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第5章 夜も激しくなりそうです

第81話 反響:工房

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 蓮はその日、マキ・テクノフォージの工房をみたび訪ねていた。
 ナイトライセンス合格の報告と、今後の相談のためだ。

 ファンタジーな武器屋っぽい店内に入ると、

「おう、坊主じゃねぇか」

 職人の片良かたらが、カウンターの向こうにどっかり座っていた。

「合格したらしいな、ナイトライセンス」
「あ、はい。ありがとうございました――」
「ま、ウチの武器を坊主が使えば鬼に金棒どころじゃねぇからな。当然だ」

 ぶっきらぼうな言いぐさだが、これはこれで蓮のことを祝ってくれているらしい。

「でも剣のことはダメにして――」

 【創造の炎プロメテウス】で使用して、提供を受けたあのロングソードは壊れてしまった。

「んなの、想定内だっつったろうがよ。しかし驚いたぜ、まさか本当にあんな技を扱えるなんてな」

 灼熱の炎で鋼を溶かし、重力魔法を槌がわりにして新たな武器を創造する。

「オレら鍛冶師のお株を奪ってみせやがって」

 そもそもこの工房を訪れたことで閃いた新スキルだ。

「武器の宣伝にはならなかったけど……」
「そうでもねぇぜ」
「?」

 片良かたらはヒゲを触りながら、

「あのあと、本社に問い合わせが殺到したらしい。『あの剣はどうやって造るんだ』『自分にも購入できるか』ってな」
「はあ――」
「生真面目な広報連中は、ロングソードの仕様を正確に伝えたらしい。たいていのヤツが残念がってたって話だが……中には、それでも欲しいって配信者もいたんだとよ」

 いわく、『あのスキルを発動させられるだけの代物だ、他の用途だがぜひ使わせて欲しい』とか。

 マキ・テクノフォージの武器は高品質だ。
 あのロングソードも特に仕掛けこそなかったものの、あれだけの魔力伝導率がなければ【創造の炎プロメテウス】の芯にはなり得なかった。

「――【黒翼】の評判はそれ以上だがな。あれから【イージス・マント】のカスタム依頼が毎日ドサドサ来やがる。オメェさんの宣伝効果、おそろしいぜ」

 蓮の称号が【ソード・セラフ】に決まったのは、この専用装備のおかげでもある。

「だが、そっちは後回しだ。オメェさんの【黒翼】の微調整が先だな」
「メンテ……してくれるんですか?」
「あったりめぇだろうがよ。戦闘シーンを見たが、まだまだ坊主の能力に装備が追いついてねぇ。オレらが満足できるワケねぇよ」

 なんだか世話になりっぱなしだ。
 ……宣伝効果もあるというなら、お互いにとって悪い話ではないんだろうけれど。

「【創造の炎プロメテウス】に耐えうる剣の開発に、【黒翼】のレベルアップ。――ったく、忙しいったらありゃしねぇぜ」

 面倒くさそうにしながら、でもどこか楽しそうに片良かたらは言う。

「要望があるならいつでも言ってくれよ――いや、要望を出してくれんと困る。動画だけじゃ分からん使用感、足りない部分をオメェさんの口から聞かせてもらわんとな。さしあたって――」

 片良かたらが身を乗り出してきたとき、奥の工房のほうから、

「おーーっ!?『遠野蓮』じゃん!」
「親方! 来てるんなら教えてくださいよ!」
「マジか、おいおいホンモノかぁ?」

 声のデカい兄さんたちがワラワラと現れた。
 どうやら彼らは、この工房の職人たちらしい。金髪に浅黒い肌だったり、片良かたら以上にいかつい顔だったり。
 
 蓮とはだいぶ違う種類の人たちなのだが――

「うお、マジじゃん! 俺メッチャ配信見てるんだよね」
「親方の装備、いきなりあんだけ使いこなすとか。本人と一緒で癖が強いのにさ!」
「配信者やめて鍛冶師になってみねぇ?【創造の炎プロメテウス】使ったらぜってーヤベぇって!」

「おいオメェら!! 客の前だぞ!」

 片良かたらの怒声を、まったく恐れる様子もなく、

「いいじゃないっすかー、つーか親方だけしゃべるのズルいっしょ」
「俺、彼女が蓮くんの大ファンでさ、そんで知ったんだよね。『今もイケメンだけど将来もっとヤバくなる!』って。でもよぉ、見てみたらバトルめっちゃ熱いじゃん!? 俺もハマっちまってさー」
「女子人気、マジうらやましいっす!」
「ごっつい親方みたいなファンもいるけどなァ」

「ど、ども……」

 笑い合っている職人のお兄さんたち。もちろん嫌な気分などはしないが、この圧をさばけるだけのスキルは蓮にはまだない。

 片良かたらは言っても聞かない弟子たちにムスッとしているが、軽んじられているというより、好かれている様子。職場の雰囲気はいいようだ。

「先輩サインもらわなくていいんすか?」
「いやだってよ、そこまでやったら職権乱用ってやつじゃね? 俺も彼女も、いちリスナーなわけよ」
「変なとこで律儀っすねー」
「親方、蓮くんの武器づくり、オレらも手伝いますからね? 手伝わせてくださいよ?」

「あー、わかってるっつーの! うるせぇからテメェらもう引っ込め!」

「ういーっす」
「あ。親方、昼の出前なんにします? カツ丼でいいっすか?」

「それじゃ僕もこれで――」
 
 これ以上仕事の邪魔をしてはいけないだろうと、蓮は退店していく。

「またなー蓮くん!」
「いつでも来てくれよォ!」

「だーから、うるせぇっつってんだろうが!!」

 思った以上に賑やかだった工房をあとに、今日も蓮はダンジョン配信に向かうのだった。


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