最年少ダンジョン配信者の僕が、JKお姉さんと同棲カップル配信をはじめたから

タイフーンの目

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第5章 夜も激しくなりそうです

第67話 ダンス(前編)

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 ■ ■ ■

 それは蓮がシイナの動画を見た翌日――

 宮前カナミは寮の食堂で、箸を握りしめたまま夕飯に集中できずにいた。

 原因は分かりきっている。すぐ右隣から聞こえてくる、こんな会話のせいだ。

「蓮くん、今夜もする?」
「僕はするつもりだったけど」
「やった! お風呂に入ってからしようね」

 本人たちは周囲に気をつかうでもなく、自然に、ごく普通の音量で話し続ける。

「あ、でも蓮くん、いつもいっぱい汗かいちゃうから、お風呂は後のほうがいいかな?」
「結乃もいつも汗かいてる」
「えー、蓮くんほどじゃないよ。でもそっか、2人ともびしょびしょになるかもね。お風呂はあとにして、お部屋に戻ったらすぐにしようか。お昼は蓮くんにリードされてばっかりだったから……夜は私ががんばるね!」

 2人はひょいひょいと食事しながら、会話を続けている。 

「今度、お休みの日の前とか、じっくり長時間してみたいね」
「大きな声出さなければいいんじゃない?」
「蓮くん、ヘトヘトになるかもね」
「がんばる」
「私、体力の付くお夜食作ろうかな?」
「……長時間やりすぎると興奮して眠れなくなるかも。結乃が」
「蓮くんはいつも、終わったあとは疲れちゃってすぐグッスリだもんね。可愛い寝顔で――」


「あの2人ともさァ⁉︎」


 耐えきれずカナミが声を上げる。

「それ配信の話だよね、念のため⁉︎」

 言うと、2人はキョトンとした顔を向けてくる。……なんだかこの2人、だんだん似てきたような気がする。

「そうだけど――?」
「他になにがあるの?」
「『配信を』ってきちんと言ってくれないとさぁ! みんなソワソワしてんじゃん!」

 周囲の女子生徒たちが、頬を赤らめてうつむきながら、うんうんと首肯している。

「特に麗奈が!」
「わっ、私ですの!? 私はそんな――」
「こないだ『はかどりますわ~』とか言ってたじゃん」
「宮前さん!? シーっ! シィーっ! ですわ!!」

 
 お部屋配信をするようになって、蓮と結乃の仲はよりいっそう縮まったようだ。

「配信って言えばさ、中1くん。昨日のコラボ配信ってけっきょく何で延期になったん?」

 アイビスの人気配信者シイナと、新進気鋭のエース蓮のコラボは期待されていただけに、延期になって残念がっているリスナーは多いし、カナミもそのうちの1人だ。

「寝坊……」
「あー、ありそう」
「ありそうなんだ?」
「シイナってそーゆータイプだし。割とフリースタイルな配信者」
「ふーん」
「でも蓮くん、今度戦うんだよね」

 と、結乃からの補足。

「お? 今度こそコラボ?」
「いや――」

 蓮が言うには、今度のナイトランセンス試験でシイナと対戦することになるらしい。

「うぇ、マジで? シイナって夜嵐ってスキルがやばいんだよね」
「――見た」

 蓮はいつもどおり素っ気ない口調だが、どこか楽しそうにも見える。

「たしか【双銃の舞踏家】だっけ。あのドレスで戦うやつ」
「美しいですわよね」
「……2人とも知ってるんだ」
「有名だし。私たちだって配信者志望なんだし? チェックしてるってー」

