいでくぐもった声になり、覚醒していない彼女の耳には届かない。

「ぅうん……っ、蓮くん……」

 夢でも見ているのだろうか、おぼつかない声で蓮の名を呼び、足を絡めて腰を押しつけてきた。さらに強く抱きしめられる。

「~~~~~ッ」

 昨夜に引き続いてのだ。
 蓮だって1人の男子。忍耐にも限界がある。

 プツンっ

 と、頭の中で何かが切れた。

 自分から結乃の背中に腕をまわす。嫌がられる素振りなどもちろんない。
 クラクラするほど甘い香りに脳まで焼かれそうだ。このまま抱きしめ返して、そして、そして……。


「…………ッ、ダメだ!」


 なけなしの自制心を振り絞って、蓮は、結乃の肩を押し返す。

「ん、う~ん……? 蓮くん? どうして私のベッドに……ベッド……、あっ!? ちがう私っ――」

 2度目の目覚めで、ようやく結乃は思考を開始した。
 バッと布団をはねのけて、

「ごめんね!? 私あのまま寝ちゃって――あれ? 蓮くん!?」

 蓮は燃え尽きていた。
 結乃を穢さなくて良かった安堵と、それから、大きな好機を逃したのではないかと後悔する男心に板挟みになって。

 もう何も考えたくなくなって、ベッドの上で真っ白に燃え尽きた。

「れ、蓮くん――――っ!?」


 ■ ■ ■


「おはー」

 寮のミーティングルームに蓮と結乃が降りていくと、カナミと麗奈が待っていた。

「遅かったじゃん。って、2人とも、どしたん?」
「え、ううん? な、なんでもないよ?」
「…………ない」

 目の下にくまを作った蓮たちを見て、カナミと麗奈は、

「寝不足で疲れてる――まさか!?」
「一線を越えたんですの!?」
「ま、まだ越えてないよっ!?」
「生死の境は越えたよ……、何度も……」

 何だか、ひと晩で大人になった気がする蓮だった。
 

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

超人気美少女ダンジョン配信者を救ってバズった呪詛師、うっかり呪術を披露しすぎたところ、どうやら最凶すぎると話題に

菊池 快晴
ファンタジー
「誰も見てくれない……」 黒羽黒斗は、呪術の力でダンジョン配信者をしていたが、地味すぎるせいで視聴者が伸びなかった。 自らをブラックと名乗り、中二病キャラクターで必死に頑張るも空回り。 そんなある日、ダンジョンの最下層で超人気配信者、君内風華を呪術で偶然にも助ける。 その素早すぎる動き、ボスすらも即死させる呪術が最凶すぎると話題になり、黒斗ことブラックの信者が増えていく。 だが当の本人は真面目すぎるので「人気配信者ってすごいなあ」と勘違い。 これは、主人公ブラックが正体を隠しながらも最凶呪術で無双しまくる物語である。

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真@植物使いコミカライズ連載中!
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...