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第6章 世界のピンチも救っちゃいます
第84話 成長(後半)
しおりを挟む朝が来た。
枕元にある目覚まし時計のアラームで蓮は目を覚ます。おそらく何度目かのアラームだ。
薄ぼんやりとした記憶をたどってそう感じた蓮は、枕元へと手を伸ばそうとするが――
「…………??」
頭の中がだんだん鮮明になってくる。
腕が動かないのは、結乃に抱きしめられているからだ。
「――――っっ!」
思い出した。
昨夜はあのあと、いつの間にか意識を失って、そのまま眠っていたのだ。
「う、んん……っ」
アラームの音に結乃もモゾモゾとし出した。彼女が動くと、柔らかなものが背中に押しつけられて、
(だめだ……!)
結乃の腕の中で身をよじって、なんとか手を伸ばしてアラームを止める。
が、その動作のせいで、ちょうど結乃と対面する体勢になってしまう。
カーテンの隙間からの朝日。
すぐ目の前に結乃の顔。長いまつげ。小さく整った鼻に、柔らかそうな頬。薄桃色の唇。
(…………)
目覚ましには十分過ぎるほど刺激的な光景だった。いっそ、このまま時が止まって欲しいと渇望するほど。
けれど無情にも、結乃の閉じられたまぶたが少し動いて、
「ん、んぅ、ふぁ……っ」
「――――!?!?」
脱出のタイミングを逃した蓮が、今さら慌ててももう遅い。
「……あれ? ん、蓮くん……?」
「いやこれは――っ」
布団に潜り込んできたのは結乃なのだが、やましい気持ちに苛まれる。だって、そのきっかけを作ったのは自分のほうだから。
結乃はボーッとした目で見つめてくる。
「蓮くん、だ……。んっ」
「えっ?」
まだ寝ぼけているらしい。
結乃はむしろ、蓮のことをギュッと強くハグしてきた。
(ま、また――!?)
今度は顔から結乃の胸に抱かれてしまう。その柔らかさと甘さを、思いっきり味わうはめに。
「ゆ、結乃っ……!」
さすがにこれは抵抗しなければ。
さもないと、蓮の理性が今度こそ持たない。
しかし胸に埋まっているせいでくぐもった声になり、覚醒していない彼女の耳には届かない。
「ぅうん……っ、蓮くん……」
夢でも見ているのだろうか、おぼつかない声で蓮の名を呼び、足を絡めて腰を押しつけてきた。さらに強く抱きしめられる。
「~~~~~ッ」
昨夜に引き続いてのこれだ。
蓮だって1人の男子。忍耐にも限界がある。
プツンっ
と、頭の中で何かが切れた。
自分から結乃の背中に腕をまわす。嫌がられる素振りなどもちろんない。
クラクラするほど甘い香りに脳まで焼かれそうだ。このまま抱きしめ返して、そして、そして……。
「…………ッ、ダメだ!」
なけなしの自制心を振り絞って、蓮は、結乃の肩を押し返す。
「ん、う~ん……? 蓮くん? どうして私のベッドに……ベッド……、あっ!? ちがう私っ――」
2度目の目覚めで、ようやく結乃は思考を開始した。
バッと布団をはねのけて、
「ごめんね!? 私あのまま寝ちゃって――あれ? 蓮くん!?」
蓮は燃え尽きていた。
結乃を穢さなくて良かった安堵と、それから、大きな好機を逃したのではないかと後悔する男心に板挟みになって。
もう何も考えたくなくなって、ベッドの上で真っ白に燃え尽きた。
「れ、蓮くん――――っ!?」
■ ■ ■
「おはー」
寮のミーティングルームに蓮と結乃が降りていくと、カナミと麗奈が待っていた。
「遅かったじゃん。って、2人とも、どしたん?」
「え、ううん? な、なんでもないよ?」
「…………ない」
目の下にくまを作った蓮たちを見て、カナミと麗奈は、
「寝不足で疲れてる――まさか!?」
「一線を越えたんですの!?」
「ま、まだ越えてないよっ!?」
「生死の境は越えたよ……、何度も……」
何だか、ひと晩で大人になった気がする蓮だった。
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