68 / 116
第5章 夜も激しくなりそうです
第68話 ダンス(後編)
しおりを挟むれんゆのカップル配信にお邪魔しているカナミと麗奈。
今夜のダンス配信は、シイナ対策という建前で提案した。とはいえフォークダンスの練習が戦闘に役立つとは誰も本気で思っていない。
蓮は最初悩んでいたが、彼なりに『配信のネタ』になると考えたようで、しばらくして提案を受け入れた――配信業としてのプロ意識が強くなっているらしく、そういう成長も弟を見ているようで楽しくなる。
カナミが先導して、
「社交ダンスで慣れてる麗奈が先生だよね」
「麗奈ちゃんよろしくね」
「よろしく……」
「い、一生懸命つとめますわ……!」
・がんばれレイナちゃん
・ふんす!
・お嬢さま可愛い
・頑張るぞい!
高校では、体育祭の練習が始まっている。
フォークダンスの課題曲と振り付けは決まっていて、1度だけ授業で通して踊っている。
その振り付けを麗奈が完璧に再現して蓮に教える。エスコート役のパートも、パートナー側の動きも。
・フォークダンスとか懐かしいな
・蓮くんさんなら一発で覚えそう
・お姉様たちを簡単にあしらいそうだね
たしかに、蓮の物覚えの早さは目を見張るものがある。複雑なステップもすぐにマスターして、すぐに麗奈と同レベルにまで達した。
「中1くん、マジで完璧じゃん」
「とっても教え甲斐がありますわ。簡単に追いつかれてしまうのは複雑ですけれど」
「ふふん、だって蓮くんだもん」
・ゆのちゃんがドヤってるww
・彼ピ自慢かな?
・親バカじゃないか?w
・普通に優秀だからしゃーない
・女子3人も仲良さそうでいいね
蓮の飲み込みの早さのおかげで、単体練習もそこそこに、音楽を付けて踊ってみようということになった。
エスコート役は蓮だけで、結乃・カナミ・麗奈が代わる代わる蓮の相手を務める方式だ。
・ほほう? ハーレムかな?
・蓮くんそこ代われ
・私も蓮くんと踊りたい!
・身長差、いいね
「それでは流しますわ」
まずはれんゆのからスタート。そのあいだ、カナミと麗奈は見守り役だ。
音楽が始まり、蓮と結乃が向かい合って手を取る。蓮が見上げて、結乃が慈愛の籠もったまなざしで見つめ返す。
「カップルかよ」
「カップルです。尊いですわ……」
・レイナちゃん、うっとりしとるw
・カプ厨だったか
・どこかのマネージャーみたいだねw
・いつか鼻血とか出しそう
身長差があるから、蓮が結乃を一回転させるときはどうしてもぎこちない動きになるが、それ以外は初めてにしては上出来だ。
「んじゃ次ね」
カナミの番だ。
蓮の手を取る。運動していたからか緊張のせいなのか、蓮の手のひらは汗ばんでいて、本人もそれを気にして、
「ご、ごめん――」
目を逸らす。
「あは、照れてんじゃん」
からかいつつ、ダンスを終えて麗奈にバトンタッチ。麗奈と組んでも同じ調子で、
・蓮くんギクシャクw
・美少女JKと手を取ってダンスとか、誰でも緊張する
・私もこの3人とだとドキドキしそうw
・男子校出身のワイ、血涙を流してる……
・強く生きろw
1周して、また蓮と結乃のコンビに戻る。
「おかえり、蓮くん」
「た、ただいま」
・蓮くんのオアシスw
・やっぱゆのちゃんよ
「ねーねー麗奈、リスナーさんたちこんなこと言ってるけど?」
「まあ失礼ですわ」
麗奈もようやく緊張が解けてきたのか、2人でリスナーをからかう。
「私たちはモブか~」
「引き立て役なのですわね……」
・あっw
・ごめんなさい!w
・2人も可愛すぎるから! ね?
・じゃあカナミちゃんは俺がお相手しよう
・レイナお嬢さまは俺が
・お前らには無理やw
・どっちも高嶺の花なんだよなぁ
そして2周目。
蓮は、ふたたびカナミのもとに。ぎこちなく構える蓮の掌に手を合わせると、小さい手がビクッと反応する。
「まーだ緊張してるん?」
「べ、別に……!」
意地を張るところが面白くて、もっとつつきたくなる。リスナーのチャット欄も気になるし――
と、ウィンドウに視線をやったのがいけなかった。
慣れない動作のせいで、足がもつれた。
「っ!? やば――」
ステップの最中。
バランスを崩して横方向へと倒れそうになる。
このまま蓮と手を繋いでいたら彼を道連れにしてしまう。カナミは反射的に蓮の手を離そうとする――が、それまでビクビクと添えられるだけだった蓮の手が、逆に、強く握り返してきた。
「――――っ!?」
崩れたカナミの体重を下からグイッと支えて、乱れたステップにアドリブで足を合わせてくる。
完璧なフォロー。
端《はた》から見るぶんには、カナミが倒れそうになったことすら分からないだろう。せいぜい、ダンスにアレンジが入ったと思うくらい。
「う、うそっ、マジ……!?」
そしてそのまま、何事もなかったかのように既定のダンスに戻る――いや、蓮のリードによって自然と、けれど強引に引き戻される。
「中1くん――」
驚いて見下ろす。
蓮は上気した顔のままこちらを見上げて、優しい声音で、
「足、ケガしてない?」
「う、うん……」
カナミはそう答えるだけで精一杯だった。
+ + +
今夜の配信はダンス練習のあと、4人で軽い雑談をして好評のまま終わった。
結乃と麗奈はスマホと三脚を片づけに掛かっている。それを手伝おうとしている蓮の腕を、ツンツンと突いて呼び止める。
「? なに?」
「あのさ。中1くんって結乃のことガチで好き?」
「はっ!? な、なに急に……!?」
驚きつつ蓮は声のトーンを落とし、チラチラと背後の結乃のほうを気にしている。
「……そういうのは、ちゃんと口に出しといたほうがいいよ。結乃のこと狙う男も増えてくるだろうし」
「そ、それは――」
「んでさ。中1くんのこと好きになる女も多いと思うからさ。改めて宣言しとくの、意外と大事ってこと。『自分には隙なんてないぞ』って、他の女に分からせとかないと。勘違いさせないようにもさ」
「う、うん……?」
納得できていなさそうな蓮の頭を、カナミはポンポンと叩いて、
「ほら片づけするよ」
努めていつもどおりの顔で、年下の王子様に笑いかける。けれど、両手には蓮の力強い感触がずっと残っていた。
113
お気に入りに追加
588
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる