最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第5章 夜も激しくなりそうです

第71話 試験当日

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 日曜日。
 今日はナイトライセンス試験の日だ。

「蓮くんっ――、良かったの……っ?」

 寮のミーティングルームで、組み手中の結乃が尋ねてくる。

「試験日なのに、こうやってレッスンしてもらって」
「うん。もう日課だし、結乃たちとこうやってるほうが調子出るから」
「そっか」

 嬉しそうな結乃。他の2人も、

「中1くん、これくらいで参りそうにないしね」
「遠野さんには文字通り朝飯前ですのね」 
 
 すでに蓮との疑似戦闘を終えて、汗を拭きながら観戦している。

「イベクエの時みたく、ライブビューイングあれば見に行くのにな」
「残念ですわ。戦闘試験の会場は20階層ですし……」
「ウチらは行けないよね~」

「んっ、でも、配信はあるんだよね?」
「うん。試験の運営が配信やるって」

 民間企業の広報を兼ねているイベントクエストほどではないが、ナイトライセンス試験もひとつの興行だ。

 そして『戦闘ガチ勢』なリスナーにとっては、初級配信者が中級者へと成長する過程をのぞける、格好の場。

「いちゃもん付けてくるリスナーも多いんでしょ? 戦闘中はチャット見れないだろーけどさ。……中1くんが文句言われてたりすると、イラッとくるよね」
「ですわね。配信者って、メンタルも強くないとやっていけないんでしょうね」

 結乃へのレッスンを一通りこなして、朝練は終了だ。

「はい結乃、タオル」

 カナミがタオルを2枚、結乃に放って寄越す。

「2枚もらっちゃったよ?」

 首をかしげる結乃に、カナミがちょいちょいと、蓮を指さす。カナミと麗奈の手にも、同じタオルが。

 結乃はピンと来たらしく、

「はい蓮くん、わしゃわしゃいくよ~」
「は? え、ちょっと?」
「食らえ!」
「お覚悟を、ですわ~」

 3人から寄ってたかって汗を拭われる。頭や顔や、腕やうなじや。

「うぐ、く、くすぐったいって……!」
「試験がんばってね蓮くん」
「負けたら許さないからな~?」
「えいっ、えいっ、ですわ!」

 揉みくちゃに激励されて、蓮は寮をあとにした。


 ■ ■ ■



 四ツ谷ダンジョン1階層。

 手続きの関係で衛藤とはあとで合流することになっており、蓮は1人でマキ・テクノフォージの工房を訪れた。

「おう、来たな坊主」

 工房のオヤジがカウンターにもたれかかりながら応対する。

「出来てる?」

 蓮の特注装備。マキ社の【イージスマント】の改良版。

「ほらよ、ご注文の品だ」

 カウンターの上に無造作に取り出されたのは、黒衣のショートマント。手に取ると、

「――軽い」

 見た目は重厚な布地をしているのに、触れると――蓮の魔力を感知すると、重さを無くしたように様変わりする。

「着けてみな」

 言われたとおり、探索服の上から羽織ってみる。

「もとのイージスマントのとおり、坊主の意思で形状変化させられるぜ。だが……最大効率を発揮させられる形態が、1つある」
「?」
「翼をイメージしてみな」
「翼……?」

 次の瞬間マントの一部が変形して、細くて黒い翼が生える。

「イージスマントの改良版、坊主の専用装備【黒翼こくよく】だ」
「これ……飛べるワケじゃないよね?」
「おう、残念ながらな。ただある程度は伸縮するし、なにより、使いこなせば坊主の身体の一部として操作できるようになるはずだぜ」

 試しに、自分の腕のつもりで動かしてみる。

「へえ――」
「今日はあのシイナ嬢とやり合うんだって? さすがにあの乱気流の中じゃ滑空用にも使えんが――しかし、オメェさんの腕が増えるってのは、相手にとっちゃ脅威になると思うぜ。左右3枚ずつ、合計で6枚まで生成可能だ」

 蓮の基本戦術は、接近戦だ。
 遠距離からの魔法合戦になってもたいがいの相手に負ける気はないが、魔力の消耗が大きい。蓮の性分として、接近して最小限の労力で敵を倒したい。

 操作してみると、この翼は想像よりもずっと精密に動く。翼というには細いので、意匠は翼でも、触腕しょくわんとイメージしたほうが良さそうだ。

 それが合計6本。

「オメェさんは2本の腕だけでもあれだけの戦闘ができるんだ。あんま凝ったギミックより、そのくらいシンプルなほうが合うだろうと思ってな」
「うん――、これはいいね」

 マキ社の装備の売りである、魔力伝導率の高さのおかげで、蓮の魔力をいっさいのロスなく先端まで伝えられている。【スタンスティール】くらいのスキルなら、この黒翼で再現できるだろう。

 そうなれば、接近戦での戦術の幅が間違いなく広がる。

「でも、なんで『翼』?」
「そりゃオメェ、映え重視よ」
「映え……」
「お、おい、オレが配信映えを気にしちゃいけねぇのか?」

 無骨なヒゲ面でそんなことを言われると、ちょっとおかしく感じてしまう。

「ウチは配信者用の装備を造ってんだぞ? そりゃあカメラにどう映るかも考えてだな――」
「うん。気に入ったよ」

 蓮は正直に感想を伝えてから、

「それから、もう1つの武器だけど」
「ん、おう。そっちも出来てるが……本当にいいのか、こんなモンで?」

 別に発注していた、新スキル用の剣を受け取る。

 一見なんの変哲もない――そして実際、特別なギミックなどは備えられていない、やや肉厚のロングソード。

 蓮の注文は単純だった。
 ひたすらに魔力伝導率だけを追求した一振り――

 つまり、ギミックどころか切れ味や重量にもまったく制限をかけず、ただ蓮の魔力を通しやすくすることだけを求められた武器。

「オメェさんから新技とやらのアイデアを聞いたときには……なんだろうな、職人としての自信をなくしかけたけどよ」

 ボリボリと頭を掻いて、

「――まあ、取りあえずはそいつを使ってくれや。坊主の技が本当にアイデアどおりになるってんなら、1回でになっちまうだろうがよ。……今後は、そんな使い捨てじゃねぇ、オメェさんを満足させられるようなモンを造ってみせるよ」

 瞳をギラリと光らせている。プライドを傷つけてしまったようだが、しかし、それで余計にオヤジの職人魂に火が付いたようだ。

「そういえば……名前聞いてなかった」
「あん? オレか? オレは片良かたらだ。名前なんか聞いてどうすんだ」
「――ありがとう、片良さん」

 彼は仕事の一環で取り組んでいるだけだろうが、それでも伝えておきたかった。

「ふん――」

 片良は鼻を鳴らして、

「ウチの武器を使うからには、負けんなよ坊主?」
「当たり前だよ――」

 自分でも少し驚くほど強気な発言になる。
 ――こうして片良に激励されて、生徒会長にも応援されて、もちろん結乃たちも、衛藤たち事務所のメンバーにも支えられて、期待されて。

 これで、『別に』なんてスカしたことは言えなかった。

「勝つよシイナ先輩に。そしてナイトライセンスも取る」

 宣言して、蓮は試験会場へと向かった。

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