 さすがにあの戦い方は真似しようとは思えないけれど。あんな、とんでもない魔力量と精密な風魔法のコントロールが必要とされるスキルなんて簡単に再現できるものじゃない。

「ダンスってゆーか、カオスって感じのスキルだけど」
「ダンスなら得意ですわー」
「麗奈のは上品なやつっしょ? 上流階級がやるやつ」

 カナミは一般家庭の出身だが、聖華女子校には生粋のお嬢さまも多く在籍している。

 しかしダンスといえば……。
 カナミは閃いた。
 
「そだ。中1くん。ダンスの練習しとかない?」



  + + +


 れんゆのの夜配信は、今夜は寮のミーティングルームで開始された。

「ゆのでーす」
「蓮です……」

 体操服姿の2人が、三脚に設置されたスマホの前で自己紹介から入る。

「今日は特別ゲストにも出演してもらうことになりました」

 もうすっかり慣れた調子で結乃が進行する。

「じゃあ2人とも、来てくださーい」

 言われて、カナミと麗奈がフレームインする。

「こんばんは~!」
「ど、どうも初めましてですわっ」

 カナミは、スマホに向かってダブルピース。隣に浮かぶ空中ウィンドウでは、蓮のリスナーのチャットが次々と、


・うおおおおおお!?
・JKが増えた!?
・何事!?
 
 カナミと麗奈はこれが配信デビューだ。

 結乃のようにアイビスと契約を交わしているわけではないのでバイト代が出るわけでもないし、自分のチャンネルを持っているわけでもないので、本当にただのゲスト出演というだけの存在。

「こっちはカナミ、私とは中学の頃から一緒で――」
「どーもー」
「こっちは麗奈ちゃん。今年から同じクラスになって」
「よ、よろしくお願いしますですわ……!」
「2人とも探索科で、部活もダンジョン探索部なんです」

 蓮の左にカナミが立ち、麗奈は右に。
 結乃は蓮の背後で両肩に手を置いて――というポジショニングだ。

・ギャルとお嬢さま!
・聖華女子校だっけ? レベル高いとは聞いてたけど……
・蓮くん、女子高生のお姉さんたちと何するつもりなんだ
・いやむしろお姉さんたちが蓮くんになにするつもりだ!?

「3人で、毎日ここで蓮くんと……」

・蓮くんと!?
・毎日なにを!?

「た、ただの戦闘レッスン……!」

 お姉さん3人に囲まれて縮こまっていた蓮が必死に訴えかける。

・戦闘レッスン(意味深)
・蓮くんによる手ほどき……ゴクリ
・お姉さんたちが教え込まれてるのか

「中1くん、教えるのもメッチャうまいんだよね。ねー、麗奈」
「え、ええっ。それはもう、手取り足取り……丁寧に!」

 麗奈はテンパり気味に答える。

「それで、今夜は蓮くんに、逆にレッスンをしようかなって思ってます」

 結乃が言う。

「私たちの高校、来月体育祭なんです。その中で『フォークダンス』があって」

・女子校のフォークダンス?
・女子同士でやるのか
・まさか蓮くんも出るの!?

「さすがに蓮くんは入れない……と思うけど。でも蓮くん、今までフォークダンスしたことがないってことなので」
「せっかくだからウチらの練習のついでに、中1くんにも教えたげようと思って」
「ひ、日頃のお礼ですわ」
「…………」

・蓮くん、もう顔が緊張してるがw
・蓮くんの心臓が耐えられるのか……!?w

 リスナーの指摘するとおり、蓮は横顔を見るだけでもガチガチなのが分かる。

(戦ってるときはけっこーカッコいいくせに)

 と、微笑ましくなる。
 もっとも、『カッコいい』とは言ってもあくまで客観的な話だ。

 カナミの理想のタイプは、年上の頼れる男性。恥ずかしくて誰にも言ったことはないが、少女漫画に出てくる王子様のような男性に憧れを持っている。

(ホント、絶対言えないけど)

 普段、蓮と結乃の恋愛事情や、麗奈のピンク思考をからかっている身としては、自分がそんな夢見がちなタイプだと白状できない。

 ともかく。

 年下の蓮はからかうと面白くて、ダンジョン配信者としては先輩だし戦闘を教えてくれているのにも感謝しているけど――せいぜい、可愛くて優秀な『弟』といったところだ。

 実際、カナミにも5つ下の弟がいる――蓮より1つ下の小学6年生弟とたいして変わらない男子は、さすがに恋愛対象にはならない。

(中1くんと結乃のダンス……盛り上げなくちゃね)

 弟の恋愛を応援する姉の気分で、カナミは体操服の半袖をまくり上げて、気合いを入れ直した。
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